離れた場所“つなげて”世界を変える男 1
様々なジャンルのフロントランナーからビジネスのヒントを聞く「飛躍のアルゴリズム」。今回のゲストは、株式会社ブイキューブ代表取締役・間下直晃氏。働き方改革が進む中、注目されているひとつがWeb会議システム。このサービスを生み出した背景には、間下氏の経験と行動に基づいた確かな勝算があった。(聞き手:青木真波記者 日本テレビ報道局・経済部)
【間下直晃氏プロフィール】
1977年東京都新宿区生まれの41歳。慶応義塾大学理工学部在学中の1998年、20歳の時に企業のホームページ制作やシステム開発を行うブイキューブインターネットを設立。その後、Web会議サービスの提供へと事業を転換。2012年12月からはシンガポールに移住し、海外での事業拡大を、自ら先頭に立ち進めている。ブイキューブはその翌年の12月に東証マザーズに上場、2015年7月には東証一部に市場変更している。
■学生時代にHP作成、全てはそこから始まった
――1つ目のキーワードは「ホームページ制作からテレビ会議に。きっかけはアメリカ進出」。間下さんは初めに会社を作ったのは、大学在学中の20歳の頃だったということですが、きっかけはあったのでしょうか。
学生になるとアルバイトをしますが、どうも人がやっている普通のアルバイトをしたくなくて、何か違ったものはないかと探していたんです。20数年前ですから、インターネットがまだ世の中に始まった頃です。ホームページはまだ一般的ではなかったのですが、ホームページを作りたいという声をいただいたんです。当時は、今みたいにレベル高くないですから簡単に勉強すればできちゃったんです。
――もともと知識はあったんですか?
理工学部にいましたし、パソコンは家にもありましたので、そこの知識を使いながら少し勉強して2週間かけて作りました。今の時代は、立派なホームページがありますが、当時は写真とテキストがあったら十分なんです。2週間で20万円もらえました。
――それはすごいですね。
学生の20万円はとても大きいと思います。それと同時に自分たちがやったことに対してお金をもらえることが、すごくうれしかったんです。
■就活の時期には、すでに会社が軌道に
――当時の時代背景とかインターネットが普及し始めたというのもまたポイントだったと。
そうですね。まだまだ世の中でインターネットが一般的になっていない時代ですから、実は20万円ってお客さんからするとものすごく安かったんです。当時の相場は多分200万くらいだったろうと、後になってわかったんですが、200万のものも私たちが作ったのもあまり変わらなかったんです。お客さんからすると、とても安いのにちゃんとしたものを作ってくれるということで、どんどん紹介で広がっていったというのが始まりですね。
――就職活動は考えなかったですか。
実は就職しようと思っていました。ただ、就職活動する時期、2001年の頭ぐらいですね、この時によく見たら自分の社内に正社員がいると…これは辞められませんよね。しっかり続けていかなければいけない。そして軌道に乗っていましたから、辞めてまた一から会社に入るのもどうなのかなと思いまして、就職活動をやめて、そのまま本格的にやっていこうということで株式会社にして展開を進めていったというかたちです。
■「Web会議」は自分たちが欲しかったもの
――その企業のホームページ制作が発展した形から始まった会社ということなんですが、今のブイキューブはテレビ会議とかWeb会議のサービスが主力事業になっているそうで。なぜこの事業を主力に?
実は2003年にアメリカにオフィスを開いています。ブイキューブUSAという会社で今も展開していますけど、当時は携帯電話のiアプリなどを開発していて、これをアメリカに持っていこうということで作った会社なんです。つくった途端に、日本とアメリカのコミュニケーションに困りました。小さな会社ですから、私が日本にいるとアメリカの仕事はとまり、アメリカにいると日本の仕事は止まるんです。
これはコミュニケーションをなんとかしなきゃいけない。でも、電話やメールでは埒(らち)があかないし、出張するにも限界があります。じゃあこれはテレビ会議だろうと。テレビ会議を買おうと思ったら1千万ぐらいかかるんです。
当時は安いものはありませんでしたから、我々の規模ではとても買えない。しょうがないからもう作るかということで、社内で相談をしていたら、作ってもらったのが簡単なパソコンで動く映像をやり取りするソフトウエアだったんです。これを私が使い、目の前の人間(現在のCTO)に、要望を出すと、どんどん良くなっていくんですね。半年もすると立派な、今でいうWeb会議の仕組みができ上がったんです。
――最初は自分の会社の海外進出で、テレビ会議が必要になったと。そこからシステムをどんどん進化させていったということですか。
そうです。で、ある時、気づくんです。これってもしかしたら売れるんじゃないか。これと同じことで困っている人はいっぱいいるのではと思い始めたのが2004年です。
そこからいわゆる市場調査やマーケティングで、いろいろなお客様に「こういうものはどうですか?」ということを話しはじめました。これが今まさにやっている本業の始まりなんです。
■「Web会議システム」の進化版とは?
――そうした中で、電話ボックス型のシステムも新しく開発されたと?
これはようやく昨年に出したテレキューブという仕組みで、こういう電話ボックス型の中に入って、電話ができたりとかテレビ会議ができたりするような仕組みです。
いま、働き方改革とかテレワークとかって言葉が世の中に浸透し始めましたが、実は我々がずっとテレワークなどを自分たちでやっているわけです。常に私もあちこち移動しながら会社とコミュニケーションを取って仕事を進めてきているわけですが、一番困るポイントは「場所がないこと」ですね。
例えば、家で何か仕事をする場合に作業はできますけど、家族がいると、テレビ会議とかって難しいですよね。じゃあカフェでできるかというと、騒がしかったり、大事なことは話したりできないんです。空港のラウンジでも電話は禁止です。
つまり、テレワークというけど場所がないじゃないかということに実は僕らはすごく困っていたんです。じゃあ、世の中が変わってテレワークが普及していくにしても、みんなこれに困るなと。これを解決できる仕組みを出そうということで作ったのがこのテレキューブなんです。
――秘匿性の高い会話もこれだったら大丈夫という面もありますよね。
そうですね。いわゆる普通の電話ボックスと違って、防音や空調も効いていますので、この中に入って静かな環境で、どこかとのコミュニケーションを取ることができると。こういったものがオフィス内にあれば便利ですし、家の中に置くのは難しいかもしれませんが、例えばショッピングモールや駅、空港、病院とかに置いてあると、働く場所とかが広がってくるわけですよね。