社会問題解決とビジネスの両立を図る「インパクトスタートアップ」 都内でイベント
11日、都内で「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024 (インパクトスタートアップサミット)」が開催された。同イベントは2022年に設立された一般社団法人インパクトスタートアップ協会が主催。社会問題の解決と社会のポジティブな変化を促す「社会的インパクト」を創出する「インパクトスタートアップ」各社などの参加者が訪れた。
登壇したのはインパクトスタートアップ各社に加え、インパクトスタートアップに投資するベンチャーキャピタルやサントリーホールディングス代表取締役社長の新浪剛史氏、東京大学総長の藤井輝夫氏、衆議院議員の平井卓也氏、塩崎彰久氏、鈴木英敬氏、現福岡市長でスタートアップ都市推進協議会会長を務める高島宗一郎氏ら。
オープニングセッションでは、東京都副知事である宮坂学氏が行政とインパクトスタートアップの関わりについて説明。「課題が複雑化したり問題のサイズが大きくなったり、行政だけで解決できることには限りが出てきた。例えばコロナウイルスワクチンを開発したのはスタートアップであり、地震時に活躍した衛星通信を開発したのもスタートアップ。これらはインパクトスタートアップの一例だ。既にスタートアップのサービスは行政が直面するメガスケールの社会課題解決に役立っている」とインパクトスタートアップへの期待を語る。
インパクトスタートアップ協会代表理事を務める米良はるか氏は「少子高齢化や災害を筆頭に、日本は課題先進国と言われてきた。これまで社会課題の解決主体は国や自治体だったが、課題が複雑化・分散化する中で民間の力も必要になってきている。その担い手としてインパクトスタートアップが必要だ」と述べた。
続いて開催されたのは「インパクトエコシステム」のセッションだ。「エコシステム」とは「生態系」を意味する言葉で、大企業や投資家、研究機関など、スタートアップに関連するプレイヤーが共存共栄すること。
アジアのスタートアップ・エコシステム構築に取り組むThe Edgeofの孫泰蔵氏は「10年前にシリコンバレーで『インパクトスタートアップを支援している』と話したら『慈善事業をしているのか』と言われた。逆に今は世界的にインパクトの創出が前提になっている」と、時代の変遷がわかるエピソードを披露。「ただ、インパクトだけならNPOでいいし、(経済的な)成長だけでも投資は受けられない。インパクトと成長を共存させる必要がある」と注意を促した。
衆議院議員の木原誠二氏は「政府がなんでも社会課題を解決できるわけではないため、インパクトスタートアップをサポートしていくことが重要だ」と語る。
高齢者の生活支援に農業用バイオ炭……10社がプレゼン
インパクトスタートアップ10社によるプレゼンテーションも行われた。スタートアップ10社が持ち時間4分で審査員と観客に向かってピッチを繰り広げた。
3つの審査員賞を受賞した株式会社TOWINGは、微生物を培養した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を農業に活用するインパクトスタートアップ。宙炭を活用して収穫量が70%向上した農家もあると語る。
メイン賞に相当する「インパクトスタートアップピッチ賞」を受賞したのは、高齢者がポジティブに歳を重ねることを支援する株式会社AgeWellJapanだ。同社のスタッフがスマートフォンの操作を教えたり、行政サービスの活用を支援したりすることで、高齢者の生活をサポートしている。AgeWellJapan代表の赤木円香氏は受賞に際して「社会課題を解決しながら持続可能なビジネスをすることの難しさを創業してからずっと感じていた。高齢者が『人生はまだまだこれからだ』と思える社会をつくっていきたい」と語った。
ほかにもサミットでは、地方創生や人材育成、グローバル化など、様々な面からインパクトスタートアップについて語られた。本イベントのテーマは「トレンドから王道へ」。登壇者の多くが「インパクトは既に王道である」という趣旨の発言をしている。インパクトが創出できないビジネスは注目が集まらずに採用面で苦労したり、投資が集められないという時代に突入しているという。とはいえ「インパクトスタートアップ」の普及はまだまだこれからで、今後の展開が注目される。