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鉄道再考〜「全線無料で利用客を取り戻せ!」 滋賀県・近江鉄道インタビュー【藤田アナの日テレ鉄道NEWS】

2022年12月20日 14:59
鉄道再考〜「全線無料で利用客を取り戻せ!」 滋賀県・近江鉄道インタビュー【藤田アナの日テレ鉄道NEWS】

滋賀県彦根市に本社を置く近江鉄道は、少子高齢化や車利用の増加などにより、28 年連続の赤字が続いています。2024 年からは列車を運行する会社と、線路や駅などのインフラを管理する自治体とを分けた「上下分離方式」での存続が決まったものの、不安材料は山積です。

こうした中、10 月 16 日、採算度外視の 1日限定・電車乗り放題イベント「全線無料デイ」を実施しました。“片道最大 1050 円の運賃全線無料 を全て無料にする”という取り組みの結果、この日の利用者は通常の12倍ほどに増加し、大きな反響を呼びました。

今回、近江鉄道・鉄道営業課の石原一磨さんが日本テレビに来社。熱気に包まれた当日の様子を、日本テレビ・藤田キャスターが聞きました。

取材・文 藤田大介(日本テレビ アナウンス部)
(写真提供:近江鉄道)

■初乗り160円を0円に、片道最大1050円も0円に――電車も駅も人混みは山手線並み!

――「全線無料デイ」を開催されましたが、いかがでしたか?

近江鉄道・鉄道営業課の石原一磨さん
「 当社の 126 年の歴史の中で初の取り組みでした。当日は約3万8000人という大変多くの方に乗車していただき、利用機会を増やすという意味では大成功に終わったと感じています。当日まではどれだけのお客さまにご利用いただけるか不安な中、当日を迎えましたが、本当にうれしい限りです」

――初乗り運賃が0円に?

「はい、全線で無料です。当社はワンマン運転なので、無人駅では先頭車両の運転士が運賃の収受をするんですが、この日は全駅全ての扉を開き、乗り降りしていただきました」

――ファンの心をくすぐりますね。どんな光景でしたか?

「都心の朝のラッシュのような人混みでした。私は滋賀県出身ですが、もう全然見たことないような光景で驚きました。ドアというドアから、またホーム上もすごい人であふれ、想定を上回るぐらいの人数で、非常にうれしかったですね」

■「全線無料デイ」で

――なぜ「全線無料デイ」を行おうと思われましたか?

「当社の沿線にお住まいの方は多い一方、(鉄道は)赤字が続いています。沿線で利用されていない方にもぜひ一度、乗ってもらい、利便性など感じていただきたい! 乗車体験の機会を作りたかったのです。実はかつて熊本県で一度、無料の実証実験が行われたことがあり、そのデータを参考に進めました」

――実際に熊本では九州産交グループなど、県内ほぼ全てのバスや電車が1日無料となった日が2019年にありましたね。

「熊本のデータでは3倍ほどの利用者で、当社もそのくらいを想定していましたが、大きく上回る12倍という結果でした」

――3倍の想定が12倍!?

「データをとると、ほとんどが滋賀県内の方や沿線住民でした。中にはお子さんを連れてこられた方や、『学生時代しか乗らなかったが、この機会に何十年ぶりに乗った』などうれしい声を聞きました。そういった方たちが沿線にたくさんいるんだなと気づきを得られました」

■なぜ沿線住民は電車に乗らないの?

――どうして近江鉄道さんを利用する方が少ないのでしょうか?

「滋賀県自体が自動車社会になっているからだと思います。JRの駅に行くにも車で行ったり、通学する時も親御さんが学校まで送迎したり…車文化が根づいているのかもしれませんね。各駅からの交通手段も、利用者が減るとバスは減便せざるを得ません。当社もいろいろ施策を打っていかないとならないと思っています」

――近江鉄道さんはどのような企業努力をされていますか?

「当社の駅の近くに大きい工場があって、『近くに駅を作ってほしい』という要望に応じて社名がついた駅を設置しました。例えばスクリーンさんという会社の最寄りに『スクリーン駅』。またエレベーター等のフジテックさんは『フジテック前駅』を設置しました。その部分でも通勤客を得られているのではないかなと思います」

――なるほど! 通勤する人たちが利用しやすい駅を作る工夫をされているんですね。一方、ハード面を作ってもソフト面でも対応しなければ、利用者獲得はできないのではないでしょうか?

