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冬のモスクワ 寒さを逆手にとった生活

2011年2月16日 16:55
冬のモスクワ 寒さを逆手にとった生活

 白く凍てついたモスクワ川。その一面に張った氷を豪快に砕きながら砕氷観光船が進んで行く。船が氷を砕くバリバリという音が響いている。現在、氷の厚さは5センチほどということだが、船は意外にスムーズに進んでいる。去年、試験的に導入されたモスクワ川の砕氷観光船。市民や観光客の人気を集め、いま週末は予約でいっぱいになる。2時間半のクルーズでは食事を楽しむ人、河畔の景色を楽しむ人、思い思いの時がゆっくりと流れていく。

 街中が凍りつくこの季節、モスクワの真ん中「赤の広場」にはスケート場がオープンする。ライトアップされたクレムリンやワシリー寺院、幻想的な光景は厳しい寒ささえ、少しの間忘れさせてくれるようだ。スケートをしている人に話を聞いてみると「素晴らしいリンクだよ。こんなステキな場所に…楽しみますよ」「気持ちいいよ、ぼくは気に入っているんだ!」と、評判も上々だ。

 そして、氷の街モスクワには究極の楽しみ方がある。私が歩いているのは、分厚く張った池の氷の上。気温は氷点下16℃。この寒さの中でちょっと異様な光景が繰り広げられている。なんと冷たい池の中に入っていく人たちがいるのだ。みなさん、いったい何のために氷の張った真冬の池に入って行くのだろうか?自虐的とさえ見えるこのイベント、実は「洗礼式」というロシア正教の正式な宗教行事だ。キリストがヨルダン川で洗礼を受けた、ということからこの真冬の洗礼式は始まったという。信者たちは、全身を3回、水中に沈める。そうすると一年間、キリストの祝福を得られる。ただ、そうしたことではなく、一番寒い時期に一番寒そうなイベントへの参加を楽しみにしている、という人も多いそうだ。参加者に感想を聞いてみると「最高だよ」という人や「息ができないくらい寒かったわ。でも今の気分は最高よ」という人、「生き返った様な気分だよ」と、答える人もいた。みなさん、わりと気持ちよさそうに入っていっているのだが、さて、湯加減はどんなものなのだろうか?水に手を入れてみると、とんでもない冷たさで日本人の私には死にそうなほどの厳しさだ。緊急事態に備えて池の周りには大勢の警官やレスキュー隊員が待機、万が一の場合には完全装備の潜水夫も出動する。この洗礼式、今年はモスクワ市内46か所で行われた。水に入る人は年々増え続け、今年は去年の約2倍、6万人が身を清めたという。

 氷に閉ざされた街「モスクワ」。しかし、そこに暮らす人たちは寒さを逆手にとって優雅に、そしてたくましく過ごしているようだ。