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トヨタEV新戦略発表 豊田章男の本心とは

2021年12月18日 13:25
トヨタEV新戦略発表 豊田章男の本心とは

「あえて言うならば、今までのトヨタのEVは興味がなかった。これから作るEVは興味がある」。トヨタ自動車の豊田章男社長が会見場で多くの報道陣を前に質問に答えた。12月14日。満を持してトヨタが発表した今後のEV戦略。豊田社長がこの会見で伝えたかったこととは。

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■350万台でもやる気なしですか

トヨタが、2030年までに全世界で30車種の電気自動車を発売し、年間で350万台の販売を目指すと発表した。年間350万台という数字は現状の販売数を見ても、その数は非常に大きいと言える。

EVの国内の販売台数は去年、1万4604台で、海外の販売台数を見ても、1位のテスラでさえ約36万5000台だ。それを1社だけで350万台も販売するというのだ。年間350万台という数字はスズキやダイムラーが販売する全てのクルマの台数よりも多い。つまり、トヨタが今あるメーカー1社分の販売台数を電気自動車だけで達成するのと同じだ。

この数字をひっさげて会見に臨んだ豊田社長は、トヨタをEV開発に消極的な会社だとみている人たちに対して、と皮肉を込めてこう語った。

「350万台、30車種出す会社に前向きじゃないと言うのか。どうすれば前向きになるのか逆に教えていただきたい」


■石炭を燃やして電気で走る矛盾

また、トヨタをEV開発に消極的だとみている人たちは、トヨタはまだ二酸化炭素を排出するガソリンエンジン車を製造して、カーボンニュートラルを目指す世界とは逆行していると主張する。この主張に対して豊田社長は会見でこう語る。

「カーボンニュートラルのカギを握るのがエネルギーです。現時点では、地域によって、エネルギー事情は大きく異なります。だからこそトヨタは各国、各地域の、いかなる状況、いかなるニーズにも対応し、カーボンニュートラルの“多様な選択肢”をご提供したい」

つまり【原子力発電所や再生可能エネルギーなど、二酸化炭素を出さないで電気を作っているヨーロッパ】と、【火力発電に7割以上依存している日本】では、EVに使う電気の作り方が違う。いくら車両単体では二酸化炭素を排出しないEVでも、その電気がどのように作られているのかを考慮せずに、真のカーボンニュートラルは実現できない。

そのためにはトヨタだけではどうにもならず、カーボンニュートラルを目指す日本政府が、将来、エネルギーをどうやって作るのかについて、原子力発電所の扱いも含めて、決断を迫られているのだ。


■全方位戦略で守らなければならないもの

トヨタも決断を迫られている。EVに「選択と集中」をして開発を進めるメーカーがある中で、トヨタはエンジン車もハイブリッド車も販売を続ける「全方位戦略」で商品開発を進めている。それはエンジンを作る自動車会社としての希望を捨てていないからだ。

ブラジルではバイオ燃料エンジン車が急速に普及し始めていたり、国内外で水素技術の進歩が進んでいたり、エンジン車でもカーボンニュートラルを目指せる選択肢が広がっている。

「長い間やってきた方々や会社が『今までの人生はなんだったのか』と思うことのないように―」と豊田社長は話す。カーボンニュートラルを目指す中で、世界最大の自動車会社のトヨタは、エンジン技術を含むクルマ作りの文化、部品製造の技術、それに関わる雇用を守るべきだという自負がある。常々、豊田社長が主張してきた「国内の550万人の雇用を守る」ためには、EVと真っ正面から向かっていかなければならない。


■「情熱」で走る電気自動車

今後の課題は、EVの製造が増えてエンジン車の製造が少なくなっていく中で、これまでエンジンに携わってきた多くの人たちの、EV新時代に合う働き方をどのように支援をしていくかだ。トヨタが今後、作るEVに550万人の「情熱」を注ぎ始めるか。「今までのトヨタのEVは興味がなかった。これから作るEVは興味がある」という豊田社長の言葉の含意は。

自動車会社として培ってきた技術を最大限生かした、人の情熱が感じ取れる全く新しいEVの開発に豊田社長が希望を感じ始めたのかもしれない。