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ロシア国内反発 なぜプーチン大統領は 部分的動員を決断したのか【深層NEWS】

2022年9月27日 18:12
ロシア国内反発 なぜプーチン大統領は 部分的動員を決断したのか【深層NEWS】
2022年9月22日放送『深層NEWS』より

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から7か月。ウクライナ軍が反転攻勢を強める一方で、プーチン大統領は予備役を対象とした部分的な動員令に署名しました。これにロシア各地では抗議 デモが起きています。

9月22日放送のBS日テレ「深層NEWS」では、笹川平和財団上席研究員 小原凡司さん、筑波大学教授 東野篤子さんをゲストに、当初慎重と見られていた予備役の動員をプーチン大統領はなぜ決断したのか、軍事侵攻の今後にどういった影響を与えるのかを議論しました。

 ◇◇◇

右松健太キャスター
「ロシア国内では部分的な動員令に対し、抗議デモ が起きています。軍事侵攻開始以降、国内世論を抑え込んできたプーチン政権ですが、対する市民の受け止めをどうみていますか?」

小原凡司氏
「これまで(ロシア市民)は、自国の安全には関係ない、他国の自分たちから遠いところで行われていて、しかも勝っていると信じて、あるいは信じさせられていたわけです」

「そうすると、市民というのは無関心を装えるわけですが、それが実は負け始めてるんじゃないか、そして動員というところまで来れば、今度は自分たちに直接関わってくるということが急に起きたわけですから、その衝撃と反発は大きいのだと思います」

右松キャスター
「反発の大きな要因は予備役の部分的動員が示された点ですが、同時にロシアの劣勢が市民にも示された形になったのでしょうか?」

東野篤子さん(筑波大学教授)
「そうですね、ここまでやらなければいけない以上、何かが起きているというふうに感じとったロシア市民は少なくないと思います」

「軍事侵攻の初めから一定程度、戦争に反対する市民もいましたが、開始後、ものすごく弾圧を受け、反戦の意思を示したくても隠していた人が多いですが、それでも今回、デモが起きたということは、やはり非常に強い意志を持った反戦活動が展開されていると見た方がいいと思います」

右松キャスター
「プーチン大統領の演説のポイントをこちらにまとめました」

「全体を通じてプーチン大統領が、軍事侵攻始まって7か 月が経つのを前に、このような中身の演説を行ったことをどう見ていますか?」

小原氏
「ロシアは2000年に発表した軍事ドクトリンで既に『エスカレーション抑止』という考え方を示しています。通常兵力でNATO(北大西洋条約機構)に 対して圧倒的劣勢に立っているロシアは、NATOを抑止するためには通常兵力では駄目だと。だから核を使ってより大きく段階を上げるんだ、というのをロシアが示すことによってNATOに手を出させないという考え方です」

「これを改めてウクライナで、もう一度示さなければいけないほど、ロシアは今劣勢に立たされている可能性が高いと思います」

「しかも、『エスカレーション抑止』の考え方は自国の安全が脅かされれば、相手は核を使用しなくても自分は核を使うということなのですが、それもこの2番目の『ロシアへの編入』ということにも掛かってくると思います」

「ここで住民投票を行って、いくら国際社会が反対しようがロシアはロシアで勝手に編入したと言いますから、今度は『自国領に対する攻撃だ』ということになり、『核兵器を使用するぞ』ということが現実味を帯びるということになる」

「ですから、そのような脅迫の中身に現実味を帯びさせるためにもこの住民投票を行うということです」

「ただ『自国領に対する攻撃』ということになると、これは「戦争」ということになるので、今までのように「特別軍事作戦」と言えなくなるという、これも諸刃の剣だと思います」

東野氏
「そもそもの大きな動きとして、このような演説をこのタイミングで行ったということは、やはり9月7日以降の東部に対するウクライナ軍のその反転攻勢が、2週間に及んで続いているということ。やはりこれは相当の危機感を持ったんだろうと思います」

「戦況で押し込まれて いるからこういった措置を次々に出さざるを得なくなってきていると思います」

郡司恭子アナウンサー
「部分的な動員令について、プーチン大統領の演説の内容がこちらです」

「軍隊経験のある予備役が対象で、約30万人が招集されるとみられています。また、ロシアが動員令を出すのは第二次世界大戦以来だということです」

「動員令を出したタイミングをどう見ていますか?」

小原氏
「ロシア軍が劣勢に立たされている。このままだと軍事的にも今まで押さえている地域を奪還されかねない。東部2州を失ってしまえばプーチン大統領は負けを認めざるを得なくなります。負けは認めない。そのためにはさらに動員し、兵力を増強して、今までロシアが抑えたところは取らせないということにするのだと思います」

