【全文】日銀次期総裁候補・植田和男氏 国会で所信表明 日銀の金融政策「適切」
日銀総裁の交代で日本の金融政策、経済はどう変わるのか? 次の総裁候補として政府から提示されている共立女子大学教授・元日銀審議委員の植田和男氏が国会で所信表明しました。
【以下、植田氏の所信表明】
植田でございます。本日は、所信を述べる機会を賜り光栄に存じます。
私は、内外の大学において、主にマクロ経済学、金融ローン、国際金融の分野で研究と学生の指導にあたってまいりました。また、この間、平成10年から17年までは、審議委員として、日本銀行の政策決定、業務運営に参画いたしました。
委員退任後は、アカデミズムの世界に戻りましたが、日本銀行との関係では、金融研究所特別顧問などの立場でアドバイスを行ってまいりました。
また、金融政策の理論や実践について、国際カンファレンスなどの場で、内外の学者だけでなく、海外中央銀行、市場関係者等の実務家とも議論を行ってまいりました。
まず、金融政策について私の考え方を述べたいと思います。
金融政策は、景気と物価の現状、そして先行きの見通しに基づいて運営する必要があります。現在、我が国はコロナ禍から持ち直しているところですけれども、内外経済や金融市場をめぐる不確実性は極めて大きい状態です。
消費者物価の上昇率は4%程度と、目標とする2%よりも高くなっております。しかしその主因は、輸入物価上昇によるコストプッシュでありまして、需要の強さによるものではありません。こうしたコストプッシュ要因は、今後、減衰していくとみられることから、消費者物価の上昇率は、来年度、23年度半ばにかけて、2%を下回る水準に低下していくと考えられます。
金融政策の効果が実現するまでには、ある程度の時間がかかります。金融政策の理論では、需要要因による物価上昇には、予防的に対応して需要を抑制する一方、コストプッシュによる一時的なインフレ率の上昇には直ちには反応せず、基調的な物価の動向に反応するというのが標準的な対応と考えます。そうでないと、金融引き締めによって需要を減退させ、景気悪化とその後の物価低迷をもたらすことになってしまいます。
この点、我が国の基調的な物価上昇率は、需給ギャップの改善や、中長期の予想インフレ率の上昇に伴って、緩やかに上昇していくというふうに考えられます。
ただ、目標の2%を持続的安定的に達成するまでには、なお時間を要するというふうに考えております。
こうした経済物価情勢の現状や先行きの見通しに鑑みれば、現在、日本銀行が行っている金融政策は適切であると考えております。金融緩和を継続し、経済をしっかりと支えることで、企業は賃上げをできるような経済環境を整える必要があります。
もし、私を日本銀行総裁としてお認めいただきましたならば、政府と密接に連携しながら、経済物価情勢に応じて適切な政策を行い、経済界の取り組みや政府の諸施策とも相まって、構造的に賃金が上がる、そういう状況をつくり上げるとともに、一時的でなく、持続的安定的な形で、物価の安定を実現したいと考えております。
次に、日本銀行の金融政策について、やや長いタイムスパンで少しお話ししてみたいと思います。
私が審議委員に就任いたしました平成10年当時、日本経済はバブル崩壊から金融危機を経て、デフレに突入したところでございます。
一方で政策金利は、既に0.5%を下回る水準まで低下しており、通常の金融政策の範囲では、緩和の余地がほとんど残されておりませんでした。このため日本銀行は、ゼロ金利政策、時間軸政策、量的緩和政策など、非伝統的と言われた金融政策を世界で初めて、次々に導入いたしました。
私はこれらの立案過程に、ほかの政策員と相談しながら、主に理論面から参画いたしました。
これらの政策の幾つか、例えば、時間軸政策は、その後、欧米の中央銀行でもフォワードガイダンス等として採用されるなど、世界の、金融政策の標準にもなってきました。
私が審議委員を退任した後も、日本銀行は、量的質的金融緩和、マイナス金利政策、イールドカーブコントロールなどを採用し、世界でも、また歴史的にも大規模な金融緩和を実施してきました。
これらは、実質金利の引き下げを通じて、企業収益や雇用の改善などに貢献し、デフレではない状況をつくり上げたと考えております。
一方で様々な副作用が生じていますが、先ほどお話しした経済物価情勢を踏まえますと、2%の物価安定の目標の実現にとって必要かつ適切な手法であると思います。今後とも情勢において工夫を凝らしながら、金融緩和を継続することが適切であると考えます。
これまで、日本銀行が実施してきた金融緩和の成果をしっかりと継承し、新日銀法施行以来、25年間、日本銀行にとっても、また私自身にとっても、積年の課題であった物価安定の達成というミッションの総仕上げを行う5年間としたいというふうに考えております。
以上、金融政策についてお話ししましたが、日本銀行のもう一つの重要な責務は、金融システムの安定でございます。
我が国経済にとって金融仲介機能が円滑に発揮されることは極めて重要です。人口減少など我が国の金融機関、金融システムを取り巻く環境が厳しさを増す中、この面でも適切な施策を実施してまいります。また、銀行券の発行と流通、決済システムの運営、国庫金に関する業務など、いずれも国民経済に必要不可欠なものです。
そうした社会インフラを安定的に運営していくために、日本銀行約5000人の職員と力を合わせて、日々業務にあたってまいりたいと考えております。
どうもありがとうございました。