訴訟から医療の現場まで…AIで変えた男4
株式会社FRONTEO・守本正宏社長に聞く「飛躍のアルゴリズム」。4つ目のキーワードは「ヘルスケア分野で日本の課題を解決!?ベテラン看護師の『勘』を再現する挑戦」。守本氏が語る人工知能のある医療の現場とは。
■電子カルテから“予兆”を見抜く
当社は、ヘルスケアの分野にも活用しているんすけど、要は、言葉ではない専門化の“暗黙知”を学ぶということです。弁護士さんだけじゃなくて、例えば、お医者さんと看護師さんの感覚、暗黙知を学べるだろうということです。
現在は、看護師さんが書いている電子カルテにある自由記述の看護記録から患者さんの容体変化を見て、リスクの予兆を早く発見して防いでいく。こういうソリューションを今開発中です。
――わかりやすい例として、転倒転落の予兆する電子カルテの例を用意しました。「1.落ち着かない様子でカバンを持って外出しようとしていた。」「2.歩行器で歩けるがふらつきがある。立ったり座ったり落ち着かない。」そして、“転倒転落の予兆”とありますね。これらは、看護師の観察記録などから、この患者さんが転倒転落をしやすいというベテラン看護師の見解を予測できるということなんですよね。
実際にこの転倒転落という事故が起こりそうだということを、ベテラン看護師さんに学ぶんですけど、これは可能性があるということですね。人工知能にインプットしてあげるんです。すると人工知能は、「ベテラン看護師さんはこんな感覚を持ってるんだ」「これは怪しいと感じるんだ」ということを学んで、その他の大量の電子カルテの中から観察記録を見つけ出して、怪しい予兆を見つけていくと。もう、2日、3日ぐらい前にはだいたいわかるということまでできています。
■言葉ではなく“感覚”で見つける
――例えば、これには「落ちつかない」ですとか「ふらつきがある」とありますが、キーワードで見つけているのでしょうか?
そういうわけではないんです。例えば、仮に1の記述を教師データとして学ばせたとしても、人工知能は2の文章を見つけ出すことができるんです。言葉や行動そのものは違うんだけど、「怪しい」という感覚だけを見つけてくるので、2のような文章もたくさん出します。
ある例では、「カテーテルを抜いた」という行動があって、確かに怪しい行動なんですが、教師データには言葉がなくても人工知能は「やっぱり怪しい」という感覚を学んで見つけ出すんです。患者さんの容体は日々違うので、定義づけがやはり難しいんですね。感覚を学んだ方が精度が高いんです。
――場合分けをして全ての場合を教え込むよりも、判断基準を教えるということですね。
しかも、判断基準が言葉にならないというところ。それを学べるのが我々の人工知能の特徴になります。
■人工知能で無くす“医療格差”
――これらのものを具体的に、実用化を目指しているものなどありますか。
現在、これに関しても年内中の実用化は目指しているんですけども、ひとつ我々が今やろうとしているのは、“がんの個別化医療”のシステムですね。
これも、やはり色んな情報が偏って、実際に正しい判断をしなければいけないのに、情報がないためにできなかったりというのを、我々の人工知能が“スーパードクター”の感覚を学んで、それをあらゆる場所でも同じようなレベルの診断ができるようにしていこうというシステムになります。
――特にそのヘルスケア分野にいま力を入れようとされているのはなぜなんですか。
結局、スーパードクターがいるとか、情報がちゃんともらえるとかいう場所に、たまたまその患者さんがおられれば病気は治るんですけども、必ずしもそうではなく、格差がある。
それをしっかりと我々の人工知能でカバーして、あらゆる人に“正しい医療が提供できるシステム”をご提供したいという思いがありまして、この事業にいま力を入れているところです。
――がんの個別化医療を実現するシステムというのはどれぐらいの期限をメドにしていますか。
2年以内で実用化を目指しております。
――地域格差なども少なくなるかもしれませんよね。
そうですね。これは早く実現したいと思っております。