"半導体強国"台湾の政府高官 今後の日本の半導体「世界をリードすることは難しい」
台湾で成長戦略を担当する国家発展委員会の劉鏡清委員長(大臣に相当)が日本テレビの単独インタビューに応じた。世界大手の半導体メーカーTSMCを支援する台湾政府が描く今後の計画は?TSMCの第3工場誘致にあたって劉委員長が考える3つの要素は?
■「日本と台湾の架け橋が両国のスタートアップの歴史を変える」台湾がアジア初めてのスタートアップ交流拠点を日本に開設
今月17日、18日に開催された「日本・台湾イノベーションサミット」。台湾から50社近くのスタートアップ企業を招いて日本企業などとの連携を強化し、AIなどの分野でビジネスチャンスを創出することを目的としている。日本と台湾の企業が継続的に交流を図っていけるよう、東京・浜松町に拠点もオープンした。
劉委員長は開幕式のスピーチで「台湾から日本まで橋を架けることができた。この架け橋が両国のスタートアップの歴史を変えると思う」と日本と台湾の交流に強い期待を寄せた。日本テレビは、台湾で成長戦略を担当する閣僚に相当する劉委員長に単独インタビューを行い、この言葉の真意を尋ねた。
――日本はかつてトップレベルだった半導体産業で各国に追い抜かれてしまったが、日本に今後期待することは?
日本は世界的に見ても、素材の分野においてはやはり影響力もあり、かなり地位が高いと思う。まずは自分の強みをしっかりと活用するところが一つなのかなと思う。日本が以前のように半導体で世界をリードするようなことは難しいと思う。以前の半導体産業の状況とは全然違うので。日本は台湾と協力する方がいいと思う。それぞれの強みを生かして補完し合うことで、半導体分野の加速化を図っていくべきだ。
――日本は半導体メーカーのラピダスを立ち上げ、政府の後押しもあるが、台湾の半導体産業と競合する可能性をどう見るか?
ラピダスは半導体企業の伝統的なモデルと若干違っているように感じている。伝統的なモデルというのはウエハー(半導体の基板となるシリコン素材)を大量生産していたものだが、ラピダスは一つ一つのウエハーを違うものを作ろうという少量多品種の生産。これをうまくコストを下げながら作れる。つまり、TSMCをはじめとする台湾の半導体産業とラピダスが目指している市場は違うので、少なくとも10年間は双方が脅威になることはないと思う。ラピダスの成功によって、私たちとしては新たなビジネスモデルが生まれることを期待している。
■TSMCの第3工場の行方は?劉委員長が日本に求める3要素
――TSMCはすでに熊本に最先端の半導体を作るための第2工場の開設を決めているが、第3工場についてはどのような役割を果たす予定なのか?
私は政府のメンバーになってからもTSMCの取締役を務めている。まだ第3工場の計画というのは取締役会でも取り上げられておらず、台湾メディアが報じている段階なので今の段階で何か申し上げることは難しい。
――最先端の2ナノ、3ナノメートルを第3工場で作っていく可能性は?
2ナノ、3ナノといった先進的な半導体は、TSMCではまだ台湾でしか生産する計画はない。最も主な原因は人材で、TSMCでは2人の成熟したエンジニアが1人の新人を率いることによって新人を教育していく。台湾以外ではこのような環境がまだない。ただ、いつか海外でもそのような条件が整ったらやるかもしれない。
先進的な半導体を海外で作るというのは、アメリカで進めている3つの試験的なラインがあり、そこがまずTSMCとしては現在は優先事項。そこが終わるまでは他のところに作るということはまだ考えていないと思う。ただ、TSMCが熊本に進出するにあたって、TSMCのメンバーも非常に日本市場に対して自信が強まっているので、今後そのような傾向が出てくる可能性はある。熊本の第1工場は年末に量産が始まる状況なので実際に量産が始まって運営がスムーズにいくかどうか、それによって決まってくると思う。
もし取締役会で第3工場を日本に作るという議題が上がってきた時に私が賛成するかどうか、その時に考える要素は3つ。1つ目、現在のTSMCの日本の工場がスムーズに、効率良く運営されているかどうか。なぜなら、台湾のTSMC工場の運営効率は非常に高いので。2つ目がマーケット。熊本工場はしっかりと受注が取れているかどうか、そして利益が出ているかどうか。3つ目が、サプライチェーン(供給網)がスムーズに回っているかどうか。もしこの3つの条件が備わっていれば、私は取締役会で賛成票を投じるつもりだ。
――外資系企業出身として、経験をいかして進めている成長戦略は?
頼政権では現在、半導体、AI、軍事産業、セキュリティー、次世代通信を5大産業と位置づけ、5大産業推進プランという産業制約を設定している。この5大産業推進プランを実行するにあたって、私は民間の経験を活用して今までとは異なるやり方でこの実行を進めている。
半導体について、現在台湾の強みはICの設計。これは世界2位の19%のシェアを持っている。製造では世界トップの67%のシェア。そして、組み立てとテストについても世界トップのシェアを持っているが、弱みとしては設備と材料の部分。設備についてはまだシェアが9%、そして材料については12%。この世界トップではない設備と素材の部分のシェアを全て倍増するという計画を持っている。その目標を実現をするために、半導体サプライチェーン(供給網)強靱化計画というのを作って、弱い部分を強化していくという取り組みを進めている。
――次に世界でシェアを維持するにはAI産業の発展が不可欠だと思うが、台湾のAI産業発展戦略は?
現在私たちがやろうとしているのは、業界をまたいで応用ができるようなシステムの開発だ。例えば、小売業のAI、製造業のAIなど、業界を跨いで使えるようなAIの仕組みを作ることが一つ。そうすることによって成功のチャンスは高くなると思っている。アメリカの企業が持っている強みと正面から競争する気はない。
■取材後記
劉委員長は、日本をビジネスにおける“友好国”として、非常に期待を寄せていると感じた。半導体分野においては、日本は素材や製造装置に強いため、設計や製造に強い台湾と補完しあうことで、相互のビジネスの成長に繋がる。かつて半導体産業でトップの世界シェアを誇ったという奢りを捨て、日本政府は強みを生かした投資を行って経済成長を後押ししていく方がよいのではないだろうか。(報道局経済部・城間将太)