「確かに通学する学生さんは、黙っていてもなかなか電車に乗りません。滋賀県ではやはり自動車社会ですからね。そこで、例えば当社の駅の近くにある高校に、当社の営業部が高校の入学前説明会にうかがいます。そして中学3年生たちに、まず『通学定期というものは何なのか?』から説明をします。『学校がない日も利用できるんだよ』『親御さんの負担も減るんだよ』などメリットを伝えながら、利用促進を図っています」

――中学校を卒業した先輩たちが電車に乗って通学をしていく姿は、小・中学生からすると憧れの的になりそうですね。

「滋賀県ではまだ当たり前ではない光景ですからね。私も実は学生時代は自転車で通学をしておりまして、憧れた記憶が確かにあります」

――そこに火をつけるんですね。列車ダイヤも大事になってきそうですね?

「はい! ダイヤ設定は結構、神経を使う部分ですね。当社は地方鉄道ですので、本数は多くはありませんがJRと接続するような形で設定しています。また昔から沿線の高校と調整しながらダイヤを作成していると聞きます」

――「全線無料デイ」というのは、卒業した方々にも利用してほしいと呼びかけたことにもつながるんですね。

「そうですね。普段、通勤や通学に自動車を使っている方に利用いただいて、『学校も電車で行けるね』『通勤電車で帰れるんだ』など感じていただきたかったという思いがございます」

■“列車を捨てない”サステナブルな取り組み

――近江鉄道さんといいますと西武鉄道グループですが、西武鉄道さんの懐かしい車両が今も現役ですね。

「まさに今の時代でいうサステナビリティな取り組みをしています。中古車両ですが、廃棄せずに当社でも使えるように車両を改造しまして、公式のYouTubeに公開しています」

――驚きました! YouTubeで動画をあげて、視聴者や沿線住民からの反応は?

「コメントを読むと、『すごいな』『こういうことをやっているんだ』という反応がわかります。“魔改造”の再生数は特に多かったので、皆さん見たかったんだなと思いました」

――動画も収入源に?

「いや、収益化はしていません。今後も考えていないですね」

■沿線の長さは約60キロ! でも利用者は…

――近江鉄道さんの強みは何といっても“沿線の長さ”ですよね?

「当社沿線の距離は59.5キロあります。滋賀県には19の市町がありますが、当社の路線は10の市町にまたがっています。つまり、県のほぼ半分に路線があるんです。東京でいうと、西武鉄道の池袋駅から飯能駅が大体40キロちょっと…だからそれよりも長い路線なんです」

――西武池袋線なら特急までありますよね。

「当社は各停のみです!」

――路線の長さに加えて、たくさんの方が沿線にお住まいですよね?

「そうですね。住んではいるんですが…そこに利用者がなかなか追いついてこないというのもあります。そこに対してどのような取り組みをするかというのが、今後の課題です」

―― 10月16日「全線無料デイ」では、大勢のお客さまでにぎわいました。今後、どうつなげていくのか議論されているのでしょうか?

「はい。『無料デイ』の生かし方は検討段階です。そもそも当社の利用者数を増やす取り組みは『近江鉄道みらいファクトリー』というのがあり、近江鉄道の従業員と沿線の方々が一緒になって、どうやったら利用者が増えるのかタウンミーティングを繰り返しています。『YouTubeを立ち上げてみよう』だとか『駅にピアノを置いてみよう』『近江鉄道の歴史を知っていただくツアー』などアイデアが出ています」

■2024年、日本最大級の「上下分離」へ

――今、まさに正念場を迎えている鉄道会社が多い中で、近江鉄道さんも大変な状況です。そうした中、未来に残すため先日、大きな発表がありました。

「当社は28年連続、赤字を抱えています。そこで当社の線路が走っている市町さらに県にご相談をしながら、2024年に『上下分離』という形で切り替わる予定になりました。上は近江鉄道の運行、下の設備関係は県と市町で持っていただくという形です」

――規模はどのくらいですか?

「上下分離される鉄道会社さんはみられますが、近江鉄道は沿線の長さからして“日本最大級”の規模になります。ただ、それだけ沿線住民の方々が126年の近江鉄道の歴史に終止符を打たないでくれという声が大きかった1つの表れだと感じています。ただ皆様にも使ってもらいたい…」

――今後、沿線住民の方々、そして自治体との関わり方も含めてどのように歩みを進めていきたいですか?

「2024年に上下分離という形以降、当社は“運行”において、課題である利用者数を増やすというところに、より力を入れていきます。そして『沿線の皆様が利用したい鉄道』『必要とされる鉄道』というのを新たに目指すため、社内で考えながら進めたいと思っています。いま、鉄道が好きな人や、地域を盛り上げたい思いを持った新入社員たちが近江鉄道に入社してくれています。非常に心強いです」

――今回は、近江鉄道の石原さんにお話をうかがいました。ありがとうございました!

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