次世代原発“建設候補地”どこに ~“最後”の原発の町から見る次世代原発
2022年、原子力政策が大きく動いた。東日本大震災から10年以上、政府は新たな原発の建設を事実上凍結してきたが、いわばその「禁」が解かれることになったのだ。新原発が本当に建設されるとすれば、いったいどこなのか?
(経済部 岩田明彦)
■“最後”の原発 津軽海峡を望む町で“建設中”
2022年11月下旬、津軽海峡が見渡せる小高い丘から本州最北端の町を俯瞰した。ここは青森県大間町。高級マグロで全国的に有名な町だが、実はこの町に建設中の原発が10年以上もほぼ塩漬けの状態で置かれている。2008年に着工したものの、福島第一原発事故の影響を受け、2011年以降、工事は事実上中断されているのだ。
大間町でマグロ漁を営む漁師は淡々と答える。「大間のマグロ漁師は端から建設に反対してきた。正直、このままでも構わない」
東日本大震災の時点で着工から間もなかった大間原発。関係者の間ではいつしか、震災後新たに建つ原発は“大間原発が国内最後になるのでは”とささやかれるようになった。
■次世代原発「建設先の候補はもう、ある」
しかし2022年、政府は長く停滞していた原子力政策の舵を大きく切った。福島第一原発事故以降、「建て替えや新設、増設は想定していない」と歴代の政権が否定し続けてきた姿勢を大転換し、新たな原発を建設する方針を打ち出したのだ。中でも、既存原発をベースに安全性を高めたとされる「次世代革新炉」については、2030年代半ばには運転開始を目指すとしている。
ただ、一般的に原発を建設するには立地選定から用地買収、安全審査から運転開始まで、少なく見積もっても30年はかかるとされる。きわめて息の長い事業なのだ。まして東日本大震災と未曽有の原発事故を経験した日本で、新たな原発の建設計画を簡単に受け入れる場所があるのだろうか。
しかし、ある原子力関連企業の幹部は、この疑問に対しあっさりとこう答えた。
「建設用地はもう、ある。電力会社が腹をくくってくれれば、2030年代の半ばに運転開始は可能だ」
具体的な建設候補地は明言しなかったが、言葉の端々に「すでに話は進んでいる」、そんな印象を与える話しぶりだった。
■「候補は福井・美浜原発」と関係者
ここに経済産業省がまとめた資料がある。東日本大震災前に計画された、当時の国内で進んでいた“原発建設計画”のリストだ。
(1)中国電力 島根原発 3号機(島根・松江市)→着工済
(2)電源開発 大間原発(青森・大間町)→着工済
(3)東京電力 東通原発 1・2号機(青森・東通村)→1号機は着工済・中断
(4)東北電力 浪江・小高原発(福島・浪江町/南相馬市)→計画断念
(5)東北電力 東通原発 2号機(青森・東通村)
(6)日本原電 敦賀原発 3・4号機(福井・敦賀市)
(7)中国電力 上関原発 1・2号機(山口・上関町)
(8)九州電力 川内原発 3号機(鹿児島・薩摩川内市)
(9)中部電力 浜岡原発 6号機(静岡・御前崎市)
(10)関西電力 美浜原発 4号機(福井・美浜町)
このうち震災前に着工済みの大間原発と島根原発3号機、着工済だが中断した東京電力・東通原発1号機、計画自体を断念した東北電力の浪江・小高原発を除外すると、7つの原発建設計画が残る(東京電力・東通原発2号機含む)。これらは震災後目立った動きはないものの、電力会社は計画自体を撤回していないため、現在も「進行中」の計画だ。つまり7原発はすでに原子力発電所としての敷地があるだけでなく、震災前とはいえ原発建設計画を示していることから、地元理解も比較的進みやすいのでは、という素地がある。
そして7原発の中で、原子力規制委員会による立地の安全審査に既に合格していること、廃炉中の原子炉があること、という2つの観点から、次世代原発への“建て替え”を考え得る原発は、一つに絞られてくる。それが福井県にある美浜原発だ。こうした見立てに基づいて、原発関連メーカーや専門家など関係者の間では、この場所に新たに原発が建設されるのではとささやかれているのだ。
■“核のゴミ”問題 再び先送り
原発の新たな建設にむけた議論の陰で、再び先送りされた問題がある。それは、日本が原発を利用し始めた当初から解決されない、高レベル放射性廃棄物、いわゆる“核のゴミ”の最終処分場の問題だ。
“核のゴミ”からは、近づけば人が死に至るほどのきわめて強い放射線が出ているため、無害化されるまで最終処分場で10万年の隔離が必要とされる。日本は1960年代に原発を利用し始めてから現在に至るまで、膨大な“核のゴミ”を抱えているが、その最終処分場をどこにするか決まらないのだ。福島第一原発事故を機にこの問題の議論は進むかに見えたが、今回の政策転換でも具体像は見えていない。
新たな原発の建設は、エネルギーの安全保障と脱炭素のための「現実解」との見方もある。しかし“核のゴミ”の最終処分場という厄介な問題を、再び先送りしていることを忘れてはならない。