政府の景気“公式見解”=月例経済報告を読み解くと…~日本のイマと消費現場でおきていること~
食品、生活必需品から嗜好品まで、私たちの身近なものの値上げが止まりません。政府は月に1度「日本の景気のイマ」を表す統計を発表しています。その結果と私たちが暮らす消費の現場では同じ状況が起きているのでしょうか?
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食品の「販売価格値上げのお知らせ」光熱費の「値上げ」ブランド物の「価格改定のお知らせ」…肌感覚では日本の景気が悪い方向に進んでいるような気がするけど、実際どうなっているの?そんな疑問を解決してくれる日本経済の「イマ」を一言で表した統計があるのはご存知ですか?それは内閣府が出す「月例経済報告」です。日本政府が月に1度景気に対する公式見解を示す報告書になります。
■日本経済の「イマ」を一言でいうと…
政府はその報告書の中で4月の景気総括の判断を『持ち直しの動きがみられる』と上向きに修正しました。コロナの感染状況が依然高止まりではあるものの、今年3月下旬にまん延防止等重点措置が全国で全面解除されたことが要因です。
このように月例経済報告の細かな表現の変更を見れば日本経済が今どのような状況なのか推察することができます。
今回の上方修正の大きな要因は、「個人消費」が4月にかけて徐々に改善していることにあります。特に外食や旅行などのサービスが上向いているのです。実際の消費の現場はどうなっているのでしょうか。
■旅行にライブ…利用客3割増も…
羽田空港近くの飲食店『HANEDA SKY BREWING』。まん延防止等重点措置が解除されてから、客足が徐々に戻ってきているといいます。空港近くにあるため旅行客の利用が増えただけではありません。
実は重点措置の解除で、隣接するライブ会場で頻繁にライブが開催されるようになったこともあり、店の利用客は、以前と比べておよそ3割増えたといいます。
しかし、新たな問題が社長の頭を悩ませています。それは、原油高騰などの影響で料理に使う原材料の輸送が遅れたり止まったりしていることです。
この店は自家製ビールが売りで、酒のおつまみとして生ハムのプロシュートが人気だといいます。しかし、この生ハムについて先日卸業者から「輸送が遅れていて、来月からしばらく入ってこない。今ある分を何とか使って耐えてほしい」と連絡が入ったといいます。
しかし、社長は「生ものなので、今あるものを調節して使うといわれても実情は本当に難しい」といいます。そこで店では新たに国産の旬の野菜を多く使ったメニューに変えることを検討しているといいます。
こうした輸送の問題に加え物価の上昇が大きな影を落としているのです。
■サーモン、マグロも…チラシは手作りに
関東に6店舗あるスーパーチェーン「アキダイ」の社長は「10年かけて値段が上がってきた商品が最近は数か月で上がることもある」といいます。
例えば、輸入物のサーモンは価格が上がり、輸入物の本マグロは入荷すらしなくなっているのです。物価の上昇を価格に転嫁することができず、店ではチラシの折り込み広告を手作りに変え、店頭に置くようにするなどして経費を削減しています。
しかし、商品などの輸送費だけでも経費は1年前に比べると月30万円以上は増えていて、結果として利益も落ち込んでいるとのこと。
社長は「日曜日の朝に特売をやっているが、お客さんが100人くらい行列を作る。こんなに並ぶことは今までなかった。お客さんも努力しているので、店側としてもできる限り自助努力を続けるしかない」と苦しい胸の内を明かします。
コロナが落ち着きを見せ、旅行や外食が増えても、新たに原油価格の高騰や物価の上昇、ウクライナ情勢といった問題が起きています。それは政府や専門家が当初想定していたより深刻な状況だといいます。
■“リベンジ消費”は物価上昇を救う?
今後の日本経済はどうなるのでしょうか?三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏は「物価が上昇して家計が苦しくなってもそれがすぐ個人消費の落ち込みにつながるわけではない。それは『リベンジ消費』があるからだ」と言います。
リベンジ消費とはコロナ禍でこれまで我慢していた消費や行動を起こすことです。総務省の統計によるとコロナ禍の自粛で標準的な家庭では年間約20万円支出が抑制されています。
さらに、政府からの特別定額給付金の支給も加わって、合計60万円以上の資金が余剰となり、そのまま貯蓄に回っているといいます。
小林氏はこうした貯蓄を外食や旅行といった対面型サービスに回す機会が増えて個人消費は今後も伸びていくと予想しています。
ただ、政府は「円安、物価高、ウクライナ情勢は不確実性がある。個人消費は当初想定していたよりも一気に回復しそうにない」と予測しています。
4月末までに岸田政権がまとめようとしている経済対策は、こうした原油価格の上昇や物価高騰への対策です。結果が伴う中身が求められます。