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利益と社会・環境的影響を両立する「インパクト」が存在感を増す 行政が期待する理由は

2024年5月16日 20:00
利益と社会・環境的影響を両立する「インパクト」が存在感を増す 行政が期待する理由は
インパクトスタートアップ協会 代表理事 米良はるか氏

社会課題を解決して社会にプラスの変化を与える「社会的インパクト」を生み出すための「インパクト投資」が注目されている。

インパクト投資とは、経済的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資のこと。従来は経済的リターンが重視されていたが、インパクト投資は社会的インパクトも同時に評価するのが特徴だ。

国内ではインパクト投資の対象に、健康や医療、気候変動、教育や子育て、都市開発といった分野が選ばれている。

近年注目される「スタートアップ」も、インパクトとの関連を深めてきた。2022年には「インパクトスタートアップ協会」が設立され、投資資金の呼び込みや行政・大企業との連携強化に取り組んでいる。

社会的インパクトの創出に取り組むスタートアップには例えば、炭酸カルシウム(石灰石)などから環境に配慮したプラスチックや紙の代替素材「LIMEX(ライメックス)」を開発する株式会社TBMや、国内外の知的障害のあるアーティストの作品を管理する株式会社ヘラルボニーが挙げられる。

■リンゴ材料のヴィーガンレザー、“おがくず”からカブトムシ育成の企業も

2024年5月14日には東京都内で、社会的インパクトに関するイベント「インパクトフォーラム」が開催された。

内閣官房副長官の村井英樹氏や、現福岡市長でありスタートアップ都市推進協議会会長を務める高島宗一郎氏といった行政や金融機関関係者に加え、インパクトスタートアップ協会代表理事の米良はるか氏ら国内外約50人のインパクトに関する第一人者が登壇している。

主催は金融庁などが事務局を務めるインパクトコンソーシアムだ。

内閣府大臣政務官の神田潤一氏は、氏の地元である青森で立ち上げられたファンドが、リンゴから出る廃棄物からヴィーガンレザーを開発する会社や、キノコを栽培する際に廃棄されるおがくずを使ってカブトムシを育成する会社に投資している例を紹介。

「生産拠点に近い地域はインパクトに対する強みがある。しかしビジョンは明確でも事業戦略が具体化できない、素晴らしい技術はあるけれども財務戦略が明確でないなど、地域におけるインパクトスタートアップには様々な課題がある。インパクトコンソーシアムのようなエコシステムと協働して実践していくことが重要だ」と、地域発インパクトスタートアップやコンソーシアムへの期待を語った。

内閣官房副長官である村井英樹氏は「短期の経済的リターンにより過ぎた成長モデルでは持続可能性を欠く。事業性を伴わない社会貢献活動のみでは広がりを欠いてしまう。両者の両立こそが我が国の持続的な成長を形づくっていく」と語る。

また「相対的貧困や地域課題など社会課題が多様化している現代では、行政だけで課題解決はできない。NPOやインパクトスタートアップと協力していく仕組みが重要」と述べ、未利用産地を使うことで二酸化炭素吸収量を増やし、同時に動物福祉に配慮する牧場や、空き缶などのアルミを使って水素を製造する技術を開発した北陸の機械メーカーの例を紹介した。

■シェア自転車が福岡市の社会的インパクトに

「インパクトスタートアップと地方自治体の官民連携」と題されたセッションには、福岡市長の高島宗一郎氏やインパクトスタートアップ協会代表の米良はるか氏が登場。前述のTBMやヘラルボニーも交え、近年注目が集まるインパクトスタートアップについて意見を交わした。

福岡市は2012年に「スタートアップ都市宣言」をしてからスタートアップ支援に積極的に取り組んできた。これが社会課題の解決に繋がってきたと高島氏は語る。

米良氏は「社会課題とビジネス・利益の両立にはエコシステムが必要だが、最初の一歩を踏み出すのは大変なはず」と、福岡市の活動を評価した。

また高島氏は福岡市でシェア自転車事業を運営するチャリチャリ株式会社の事例を紹介。シェア自転車の活用が福岡市の放置自転車問題の解決というインパクトに繋がっていると語った。

放置自転車を撤去するために投入される税金が少なくなったことも行政としてのメリットだ。また米良氏は「社会課題が顕在化している日本とインパクトスタートアップの相性はいい」と述べ、インパクトスタートアップは行政だけでなく、社会課題解決にチャンスを見出そうとしている大企業との連携も重要だと主張した。

行政や企業などの社会課題解決を支援するケイスリー株式会社の幸地正樹社長は「世界のインパクト投資市場は2018年の約35兆円から、2022年には約180兆円に拡大している。国内でもインパクト投資残高は2018年の3440億円から2023年には11兆5414億円に急拡大した。 日本においてインパクト投資の市場はこれからまだまだ成長していくとみられる」と語る。

今後の普及の鍵は認知度向上や経営トップの理解だろう。インパクトは日本経済の起爆剤となるか。今後の動向に注目だ。