右松キャスター
「予備役の動員は第二次世界大戦以来だと。ウクライナ軍事侵攻が始まって約7か月 間の情勢においての演説をどのように位置付けますか?」

東野氏
「このヒントは、プーチン大統領の演説の前半部分にあったんだろうと思います」

「長々と、『これはウクライナとロシアの戦いではなくて、ウクライナを完全にアメリカやヨーロッパが操っている』と。『ウクライナが和平に動こうとすることがなかったわけではないけれども、それは西側諸国が邪魔して和平させなかった』と。(この内容は)嘘八百なんですけどそういうこと言っています」

「結論として、これは『ロシア対ウクライナ』の戦いではなく、ウクライナのバックにはNATOがいるのだから、段階を上げなければならない、という区切りとしてNATOに対してロシアがよりよく対処するためのものだとロジックを切り替えたんだと思います」

右松キャスター
「これまでは『ロシア対ウクライナ』という構図だったものが、ロシア側は、『ロシア対NATO』あるいは『ロシア対アメリカ』という位置づけに変えていきたい?」

東野氏
「元々そのようには言っていました。ただ、あくまでもこれは『特別軍事作戦』で小規模の限定的なものとしてできるはずだったのに、NATOや米欧諸国の役割が自分たちの思っていた以上に深刻だということです」

「なので、今までも言ってはいましたがその要素や、その割合が上がってきたというように、徐々にロジックを変えてきてると思います」

右松キャスター
「ロシア軍の総兵力は職業軍人、契約軍人、徴兵者あわせて90万人とされています。正規軍の投入を避けて、予備役の動員を判断した軍の考えは?」

小原氏
「この正規軍にどのぐらい動かせる余裕があるのかというのは、わからないというのが正直なところです」

「これだけ広い領土ですからそれぞれの地域に展開している部隊はそれぞれ任務を負っているので、そこから離せない部隊もあると思います」

「また今回、ウクライナに投入した部隊の多くはロシア東部から持ってきているということを考えると、西部の部隊を使いたくないのではないかという心理もうかがえます」

右松キャスター
「正規軍の精鋭部隊はまだ触りたくないと」

小原氏
「正規軍を投入したくないという理由は、『これは戦争ではない』という主張していることにも関わっているかもしれませんし、その他にも軍内部との関係もあるかもしれません。そこのところは明確ではありません」

右松キャスター
「予備役の30万人はどのような基準で選ばれると見ていますか?」

東野氏
「ここが明らかではないので、この自分も当てはまるんじゃないかと今、多くの人に疑心暗鬼になっていると思います」

「『私は従軍経験がないです』と言える人は、もしかしたら関係ないと思っているかもしれないですが、この従軍経験が実は非常に柔らかく解釈される可能性がある。例えば、少しでも訓練を受けたことがある人であれば従軍経験があるとみなされる。ロシアの国内でも情報が入り乱れていて非常に混乱しているわけです」

「だからこそ、自分も関係あるかもしれないと思う人でお金のある人は国外に逃亡するなど、選ばれ方がまだわからないことがさらなるパニックを引き起こしてると思います」

右松キャスター
「今月に入って、ウクライナ軍はハルキウ州の一部を電撃的に奪還するなど反転攻勢を強めています。ウクライナの東部・南部も今後ウクライナ軍ペースで進むと見ていますか?」

東野氏
「東部と南部は分けるべきだと思います」

「今のロシア軍の動きは、アメリカやイギリスなどの衛星情報からも見て取れますが、どうやらそこまでロシア側は反転攻勢の準備ができていないようだと。東部に関してはどんどん押し込んでいるけれども、南部ヘルソンに関してはやはりまだ激戦地だということです。一部ではウクライナ軍の劣勢も伝えられている。南部に関してはやはり進度は非常に遅いですし、これから苦戦する可能性もあると思います」

右松キャスター
「激戦地に今回の予備役を投入するのか否か。どのように見ていますか?」

小原氏
「通常であれば、予備役を最前線に送るってことはあまり考えられないですよね。よほど追い込まれている状況でない限りそういうことはしない。普通は後方の補強基地の警備などの任務に当たらせて、そこに付いていった熟練兵を前に出すというのが普通の考え方だと思います」

「ただ、ロシアの場合はどこまで追い込まれているかによって、こういう人たちを最前線に送り込む可能性はあると思います」

「元々、ウクライナに侵攻した時、新しい兵が多かったと聞いていますから、ロシアはそういう部隊の使い方をするんだということです。例えば消耗戦の時に『消耗していい人たち』を先に出して消耗させるといったこともやるのかもしれません」

飯塚恵子 読売新聞編集委員
「玉石混交かもしれませんが兵力増強ですよね。これによって長期化は避けられず、停戦する気がないということがはっきりしたと思います」

「なぜ予備役の部分的動員をと考えると、単に反転攻勢のためというだけではなく、おそらく、プーチン氏の周辺に強硬派の人たちがいるんだと思います」

「この人たちが『なんでこんなに負けているんだ』とプーチン氏を突き上げている動きもあるのではないか。今まではプーチン氏も動員は慎重だったわけですが、もう少し強硬に出ざるを得ない背景に、後ろから押している人がいるのではと。国内の権力闘争や圧力も感じます」

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