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「電力危機」列島…この夏・冬も電力不足の危機が来る

2022年5月14日 12:00
「電力危機」列島…この夏・冬も電力不足の危機が来る
東日本大震災時の計画停電

今年3月、政府は初めて「電力ひっ迫警報」を発令し、首都圏ではあわや大規模停電の発生かと人々を驚かせた。しかし、この夏・冬も再び電力ひっ迫の恐れがあるという。今なぜ、日本列島は「電力危機」ともいえる事態に陥っているのか。

■計画停電・電力使用制限令まで視野に…

「国は計画停電まで折り込み始めている。恐ろしいことを考え始めたなと。それくらい今、電力供給が厳しい状態だ」

そう話すのは、大手電力会社の関係者だ。国はついに計画停電のほか、伝家の宝刀とされる電力使用制限令まで検討を始めたというのだ。

電力使用制限令とは、電力危機を避けるため、経済産業大臣が大規模工場や商業施設、オフィスビルなどの電気の使用制限を命令できる強制措置で、違反者には罰金も科せられる。

過去にはオイルショック、東日本大震災の2度しか発令されていない。それを最終手段とはいえ日常的な対策として政府は検討し始めているというのだ。

きっかけは今年3月22日、東京電力管内で発令された「電力ひっぱく警報」だ。前日の夜になって急遽出された警報に「いったい何が起きたのか?」と多くの人が思ったのではないだろうか。

あの日の電力ひっ迫の原因は主に2つ。前の週に福島県沖で起きた地震の影響で、計6基の火力発電所が停止していたこと。

もう一つは季節外れの寒波により気温が急激に低下し、電気の使用量が真冬並みに増えたことだ。

地震と寒波、2つが運悪く同時期に発生したことによる電力不足だったが、警報発令と節電要請、そして電力供給の最後の切り札とされる「揚水発電」のフル活用により、なんとか大停電は回避された。

しかし、実はこの夏・冬も「電力危機」は続く可能性があるという。

危機感を抱いた国は、計画停電や電力使用制限令といった強権も視野に入れ始めたのだ。

■来冬、電力供給はマイナス

経済産業省は、猛暑や厳冬を想定した場合、2022年度の電力需給が厳しくなる見通しだと公表している。

電力の安定供給のためには使用量を上回る電力供給が必要であるが、最低3%が「予備率」として必要とされている。

経産省の試算によると今年の7月、東北・東京・中部電力の3つの管内では予備率が3.1%と、ギリギリ安定供給の目安は上回っているものの、ひとたび気温の急激な変化でもあればすぐに電力不足が起きかねない状況だ。

さらに冬は厳しい状況となっている。東京電力管内では来年1月がマイナス1.7%、2月がマイナス1.5%と衝撃的な予測になっている。

中部・北陸・関西・中国・四国・九州管内でも現時点で予備率3%を下回る見通しが示されている。つまり、電力が足りないのだ。

■火力発電所が続々廃止…

なぜこんなに電力が足りないのか?要因の一つは、近年、老朽化した火力発電所の廃止が増えていることだ。2016年以降、毎年200~400万kWの火力発電所が廃止され続けている。

脱炭素化の流れのなか、電力会社は再エネ発電に経営資源を投入する傾向が強まり、設備の老朽化で維持費用がかさむ火力発電所から撤退している。

火力発電所は太陽光や風力発電のように天候に左右されず、安定的に発電できるというメリットがある。

しかし、代替手段が十分確保されていないなかで廃止が進められ、その分の余力が失われているのだ。

■原発再稼働の行方…「このままでは日本は詰む」

さらに原発再稼働の遅れが電力危機に拍車をかけている。現在、国内には原発が33基(建設中除く)あるが、原子力規制委員会による審査に合格し、今年5月時点までに1度でも再稼働したのは10基のみ。

それらすべてが西日本にあるのは東京を含む東日本の電力供給が厳しい理由にもなっている。

日本列島は東西で電気の周波数が異なる世界的にもまれな電力システムを取っている。その結果、周波数の違う東西間での電力融通は基本的にできないのだ。

東日本大震災の際に首都圏で計画停電に追い込まれたのは、周波数の違う西日本から電力の融通を受けられないためだった。

経済産業省の幹部は、原発の再稼働が進まないことに危機感をにじませる。

「現状、安定供給には原発しか選択肢がない。このままでは日本は詰む」

原発からの電力供給が足りないことによる危機だけでなく、足元ではウクライナ危機に伴う資源高で電気料金が高騰し続けている。

しかし、11年前の福島第一原発事故の責任の一端を負う経済産業省は、声高に原発再稼働を叫べないジレンマを抱えている。

■エネルギー安全保障どうあるべきか

電力の安定供給のため、国は停止・廃止した火力発電所の再稼働を促すなどしているが、十分確保できるかは不透明だ。

現状で残る対策は国民に「節電」を求めるか、計画停電や電力使用制限令といった強制措置となるが、経済や国民生活に悪影響を及ぼすのは間違いない。

日本列島に迫る電力危機。日本のエネルギー安全保障はどうあるべきか、政府には厳しい選択が突きつけられている。