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“がん患者の家”マギーズ東京が目指すモノ

2016年10月11日 19:56
“がん患者の家”マギーズ東京が目指すモノ

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。11日のテーマは「“第二の家”」。日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。


■発祥はイギリス「マギーズセンター」

 がん患者を支援する施設「マギーズ東京」が10日、東京・江東区にオープンし、イベントには塩崎厚労相も出席した。NPO法人が設立したマギーズ東京は、がんを告知された患者やその家族が、常駐する看護師や臨床心理士に家庭的な空間で相談できる場所だ。

 訪れるには予約もお金もいらず、医療スタッフは白衣を着ないので、がん患者にとって気軽に集まれる“第二の家”のような場所を目指している。

 こうした施設は元々、イギリスにあるがん患者のサポート施設「マギーズセンター」が発祥で、マギーズセンターはロンドンやエディンバラなどイギリスに18か所、さらに香港などにも広がり、その日本版第1号がマギーズ東京だ。

 日本のスタッフはイギリス本国のマギーズセンターで研修を行い、理念や運営方法を学んだという。その理念は「がん患者に何かを教えたり指導したりするのではなく、まずその人の話によく耳を傾ける」ということだ。


■恐怖や不安を分かち合えない「がん患者」

 がんと宣告されると恐怖や不安をなかなか人と分かち合えず、一人で苦しむ人が多くいるという。国立がん研究センターの研究では、がんと診断されてから1年の間に自殺する人の割合は一般の20倍以上にもなるというデータがある。

 国も標準的ながん治療ができる「がん診療連携拠点病院」として指定した全国399の病院には「がんに関する情報を提供したり患者の相談に乗る相談窓口を置いたりしなければならない」と規定してはいる。

 しかし、病院にある相談窓口は会議室のような、くつろぎづらい場所だったり、予約制だったり、具体的な相談がないと行けなかったりとハードルが高く、患者がもっと気楽に相談できる場が求められていた。

 それだけに10日にマギーズ東京を訪れた、がんを経験した人からはこんな声が聞かれた。

 「診察室だと限られた時間で質問しないといけないので、ふらっと来て話を聞いてもらえたら、すごく安心できる」

 「友達に重い話をしてもリアクションに困ってしまう方が多かったので、病気のことは病気の仲間に共有したい。きょうはここに泣きに行こうとかできて、すごく良いと思います」


■がんになっても自分らしく生きる

 マギーズ東京を設立した秋山正子さんと鈴木美穂さん。鈴木さんは日本テレビ報道局で働いていて、がん経験者でもある。2人は「がん患者が自分らしさを取り戻すきっかけを作りたい」と設立に込めた思いを語っていた。

 実は「がんになっても自分らしく生きる」ということは今、大事になってきている。というのも、がんと診断された人の「5年生存率」は医療の進歩に伴って年々高まっていて、今は6割以上ががんになっても生きられるようになった。

 これまでのようにがんの不安にとらわれるだけではなくて、「がんになった人生をどう生きるか」と考えられる時代になりつつあるという。


■がん経験者に“おめでとう”

 欧米では、がんを経験して初めて命の大切さや周りの人の大切さ、かけがえのないものに気付けたという意味で、「Cancer Gift(がんがくれた贈り物)」という言葉がある。

 また、同じ意味で、周囲ががんを経験した人に「あなたは大切なものに気付けたね。Congratulations(おめでとう)」と声をかける習慣がある。


■がんの陰に隠れない

 乳がんで闘病中のフリーアナウンサー・小林麻央さんはブログに、こうつづっている。

 「がんの陰に隠れないで、一度きりの人生だから、なりたい自分になる」

 「がんでも自分らしく生きよう」という思いを多くの患者さんが持てるよう、がんの人もがんでない人も支え合っていけたらと思う。