異色の社長、“松竹”復活への軌跡 3
松竹株式会社社長の迫本淳一氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。3つ目のキーワードは、「歌舞伎復活と松竹の原点『お客様の反応は?』」。漫画「ワンピース」を原作とする演目が話題になるなど、着々と裾野を広げつつある歌舞伎。どのような戦略があるのか。
■伝統芸能でも、常に視点はお客様
――松竹には日本の伝統芸能である歌舞伎がありますよね。
はい、いま本当にみなさんに喜んでいただいているんですが、昔は本当に歌舞伎の無料招待券をまいてもまいても、半分もお客様が来ない時代もあったので、今、本当にありがたいと思っています。
――歌舞伎座がリニューアルオープンして5年ですが、今も本当に好調ですが、その秘けつはどういったところにあるんでしょう。
本当にお客様に来ていただいてありがたいと思うんですが、やはり伝統的に歌舞伎もお客様やマーケットに向けてきたということがあるんじゃないかと思います。国内公演に関しては国から助成を受けてないし、寄付もないので、そういった中で400年前の伝統芸能をやっているのは世界でもたぶん歌舞伎ぐらいしかないと思うんですよね。
創業者の大谷竹次郎が、息子に歌舞伎を見た感想を聞いたときに、「こういう芝居だった」「役者さんはこうだった」と答えたら、「そんなこと聞いてない、お客さんの反応を聞いているんだ」と言ったという話があります。そのように、お客様、マーケットに向けてやってきたという先輩たちの努力がいま実っているんじゃないのかなと思います。
■コアなファンも評価“ワンピース歌舞伎”
――最近、市川猿之助さんが漫画の「ワンピース」の歌舞伎を上演していましたが、かなり裾野が広がったんじゃないでしょうか。
そうですね。ですからマーケットを広げるという意味においては、お子さんが見ていただくことは大変有り難いことで、今の歌舞伎のコアファンの方々は小さな時に何かしら歌舞伎に関わった経験がある方が多いんですよね。だからそういう意味でも本当にうれしかったですね。
――伝統を重んじる歌舞伎の世界で、漫画を原作にするというのは、反対意見などはなかったのでしょうか。
昔からそういう漫画の話ってあったんです。その時は実現できなかったんですけど、(今は)本当にそれを実現できるような社内の人材がそろっていたということだと思うんです。歌舞伎をご覧いただいてるコアなファンの方々からは、かなりお叱りを受けるかなと思っていたんです。そういう方々からも結構喜んでいただいたので、本当に良かったかなと。
■「マーケットを広げる努力は怠らない」
――それ以外にも新たな取り組みを続々としていらっしゃると思うんですけど。
子供の歌舞伎ファンを育てるという意味では、「NARUTO」などもやってますし、それから寺子屋という子どもに歌舞伎を教える教室をやっていて、歌舞伎の所作やセリフ回しを教えています。あと、サンリオさんとピューロランドでかわいい歌舞伎(KAWAII KABUKI)というのをやったり、少年歌舞伎をやったりしています。そういうマーケットを広げる努力というものはものすごくしてます。
――伝統文化を大事にしつつ新たなチャレンジを続けているということなんですね。
そうですね。