日本製鉄会長怒りの会見のワケ 対米投資・輸出への影響は?【#きっかけ解説】
──日本の企業がアメリカの大統領を訴えるという、異例の事態になっていますね。
はい、日本製鉄の怒りの会見ではこのように話しています。
日本製鉄橋本英二 会長
「米国での事業遂行を決して諦めることはありません。諦める理由も必要もない」
「本当に安全保障上の問題があるのであればとっくの昔にバイデンはこれを承認しないと判断できたわけですよね」
「しかしながらバイデンの不当な判断によって結論がでました」
──これはかなり怒ってますね。
はい、時折、大統領を「バイデン」と呼び捨てにするなど強い口調での会見でした。日本製鉄側が提訴という強い手段に出た背景には、バイデン大統領は、中止命令の理由を「国家安全保障を損なう恐れ」としていますが、そうではなく「政治的な思惑による不当なものだった」と考えているからです。
──どういうことなんですか。
まず、当事者である日本製鉄とUSスチールは、お互いに買収に合意している「相思相愛」の関係です。
「USスチール」は業績不振で自力での再建が難しくなっています。
生産量世界24位のUSスチールを世界4位の日本製鉄が救うような形で合併すれば「世界3位」となります。
中国が安い鉄を大量に供給する中で「タッグを組んで生き延びよう」というのが狙いでした。
──しかし、これに「待った」がかかった。
バイデン大統領は年明けすぐの1月3日、買収の中止命令を出しました。
でも、これまで日本製鉄側は買収しても“雇用を守る・工場の閉鎖はしない”などUSスチールに相当有利な約束をしています。
──どうしてバイデン大統領は買収に反対しているんですか?
ポイントは「労働組合」と「ライバル企業」です。
バイデン大統領は自分自身を「史上最も労働組合寄りの大統領」と言っているのですが、支持基盤である鉄鋼業界の「労働組合」が買収に強硬に反対していて、組合を怒らせたくなかったということ。
もう一つのライバル企業ですが、もともとUSスチールの買収を狙っていたアメリカ国内の会社が、日本製鉄に競り負けました。
それで、労働組合と一緒になって日本製鉄をアメリカに入らせまいと、バイデン大統領に買収妨害の働きかけを行っていたというんです。
──気になるのは今後の日本への影響ですよね。
企業トップらからも懸念の声が出ています。
サントリーHD 新浪剛史社長
「日米協力してアメリカの鉄鋼業界を良くしようというのが今回のディールなわけですよ。これ(中止命令は)アメリカを救うんじゃなくてアメリカを窮地に追いやる、そういう意思決定です」
森トラストの伊達社長
「様々な制約が政府によって起こると投資戦略を立てにくくなってしまう」
日本生命の筒井会長
「経済合理性にかける。政治的合理性も、安全保障の面でも、説明が必要」
日米の経済関係に詳しい野村総合研究所の木内登英さん
「日本はアメリカの仲間だと思っていたら実は仲間でなかったと日本の企業に大きなショックを与えている。今後の投資や輸出にマイナスの影響があるのではないか」
と見ています。
──このニュースで片山さんが伝えたいことは何でしょうか?
「これは一企業の話ではなく日本全体の話」だということです。
今後、日本は少子高齢化で市場が先細るなか、市場としてのアメリカを断ち切るわけにはいきません。
だからといって、日本に不利な話を黙ってのんでいくわけにもいかない。
企業だけでなく政府にもしたたかに、かつ断固とした態度を期待したいと思います。
【#きっかけ解説】