次世代の「宇宙船開発」の最前線に迫る!
スペースシャトルが引退したアメリカでは、民間企業が新しい宇宙船の開発を担うことになった。その宇宙船開発の最前線をニューヨーク支局・正田千瑞子記者が取材した。
“シャトル後”の担い手として注目されている企業のひとつに、ベンチャー企業の「スペースX(エックス)社」がある。この企業では、すでに2010年に、新型宇宙船「ドラゴン」の打ち上げ実験に成功している。このロケットの打ち上げコストは約48億円。スペースシャトルのわずか16分の1だ。スペースX社のトップであるイーロン・マスクCEO(=最高経営責任者)は「スペースシャトルの時代は終わった。3年後には、私たちの宇宙船『ドラゴン』で、最初の飛行士を宇宙に送り出すよ」と、自信に満ちた表情で語る。
オバマ政権は、1回の打ち上げに約800億円もかかる「スペースシャトル計画」を打ち切り、シャトルに代わる宇宙船の開発を民間に委ねることを決めた。民間に競わせることで、宇宙に行く手段を“より安く、より早く”開発できると判断したからだ。
今までシャトルを作ってきた大手「ボーイング社」も新型宇宙船の開発をすすめている。ボーイング社の新しい宇宙船に関する戦略会議には、かつてシャトルを開発していた技術者も参加している。ボーイング社のマイク・バーガード宇宙船開発長は、「新しい宇宙船の操縦席のモニターには、旅客機ボーイング787のコックピットと同じものを使うつもりです」と、ボーイング社ならではのノウハウを生かした開発方針を語る。
ボーイング社の新宇宙船「CST100」の形状は“アポロ型”で、シャトルに比べて極めてシンプルだ。すでに運用されている旅客機の技術などを使って、コスト削減を狙っている。地球に帰還するための実験も始めており、4年後の実用化を目指しているという。
一方、民間で「宇宙ステーション」を作ろうという企業まで現れた。それがネバダ州・ラスベガスの「ビゲロー社」だ。敷地内には水深8メートルの大きなプールが用意され、ここに宇宙ステーションの模型を沈めて圧力のテストを行っているという。
ビゲロー社の建物の中に入ると、開発中である「宇宙ステーション」の模型が現れた。高さ(直径)8メートルにも及ぶ実物大の巨大模型だ。内部のドアや部屋の仕切りには「マジックテープ」が使われ、寝袋などは、無重力の状態でも浮かないよう壁に貼り付けられるなど、徹底した軽量化が図られている。また、外壁はふわふわとした柔らかいクッションのような手触りになっており、防弾チョッキと同じような素材で作られているという。さらに、建物内では、人間(宇宙飛行士)の尿を水素と酸素に分解して作る「水素燃料」を使ったエンジンの噴射実験も行われていた。この「宇宙ステーション」の最大の特徴は、小さな状態で打ち上げ、宇宙空間で膨らむ構造になっていることだ。これにより打ち上げコストを大幅に削減できるという。
ビゲロー社では、打ち上げた宇宙ステーションを丸ごと、あるいは、一部を「リース」として貸し出すビジネスモデルを考えているという。宇宙旅行客のためのホテルや実験施設として活用されることに期待を寄せている。ビゲロー社のジェイ・インガム副社長は、「すでに6~7か国と覚書を交わしています。日本やドバイからも声がかかっているよ」と、自信をのぞかせる。
「宇宙ステーション」の模型の近くでは、新しい宇宙服の開発も進められていた。その中には、マジックテープで脱着可能ないくつかのポケットがついた宇宙服があった。ポケットにしまっていたものが宇宙空間に飛び出しにくい作りになっているようだ。ビゲロー社では、「宇宙ステーション」や「宇宙服」の4年後の実用化を目指し、さらに将来的には、月面にも滞在できるよう工夫を重ねているという。
スペースシャトルの時代が終わり、本格的な“民間の時代”に入ったアメリカの宇宙開発。宇宙に行く値段が安くなれば、私たちにも宇宙がより身近なものになるかもしれない。