政権公約に記載は2党のみ したたかさ足りぬ経済政策 スタートアップは夢の応援ではない
◆GAFAMを生み出せ
日本政府も2028年度以降に東京の渋谷区と目黒区にまたがるエリアにエコシステムを稼働させるという「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」に取り組んでいる。スタートアップ輩出を重視する理由は明白だ。アメリカ経済を見れば、けん引しているのはスタートアップから大きく伸びた企業ばかり。世の中にまだない技術、商品、サービス、システムを生み出し、社会や企業の課題の解決や、人々の暮らしを便利に、豊かにするスタートアップは、経済のドライバーだ。しかし、日本ではまだ、ユニコーンといわれる大勝ちしたスタートアップの姿はほとんど見られない。
こうした中、政府は時価総額1000億円を超えるユニコーンを今の10倍の100社誕生させることを国の方針として決定している。選挙後に国の運営を担う新たな政権も、スタートアップを後押しする政策をとっていくのだろうか。衆議院選挙に向けた政権公約の中に、「スタートアップ」「起業」「ベンチャー」といった言葉が、2党をのぞいては見られなかったことが気になる。
◆戦略的なスタートアップ支援ーーーUAE
一方、政治の世界とは温度感が異なり、先端技術の見本市「CEATEC」(千葉・幕張)には、ことし、去年の2割増しとなるスタートアップが参加していた(10月15日~18日開催)。海外からも24のスタートアップが参加した。UAE=アラブ首長国連邦は、「市役所に行かなくても、一つのアカウントで免許の更新から税金の支払いまで、行政手続きすべてをスマホやPCでできる」というデジタルシステムを展示。スタートアップを担当する大臣も来日し、大手電機メーカーや日本のスタートアップのブースを訪れていた。中東からはるばるCEATECに参加したワケは何なのか?
アリア・アブドゥラ・アル・マズルーイ・スタートアップ&中小企業担当大臣はCEATECで講演し、UAEが『グローバル・アントレプレナーシップ・モニター』※で3年連続首位をとったことをアピールした。そして、「日本企業には、特にデジタル変革とイノベーションの分野でUAEとの連携を検討してほしい」と呼びかけた。
※グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)…起業しやすい環境が整っているかどうかを「出資の得やすさ」「税制優遇」、「規制緩和」、「国の文化や習慣」など13の項目から国ごとに検証し、ランク付けしているリポート。
UAEは国内外の多くのスタートアップに出資していて、2031年には世界でスタートアップの主要なハブになることを目指している。日本のスタートアップは“オイルマネー”の出資対象として、どう見られているのか?アル・マズルーイ大臣のもと、スタートアップ振興などを手掛ける経済省のKhalid Kalbat氏にインタビューを行った。
――Q.今回、中東のUAEからCEATECのために大臣も含めて来日された理由を教えてください。
来日理由の重要な要素の1つは日本のスタートアップ、もう一つは今回CEATECに参加している海外のスタートアップです。もちろん、テクノロジーのけん引役となっている日本の大企業も要素の一つです。UAEのスタートアップ企業をここに連れてくることで、彼らが最終的に目指すべきところを直接見せることができます。
――Q.UAEは2031年までに世界のスタートアップのハブになるという目標を掲げていますが、世界中から優れた起業家を集めたり、国内で育成したりするという点で、UAEの強みは何でしょうか?
UAEではビジネスを簡単に始めることができます。起業家に出資するベンチャーキャピタルも十分あります。また、起業家には10年間UAEに滞在できる「ゴールデンビザ」など、最適なビザを発行しています。また、起業家を支援する法律や制度があります。これは国内の起業家支援の例ですが、主要銀行は融資のうち10%はスタートアップと中小企業に振り分けなければならないというルールにしています。調達についても、自治体や一部の大企業に対して、10%はスタートアップや中小企業から調達する決まりにしています。
――Q.スタートアップ企業によるUAEの経済成長への貢献度をどう見ていますか?
スタートアップと中小企業は、UAEのGDP(原油以外)に大きな貢献をしています。非常に多くのユニコーンも生まれ、UAEだけにとどまらず、活躍している企業もあります。例えば、Careemです。のちにUberに買収されるほど価値を上げました。また、別の例ではAmazonに買収されたSouq.comもあります。Astra TechはUAEでの日常生活のあらゆる手続きをカバーするスーパーアプリを構築しています。こうした実績は、世界中からスタートアップをひきつけることにもつながっています。
◆日本は「技術」を強みに
――Q.日本のスタートアップがUAEから出資支援先として選ばれるために何をすべきでしょうか?
日本では大企業だけでなく、中小企業、スタートアップも、文化的に先進技術を受け継いできているというのが強みだと思います。UAEは非常にテクノロジーを重視しています。我々の戦略の中に第4次産業革命といったものがありまして、最近、AI大臣も任命されました。UAEがどれだけテクノロジーを強化しようとしているか、おわかりいただけると思います。伝統的な産業である農業、健康、教育についても、アグリテック、ヘルステック、エドテックという形でテクノロジーを絡めていこうとしています。ですから、日本のスタートアップでUAEに進出したいと思われる方は、やはり技術テクノロジーがコアになる。これがポイントになると思います。
◆スタートアップでの女性の活躍
――Q.アル・マズルーイ大臣も女性ですが、女性の活躍が国全体の経済に及ぼす影響についてどうみられていますか?
政治の分野でも多くの女性が活躍していますが、10万以上の中小企業やスタートアップも女性が率いています。UAEで女性は男性同様に大きく経済に貢献しています。UAEは非常に真剣に起業支援に取り組んでいますが、女性を対象にしたプログラムも多く立ち上げていて、例えば、ベンチャーキャピタルや投資家らに対してしっかりプレゼンテーションできるようにトレーニングしています。このように、国家レベルで、より女性に特化し、女性ならではの困難を克服するのを手助けすることもしています。
◆日本が「食っていける国」にする政策は
UAEで起業政策を担当するKalbat氏へのインタビューからは、国が一丸となって「スタートアップ育成」に力を入れる熱意と自信が伝わってきた。
日本では、四半世紀前に産業の空洞化が顕在化し、「日本は何で食っていくのか」と彷徨(さまよ)い始めたが、またこれから四半世紀たった時に、何で稼いでいるのだろうか?もし海外との競争で勝っているとすれば、そこには新しく生み出された技術、サービス、システムがあり、そのためにはスタートアップの力を活用することが重要だ。
人口減少で、国内市場が小さいままであることを考えれば、海外展開できる能力を持つスタートアップが育つ環境をつくらなければならない。国内外の大学や研究機関から最先端の技術が開発、発掘され、実証実験、実装化がスピーディーに進む…そうしたことを可能にするなど制度、税制優遇、機会の創出。選挙後、どのような政権になったとしても、「物価高の影響を受ける有権者の心をひきつけようとする耳障りの良い政策」だけでなく、「数年先の日本が『稼げる国』になり、それによって消費も経済も回るようになる政策」をしっかりと進めることを求めたい。