×

【解説】「USスチール」買収巡る訴訟の行方 日本製鉄側のメリットとバイデン大統領の狙いは?

2025年1月7日 20:15
【解説】「USスチール」買収巡る訴訟の行方 日本製鉄側のメリットとバイデン大統領の狙いは?

「日本製鉄」がアメリカの鉄鋼大手「USスチール」を買収する計画について、バイデン大統領が阻止する命令を出し、日本製鉄が無効を求める訴訟を起こしました。経済部・片山桂子記者と国際部・山崎大輔ワシントン支局長に話を聞きました。

   ◇

──日本製鉄は会見で「諦める理由も必要もない」と強調しました。そこまでする日本製鉄とUSスチールのメリットは、どこにあるのでしょうか?

経済部 片山桂子記者
「この買収計画は日本製鉄、USスチール双方に狙いやメリットがあります。日本製鉄側からみると、アメリカは鉄鋼製品の先進国最大級の市場規模で、今後も安定的な成長が見込まれています。日本国内での需要の拡大が期待できない中、USスチール買収でアメリカ市場を取り込みたい狙いがあるんです」

「一方のUSスチールは120年以上の歴史をもっている“名門”企業で、かつては世界最大の鉄鋼会社だったのですが、設備の老朽化や中国など海外メーカーとの価格競争などで業績は低迷してしまっています。日本製鉄は買収後も雇用の削減や設備の閉鎖、生産の海外移転は行わないと約束しているので、USスチールにとってとても良い条件といえます」

「2023年の世界の鉄鋼メーカーの生産量のランキングは、上位10社のうち6社を中国のメーカーが占めていて、世界4位の日本製鉄と世界24位のUSスチールが一つになると、単純計算で世界3位にジャンプアップできるんです」

──この訴訟で、日本製鉄が勝てる見込みはあるのでしょうか?

経済部 片山桂子記者
「アメリカの制度上、大統領による安全保障上の判断の根拠は一切、非公開とされているので、裁判を戦うための証拠をどう示すかが焦点となります。でも、橋本会長は『裁判で、大統領の判断が、憲法あるいは法令に明確に違反したものであるということが示されていくと確信している』と話していて、『勝訴のチャンスはある』と強調しています。もし裁判に負けた場合、今後の日本企業のアメリカ市場への投資判断などに大きく影響を及ぼす懸念もあります」

──アメリカのバイデン大統領が反対する背景には何があるのでしょうか?

国際部 山崎大輔ワシントン支局長
「ポイントは『労働組合』、そしてライバル企業の存在です。まず全米の鉄鋼業界の労働組合の会長は一貫して買収に反対しています。それからライバル企業『クリーブランド・クリフス』のCEOがUSスチールの買収を狙っていたのですが、日本製鉄に競り負けました。日本製鉄に買われるくらいなら、この話を潰してしまえ、ということで労働組合側と一緒になってバイデン大統領に働きかけを強めました」

「そして、バイデン大統領は自身を『史上最も労働組合寄りの大統領』と呼ぶなど、選挙でたくさん票を入れてくれる労働組合を強力な支持基盤としてあてにしてきました。しかも買収の時期は大統領選挙とちょうど重なった上に、USスチールの本社があるペンシルベニア州は、トランプ氏との選挙戦を左右するいわゆる『激戦州』でした」

──日本製鉄からすると、いろいろ悪いタイミングが重なったということですね?

山崎大輔ワシントン支局長
「そうなんです。ただ大統領選が終わり、バイデン氏の態度に変化が見られるのではという見方もありましたが、今後の選挙に向けて、労働組合を怒らせたらバイデン大統領の後継者や民主党に票を入れてくれなくなるのも困るという計算もあったとみられます」

「アメリカメディアによりますと、バイデン政権の中でも日本との関係やアメリカ経済の信用を落とすことを心配する閣僚らが、バイデン大統領を引き留めようとしましたが『アメリカ企業を守った功績』を自らの政権のレガシー=遺産として残したくて聞き入れなかったとの見方もあります」

──約2週間後にはトランプ政権が発足します。日本製鉄に巻き返すチャンスはあるのでしょうか?

山崎大輔ワシントン支局長
「トランプ次期大統領は、バイデン氏と同じく労働組合の票を得るため、『買収を阻止する』と明言していて、現在もその考えは変わってないので、方針転換する見込みは少ないとみられます」

──今後の展開はどうなるのでしょうか?

山崎大輔ワシントン支局長
「まだ裁判のスケジュールはでていませんが、買収の中止命令では30日以内に計画を破棄するよう求めています。なので日本製鉄はまず、訴訟期間中の中止命令の停止を求めることが必要となります」

最終更新日:2025年1月7日 20:15
    一緒に見られているニュース