DAOがもたらす新たな働き方とエンターテインメント【SENSORS】
DAOとは、世界中が注目する、ブロックチェーンを活用した新たな組織の形態だ。DAOによって、どんな未来が実現されるのだろうか。
「TOYOTA Blockchain Lab」の上野直彦さん、「自由民主党デジタル社会推進本部 web3プロジェクトチーム」事務局長の塩崎彰久議員、「山古志DAO」の山古志住民会議代表・竹内春華さん、「Tokyo Otaku Mode」共同創業者兼COOであるpajiさんの4人が、DAOの活用可能性について語り合った。
■世界中のDAOに入るのが当たり前になる?
近年、会社に所属しながら副業で収入を得る働き方や、複数の収入源を持つフリーランスとしての働き方が広がっている。現時点では企業に所属し従業員として勤務する働き方が主流とはいえ、DAOの普及後、働き方の自由度が格段に高まる可能性がある。
TOYOTA Blockchain Labの上野直彦さんは、「今後DAOの仕組みや制度が整備されるにつれ、複数のDAOを兼ねることが当たり前になる」と予想する。
DAOという組織は、Web上で展開されているため、世界中から参加できる。その組織には中央管理者がおらず、メンバーがそれぞれ自律して組織に貢献する。報酬として、経済的価値を持つ通貨をはじめ、アート作品や握手権など自由に設定することができるのも、その特徴だ。
DAOを立ち上げるのも、いくつかのDAOに参加するのも、どこかのDAOを抜けるのも、すべて個人の自由である。
それぞれのDAOには参加者たちが決めた公平なルールがあり、新しい参加者はそれに賛同し条件を満たすことで組織の一員となれる。
「ルールもインセンティブも異なる複数のDAOに入りながら、さまざまな働きに対してさまざまな対価をもらう。そのうちのいくつかは、地球の反対側の国で生まれたDAOかもしれない。そんなことが普通になる時代が来ると思います」
Tokyo Otaku Mode共同創業者兼COO のpajiさんも同意する。
「距離の壁は取り除かれるし、DAOに集まった資金はプログラムによって透明かつ公平に分配されます。NFTなどで報酬を得て生活を賄うイメージです。どこでどう働くかを自分で決められる。労働者がこれまでより多くの権限や選択肢を持てることが、メリットだと思います」
■新たな得意に気づく…コミュニティ毎に発揮される可能性
「山古志DAO」山古志住民会議代表の竹内春華さんは、新潟県の山にある人口800人の限界集落で運営されている山古志DAOで起きた次のような現象を紹介する。
「DAOによって世界中から山古志村の村づくりに参加してくださっている方々(デジタル村民)がいます。山古志DAOで感じるのが、これまであまり評価されてこなかった得意分野が可視化されたり、報酬という形で評価されたりしているということです。例えば、リアルな世界でよく『下着が出てるよ』とか『鼻拭きな』とか子どもに気配りしてくれるおばちゃんがいますよね。そういう『おせっかい』って、これまであまり評価されてこなかった。でも山古志DAOには、『おせっかい』の偉大さを体感しているデジタル村民が結構いて、デジタル上での『おせっかい』が可視化され、評価されています。失われてしまった近所付き合いや温かな人のつながりを、デジタル上でもう一度目にしているような感覚があります」
pajiさんは、複数のDAOをかけ持ちする様々な人が入り混じることで「全体がパワーアップしそう」と期待を込める。組織間の風通しが良くなり、「こちらのDAOで得た情報やスキルを、あちらのDAOにも応用できる」という可能性もある。
塩崎議員もこれに共感を示す。
「複数のDAOに関与するということは、自分の成長の機会も複線化していくことです。今、1つの職場だけじゃなく副業やボランティアをしながら、この変わりゆく社会で多様なスキルを身に付けていくのが一般化しはじめていますよね。DAOはそれを世界中で実現できるわけです。これからの時代にフィットしていると思います」
■日本のエンタメを世界に開く
働き方のみならずエンターテインメントの文脈でも、DAOの活用可能性は大きい。サッカー漫画『アオアシ』に「取材・原案協力」としてかつて携わった、自身も漫画原作者の上野さんは、「今後DAOで資金を集めて映画や漫画、音楽などを製作する動きが出てくるのではないか」と見ている。
「映画は通常、複数の企業から出資を募る製作委員会方式で製作されますが、どうしても出資者の意見を優先するなど内向きになりがちです。そこで、現在、開かれた座組を作ろうという動きが始動しています。例えば紀里谷和明監督はNFTを活用した資金調達をされていました。集まった製作資金のうち、たしか大半は海外のファンの方々から集まったと聞きました」
pajiさんは、DAOには「エンタメのヒットの可能性を広げる装置」としての機能があると指摘する。
「たしかに、エンタメ作品製作のための資金調達にも応用が効きますね。しかもグローバルにつながれる技術ですから、日本でヒットしなかったコンテンツが海外でヒットするなんてことも、十分に起こり得ます」
■世界に「日本ファン」を増やすチャンス
埋もれていた才能が世界に見出されるのと同様、地方で寂れつつあった伝統芸能がDAOを介して息を吹き返すこともある。竹内さんは、こんな例を紹介する。
「デジタル村民の方が、野菜をアバター化したキャラクターを使って、山古志村の伝統芸能を模したダンスを製作してくれました。デジタル村民は世界中にいるため、これは国内だけでなく海外にも届きます。DAOでは世界がすぐ近くにあるということを体感しました」
同じく「DAOの普及は世界に日本ファンを増やすチャンス」と捉える塩崎議員も、「Web3.0時代における日本のコンテンツの海外展開を後押ししたい」と意気込む。
「エンターテインメントとDAOはものすごく親和性が高い。ファンコミュニティというのは経済的価値よりむしろエモーショナルな価値を求めて集まっているグループです。だからこそ、経済的利益以外の価値も報酬として設定することができるDAOにマッチすると思います。日本ならではの新たなDAOの活用ケースが今後どんどん出てくると面白いですね」