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イギリス定年制撤廃で、注目の日本企業とは

2011年1月26日 17:20
イギリス定年制撤廃で、注目の日本企業とは

 企業の「65歳定年制」が撤廃されるイギリス。そんな中、日本のある会社が注目されている。ロンドン支局・大脇三千代記者が取材した。

 ビール片手にパブで語り合うのが楽しみというサイモンさんは62歳。悠々自適に見えるが、今も現役の電気技師として自動車の部品工場で働いている。サイモンさんは「機械にはずっと興味が尽きないから、仕事は楽しいよ」と語る。そんなサイモンさんに、大きく関わる制度が今年、変わることになった。65歳の定年制度が撤廃されることになったのだ。企業は年齢を理由に解雇することができなくなる。サイモンさんは「高齢の働き手は信頼できるし技術も高いよ」という。働き続けたい人には歓迎されているこの改革だが、実は国の「財政赤字」が大きく関わっていた。イギリス政府は大幅な予算の切りつめと増税で財政再建を目指している。教育費の削減では大学の学費値上がりに学生たちが大反発し、デモも行われた。

 そして今年に入って、日本の消費税にあたる付加価値税は、2.5%引き上げられ20%になり、生活にかかる費用もかさんでいくようになった。街の女性は「20%の付加価値税は家計を直撃するわ」と、不安を語る。さらに、年金制度への支出を減らすため、年金支給の開始の年齢も引き上げられる。定年制の撤廃はこれに伴うもので「仕事を続けたい」といっていたサイモンさんも実は、老後のやりくりが大きな問題だった。サイモンさんは「不景気で娘夫婦が失業中で生活費の支援のために、私たち夫婦の貯金を大幅に切り崩したんだ。65歳をすぎても働き続けなきゃね」と語る。

 イギリスでは今、若者の5人に1人は失業している。不況が続く中、定年制の撤廃には市民も複雑だ。行政職員の女性も「寿命も延びて長生きするようになっているから、なんらかの方法を考えないとね」と、高齢社会の難しさを語る。定年がなく老後も働き続けるということに関して、自分と社会がどうなるのか、なかなかイメージ出来ない。

 高齢社会のモデルケースとして世界から注目されている会社が、実は「日本」にあった。岐阜県の加藤製作所は60歳以上の従業員が半数を超えている。元JR機関士の森さんは「朝ちゃんと起きて『今日も仕事だ』と思うと、また元気が起きる」と、語る。会社にとっては、経験豊富で熟練の高齢者をパートで雇うことができるため経営的なメリットがあるという。年齢を問わず、高齢者でも働きやすいように、いろいろ工夫をした。加藤製作所の加藤景司社長は「段差をなくすとか照明を明るくするとか、暑さ寒さとか、品質や安全、納期などに悪い影響が出なければいいと心配したのですが、2人のシルバーに1人の正社員をつけるなど配慮した」と、説明する。10年前には15人だった高齢従業員が今は52人。週に4日で、給料は月に7万~10万円になるとのこと。従業員の松井さんは「孫が小学校に入った時にまとめてあげたり、中学の学生服とかを買うのに助けてあげないと今は大変だから」と語る。一方、老後を心配するのは日本の若者も同じだ。若い社員は「すごく心配です。僕が定年になるとき年金をもらえるか心配」と不安を隠せない。加藤社長は、若手社員に「経験や年齢を問わず、やる気と元気を問う。その中で若い人と高齢者が一緒に働く良さを見つけてほしい。自分もそうなるのだから」と、語りかける。

 いつまで働くのか?いくつになっても生き生きと暮らせる社会にするにはどうしたらいいのか?イギリスでも日本でも「今までとは違う発想」が求められているのかもしれない。