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東京五輪パラ 無観客開催・中止の損失は?

2021年1月31日 14:44
東京五輪パラ 無観客開催・中止の損失は?

■東京五輪・パラ“無観客”も
2021年の日本経済はどうなるのか。最大のカギはコロナウイルスの感染状況だが、それに伴い東京五輪・パラリンピックが予定通り開催できるかも一つの焦点になっている。

1月28日、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森会長はIOC(=国際オリンピック委員会)のバッハ会長と電話会談を行った。森会長は無観客での開催について「そういうことはしたくないが、考えておかなかったらシミュレーションにならない」と選択肢の一つであることを示唆している。

■現時点でのシナリオは?
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、今年の東京五輪・パラリンピックに関して次の3つのシナリオが挙げられる。

(1)簡素化して開催
(2)無観客での開催
(3)中止の場合

みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、2021年単年度のGDP(=国内総生産)への直接的な影響をみた場合、損失額と経済への押し下げ効果は、
(1)簡素化して開催した場合:消費刺激効果の半減で2494億円
   →GDPマイナス0.05%
(2)無観客で開催した場合:消費刺激効果の消失で4989億円
   →GDPマイナス0.10%
(3)中止した場合:消費刺激効果の消失による4989億円に加え、放送関係費701億円の消失で合計5690億円
   →GDPマイナス0.11%
と試算している。

■長期にわたる経済効果への影響は?
東京五輪・パラリンピックの経済効果については、コロナ禍の前までさまざまな金額が推計されていた。

東京都は2013年から2030年にかけて約32兆円の経済効果があると試算。また、みずほ総合研究所では2014年から20年までの7年間の累計で経済効果は28.5兆円程度と試算している。

五輪開催による経済効果は開催中の直接的な効果よりも、開催前や、開催後のいわゆるレガシー(遺産)効果などの間接的効果のほうがはるかに大きいとされ、五輪開催を見越した都市インフラ整備や民間投資の拡大、そしてインバウンド観光需要の増大などが挙げられる。

これら全ての経済効果を享受するには通常通りの開催が望ましいが、世界中で感染の収束が見通せず、国内では緊急事態宣言の延長も検討されている中、通常通りの開催は厳しさも増している。

■無観客であれば2兆4133億円の損失に、中止の場合は…
東京五輪・パラリンピックの3つのシナリオにおける“長期的な”影響を加味した経済損失について、経済学者で関西大学名誉教授の宮本勝浩氏は次のような単年度の押し下げ効果をはるかに上回る試算結果を出した。

(1)簡素化して開催した場合:長期的な経済損失は約1兆3898億円
(2)無観客で開催した場合:長期的な経済損失は約2兆4133億円
(3)中止した場合:長期的な経済損失は約4兆5151億円

これらの試算は次のことを考慮して行われている。

(1)の簡素化の場合は、観戦者数が収容人数の50%になると仮定している。まず1年間延期による競技場の施設管理費やチケットの払戻費の支出など約6408億円の損失と推計。さらに簡素化の影響を受けて「運営費削減により失われる経済効果の減少」、「大会中の経済効果の減少」、大会後の「レガシーに関する経済効果の減少」を合わせて約7490億円が失われると見込んでいる。

(2)の無観客での開催の場合は、無観客であることから、観戦者の消費支出はゼロとなり、グッズの売り上げなども半減すると仮定し、大会開催中の経済効果は当初の見込みより約7198億円が失われるとみている。

また、大会開催後については、当初期待していたスポーツや文化の振興や留学生の増加による経済効果が半減することなどから、約1兆527億円の経済効果が失われるとしている。さらに1年間延期による損失約6408億円を加え、長期的な経済損失は約2兆4133億円としている。

(3)の中止の場合は、大会運営費や、参加者および観戦者の消費支出、家計消費支出、国際映像制作費、企業マーケティング活動費などのほとんどが失われるとされ、その額は約3兆4624億円と推計。さらに無観客の場合と同様にスポーツや文化の振興や留学生の増加による経済効果が半減することなどから、約1兆527億円の経済効果が失われるとしている。

さらに、前出のみずほ証券の小林氏は、中止になった場合はレガシー効果や波及効果への長期的な押し下げ効果が甚大になる可能性だけではなく、今後の政権運営にも影響を及ぼしかねず、それによる経済ダメージも加わる恐れがあるとしている。

果たして、東京五輪・パラリンピックの開催はどうなるのか。判断のヤマの一つは3月25日に始まる予定の聖火リレーといわれている。新型コロナウイルス対策のカギになるワクチンの供給の先行きが見通せない中、日本経済に関わる大きな決断の時が刻一刻と迫っている。