高値続く中…コメをめぐる状況は“待ったなし” 今後5年の“緊急”計画の中身とは?
備蓄米が放出されたが、値段の高止まりが続くコメ。このコメをめぐる危機は一時的なものにとどまらないかもしれない。背景にあるのが、コメ生産者や農地の急激な減少だ。岐路に立つ日本のコメ生産。農水省がとりまとめた今後5年の“緊急”計画の中身とは?
■備蓄米放出でコメの価格は、どうなる?
Q:備蓄米が放出されたが、コメ価格の高止まりが続いている。コメの取引に新規業者が参入しているという話や、本当にどこにも在庫がないという話もあり、実情がつかみにくい。農水省も3月中に、どこで流通の目詰まりが起きているのか、調査内容を発表することにしているが、本当に値は下がるのか?
A:日本総合研究所の三輪泰史チーフスペシャリストに見通しを聞いてみると、いまほど高い「異常な高値」という水準からは少しずつ、落ち着くのではないかと指摘。4月からは店頭に備蓄米が直接、流れていくことと、放出決定を発表した効果が調達価格自体に波及してくることで、5キロあたり100円や200円という規模かもしれないが、少しずつ「安くなったかな」と実感できる状況が出てくるのではないかと指摘する。
コメの供給は不安定な状況だ。これが、しばらく続く可能性がある。食生活の多様化や人口減少でコメの消費量は年々減少、2023年度の1人当たり年間消費量は51.1キログラムだ。コメの価格は、ずっと上がらず、生産者はほとんど利益が出ない状態になっている。
こうした厳しい環境に、コメ以外の生産者も含む数字だが、生産者の数は、この20年間で半減している。平均年齢は69.2歳と高齢化し、これから急激に担い手が減る懸念が出ている。
特にコメ生産者では後継者がいないと答えた人が7割という調査もある。こうした状況で、東京ドーム約5300個分の農地が年々なくなっているのが現状だ。
Q:実際に生産者からは、どのような声が上がっているのか?
A:コロナ禍の影響を受けて、コメの消費が落ち込み、特に2021年から2022年にかけてのコメ価格は低い状態だった。いまが高いのではなく、いままでが安すぎたと嘆く。
需要がなかなか伸びない中で、燃料代や肥料代など、生産コストが上がっても価格に反映できず、赤字続きに耐えられなくなって生産をやめた人がここ数年、急激に増えた感覚があると語る生産者もいる。コメが品薄になって値段が上がるかもしれないという話が出てきても、老朽化した機材を買い換える資金はなく、みな農地を手放して、農業をやめていくのが現状。そして、いまもコメの生産を続けている人は、そういう人たちの農地をいくつも預かって、なんとかコメ作りをやっているという苦しい声が非常に多い。
日本の農業、もう待ったなしの状況と言える。
農水省は2025年度からの5年間を「農業構造転換集中対策期間」と位置づける。農業の構造転換を集中的に推し進めるため、政府は「新たな食料・農業・農村基本計画」をとりまとめた。持続可能な農業を目指し、また今回のような短期的な問題が起きても対応できることを目指す。
【ポイント1】コメ作りの象徴「水田政策」を根本的に見直し
これまでは、「水田」という状態は維持しつつ、主食用のコメではない、麦や大豆などを作るように促す政策を勧めていた。つまり、いわゆる「減反」を勧めることに比重が置かれてきた。今回の変更は、いわゆる「減反」重視から「食料自給率アップ」重視へと方針を転換したとも受け止められる。農地全体がどんどん減っていく危機的な状況の中で、コメの生産を減らすことよりも、コメも含めて「生産性を上げること」のほうを重視しようという大きな方針転換であるため、注目されている。
【ポイント2】コメの輸出を進める
2030年までに去年実績の4.6万トンのおよそ8倍近くにあたる35万トンを目指す方針を掲げた。
Q:国内で供給が足りていないのに、国民からの理解は得られるのだろうか?
A:いま、コメ価格が高騰している背景には、需要ギリギリの生産量を目指してきた結果、需要が予想以上に増えると、すぐ「不足感」が出てしまうということがある。このような事態を避けるためには、ギリギリの生産量を目指すのではなく、余裕を持った量を生産する必要がある。とはいえ、余ってしまうと価格の下落、ひいてはコメ生産者の収入が、さらに減ってしまうことにつながるため、拡大の余地が見込まれる海外の需要を開拓し、コメの生産が増えても生産者の収入につながるように体制を整える。そして、国内向けの供給が不足してしまった時には、海外に輸出していたものを国内向けに振り分けることを可能にするという狙いがある。
【ポイント3】肥料は輸入に依存
コメは、ほぼ100%自給できるが、実はその生産に必要な化学肥料原料のほとんどを海外からの輸入に頼っている。国内にある堆肥、下水汚泥資源などの活用や有機栽培の促進などにも力を入れていく考えだ。
【ポイント4】若い担い手の確保
サステナブルな農業構造を構築するため、49歳以下の担い手を確保し、女性を増やすことも目指す。
【ポイント5】「中山間地域」の支援を強化
「中山間地域」は全国の総農家数、耕地面積、農業産出額のそれぞれ約4割を占めている。ただ傾斜地が多く、まとまった農地が少ないことや、他の地域と比較して、人口減少や高齢化が急激に進んでおり、より厳しい環境に置かれている。「中山間地域」の支援強化も掲げられている。
Q:コメの生産をめぐっては、様々な課題が浮き彫りになっている。政府が、いわゆる「生産調整」してきた影響が、いま色濃く出ている。本当にこの危機を解決できるのか?
A:「生産調整」と指摘されている政策は「コメを作りすぎて価格が下落することを防ぐ」ためのものだった。その問題点が明らかになったいま、違うやり方で「生産者が稼げる状態」をどう担保していくのかが喫緊の課題だ。「農家が稼げる仕組み」が安定することで、農業分野に参入したいと思う若い世代や企業を増やし、農業分野を活性化させることにかかっている。そのためには、手放された農地を集約化、大区画化して効率的に生産が行えるようにする。これまで、日本のコメ生産は個人経営、家族経営中心だった。そのため、農地が点在している。集約する上では、なるべく大区画にしたほうが、作業効率が上がる。この大区画化をできるかもカギとなる。農地を手放す生産者が相次いでいる状況は、農地を大規模経営者に集約させるチャンスでもある。その他にも、縮小する国内市場に代わる「海外の売り先」を開拓するスマート農業の推進、異常気象でも生育して量も取れる高温耐性の品種の開発をさらに進めて、いかに生産の「手間」を減らせるかもポイントとなる。
Q:生産者からは、ただでさえ需要が減りつつあるのに、この値段の高止まりで、さらに米離れが起きるのではないかという懸念の声も出ている。
A:「値頃感」が重視される農産物についても、生産コストが上昇した分が適正に反映されるような仕組み作りが重要だとして、不条理な値段交渉に対しては、農水省からも指導や勧告が行われるという仕組み作りを進めている。価格の安さだけを求めていると、生産者はコメを作るのをやめざるを得ない状況になってしまうということにも思いをはせて、今後も安定的にコメを供給してもらうために合理的な価格はどのくらいなのか、消費者としても考える必要がある時期にきている。