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引退したシャトルが医療やロボットに

2011年8月3日 19:49
引退したシャトルが医療やロボットに

 先月、30年の歴史に幕を下ろしたアメリカのスペースシャトル。シャトルに使った最新の技術を新たな分野で活用しようとしている。ニューヨーク支局・杉山亮記者が取材した。

 スペースシャトルのエンジン技術を、働きが弱くなった心臓を助ける装置である補助人工心臓に活用しているのがジョンソン宇宙センターの近くにあるマイクロメッド社だ。精密さ、確実さ、耐久性などが求められる補助人工心臓。最も重要なチタン製の部品は1時間20分かけて1つ1つ作られていく。出来上がったばかりの部品には、シャトルのエンジンの技術が詰まっている。マイクロメッド社のブライアン・リンチさんは「この羽根車の刃の形を作り出すのには苦労しました」と語る。小さくてずっしりとした羽根車の溝の形こそがNASAの研究成果だ。エンジンに燃料を滞りなく送り込むシャトルの技術が生かされたのだ。補助人工心臓は大動脈と心臓につながれ1分間あたり10リットルの血液を全身に送り込む。

 補助人工心臓の耐久テストの様子を指し示しながら、リンチさんは「ポンプが体内に埋め込まれ激しく使用されている環境を再現しています。ここのポンプはすでに6か月ほど試験をしており、あと6か月は続けます。そこで成果を確認してもう1年」と説明してくれた。アメリカでは、年間3万5000人に心臓移植が必要だとされているが、移植が可能なのは約2500件。補助人工心臓の必要性は高まるばかりだ。

 開発に携わったジョージ・ヌーン医師は「最初はこのプロジェクトがうまくいく確信がありませんでした。NASAには宇宙という挑戦があり、我々には血液を循環させるという目標がありました。しかし優れたポンプを作るという結論は同じだったのです」と語る。1988年ころから開発を開始し、50回以上の改良を重ね、ポンプの部分が長さ約5センチ、90グラムと小型化することに成功した。このため子供の患者にも使用できるという。すでにヨーロッパでは約500人の患者に使われ、アメリカでも治験などを経て2年後には認可される見通しだ。

 一方、シャトルが宇宙に運び込み、今後の宇宙開発を大きく変える可能性を秘めているのがNASAで開発中のロボット宇宙飛行士「ロボノート」だ。現在、宇宙飛行士の古川聡さんらと地上400キロ上空にある国際宇宙ステーションで生活している。操作するためにはセンサー付きのグローブとヘルメットを装着し、手を器用に動かして踊ったり、握手をしたりすることができる。また、人間と同じような動きで10キロのダンベルを持ち上げることもできる。

 開発担当者はロボノートを操作し電動ドリルを器用に動かす様子を見せてくれた。そして「人間が行う作業は、ゆくゆくはすべてロボットが行います」と話す。人間と同じ形の手をもつため、通常の工具を使うこともできる。特別な機器開発の必要がなくコスト削減に役立つ。担当者は「一番難しかったのは前腕部分です。一定の大きさに多くの機能を埋め込みながら必要な強度を保っていなくてはなりません」と語る。

 今後、国際宇宙ステーションで船長になる若田光一さんにとってはこのロボットが「部下」になる可能性もある。若田さんは「人間でしかできないこと、ロボットでしかできないこと、それをしっかり切り分けていけば、安全で効率的なミッションができる」と分析する。このロボノートが1年半以内に、国際宇宙ステーションで歩き回り作業できるようにするのが目標だ。

 スペースシャトルが積み重ねてきた実績と成果は未来に向けて確実に進化を続けている。