家電値下げ競争は終わる?パナに続き日立も 消費者に「いいこと」は?
■当たり前が変わった、家電量販店での価格交渉「無し」
ビックカメラやヤマダデンキ、ヨドバシカメラにコジマ。どの家電量販店でも、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなど、売り場に並ぶ製品につけられた値札のまま購入する人は少ないのではないだろうか?ご丁寧に値札には「価格はご相談ください」と書いてある。「当社より1円でも安く売っている店がありましたら教えてください」と書いてある店もある。
値引き前提の値付け。
消費者は、値札より大きく値引きしてもらえれば得した気になる。
しかし、この「値引き交渉」からパナソニックが降りた。全商品ではないが、今年度は白物家電製品の5割を「指定価格」対象商品として、「お値下げしません」という商品に位置づけている。そして、パナに続き、日立(日立グローバルライフソリューションズ)も「ドラム式洗濯乾燥機」と「紙パック式のクリーナー」を「お値下げしません」という製品に指定している。
なぜか。
パナソニックのベテラン広報によれば、「家電は1年たつと価格が下落する。商習慣みたいなもので、新商品の時の価格が100だとすると、70%ぐらいまで下落する。そのままでは売り続けられないから、新モデルを出す。だから家電メーカーは当たり前のようにマイナーチェンジして毎年のように売り出していた」。
この商習慣のデメリットは、”新しいモデルが毎年出ることによって、1年たてば前のモデルの価格が大きく下落する”ということだけではない。
■1年ごとのマイナーチェンジが奪っていた「大切なこと」
「毎年、新モデルを出す、ということは、開発や部品の調達にかけられる時間が短い。そのため、前の製品をマイナーチェンジしただけの「新製品」になってしまう。新しい発想のものを作るのが難しくなる」と言う。
「エンジニアだって開発に追われたくないですよ。本当は世の中を驚かす商品を出したいんですよ」。(パナソニック広報)
そこで、「これはおかしい!」とパナソニックはこれまでの商習慣をガラッと変える大英断に出た。
「もし家電が売れ残ったら、パナソニックが家電量販店から在庫を引き取る」。こうすれば、量販店がたたき売りしなくてすみ、メーカーは毎年毎年、「マイナーチェンジ」の新モデルを出さずにすみ、開発担当は開発に時間を取れるようになる、というわけだ。
ターゲットとする客の調査や、製品自体が今のライフスタイルにあっているのかの見直し等々、「見たことのない製品」を開発、製品化するには時間が必要だ。
「毎年、新製品を出す」をやめた結果、誕生したのが、これまで見たことのない形の電動シェーバーや一人暮らし用のコンパクトでデザイン性を重視した食洗機だ。
さて、一方で業績への影響はどうなのだろうか? パナソニックは「価格指定制度の導入も奏功して2022年度は、白物家電全体の利益を200億円押し上げる効果があったとみている」という。また、新製品のサイクルは従来1年だったところから2~3年に伸びたとしている。
「価格指定は業界の悪い循環を変えるスイッチだった」とパナソニック広報は言う。「持続可能な形に業界全体変えていかなきゃいけない」。
そして、日立GLSがパナソニックに続いた。高付加価値、オンリーワン製品で「価格指定」。まずシェアの高い「ドラム式洗濯乾燥機」と競合他社では扱いの少ない「紙パック式のクリーナー」を「値下げしない商品」にしている。
このあとも対象を拡大し、ことしの10月までに白物家電(エアコンを除く)の1割(売り上げベース)を「価格指定」の対象とする目標だ。
■「値付け」のこれから
価格指定制度が進むと高価格商品ばかりになるのか?消費者としては気がかりだが、パナソニック広報は、「そういうことではない」と説明する。
「需要は二極化している。消費者は自分の価値観に合うものへの出費は惜しまない。そのかわり、ここはこだわらないというゾーンにはお金をかけない。両方に応えたい」。
ロシアのウクライナ侵攻による影響で原材料やエネルギー価格があがり、円安もあわさって、物価上昇が本格化してから2年あまり。賃上げも2周目に入り、政府による「デフレ脱却宣言」の検討も始まるのではないかという声も聞こえてくる。
物価高と円安と賃上げ(そして利上げ)で、「値段」に影響する多くの要素が動いている今、値上げ、値下げ、だけでない、「値段のあり方についての工夫」が、まだまだ企業から出てきそうだ。