【解説】北朝鮮が特殊部隊含む1万2000人をウクライナ投入か“兵力補充”と“実戦経験”で思惑一致も…露朝の狙いは?
韓国の情報機関は、北朝鮮がウクライナとの戦闘に特殊部隊など1万2000人の派兵を決定したことが分かったと明らかにした。なぜ、北朝鮮がウクライナ侵攻に“参戦”するのか。そこにはロシアと北朝鮮、それぞれの思惑が一致する事情があった。
(日本テレビ報道局国際部デスク・富田 徹)
■北の特殊部隊“1500人”すでにロシア入りか
韓国メディアによると、韓国の情報機関・国家情報院は18日、北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支援するため、1万2000人規模の正規軍を派遣することを決定した。すでに、北朝鮮の特殊部隊、約1500人がロシアの輸送艦によって、ロシア極東のウラジオストクに到着しているという。
韓国国家情報院も、今月8日から北朝鮮の兵士らがロシアの艦船で移動したことを確認したと明らかにした。兵士らはロシア軍の部隊に分散して駐留し、適応するための訓練を終え次第、戦場に投入されるとみられている。
一方、ウクライナ側も情報発信を始めている。ウクライナメディアは、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長の話として、北朝鮮軍の1万人以上がロシアでの訓練を経て、11月1日にはウクライナとの戦闘に投入されるとの見通しを明らかにしたと伝えた。
最初の投入先はウクライナが越境侵攻しているロシア領のクルスク州で、規模は約2600人。北朝鮮の兵士たちはロシア軍の装備や弾薬を使って戦闘に参加するとしている。その後はウクライナ領内にも投入されるのか、ブダノフ局長は「今のところ全体像は把握していない」と述べたという。
また、ウクライナメディアは15日にも、すでに3000人規模の北朝鮮兵がウクライナに隣接するロシアのクルスク、ブリャンスク州でロシア軍の部隊の一部として編成されていると報じた。一方で18人が脱走し、ロシア軍の捜索を受けているとも伝えている。
■ゼレンスキー大統領「世界大戦への一歩」
2年半を超える戦闘の消耗で、ロシアとウクライナは双方で兵員不足が指摘されている。そんな中、降ってわいた“北朝鮮の参戦”情報。ウクライナも危機感をあらわにしている。
ウクライナメディアによると、ゼレンスキー大統領は会見で「プーチンはロシア社会の世論が追加動員に反対しているのを知っている。だからこそプーチンは外国の支援を模索している」と述べ、プーチン大統領主導で北朝鮮を戦場に招き入れたとの見方を示した。
さらに、「イランは、すでにミサイルと無人機をロシアに送ったが、部隊は出していない。しかし、北朝鮮は事実上、2か国目として戦争に参加していて、ロシアとともにウクライナと戦っている」と述べた。
そして、「これは世界大戦への一歩だ」と各国に警鐘を鳴らした。
■北朝鮮の“暴走”に“後見役”中国は沈黙…
“北朝鮮の参戦”情報にウクライナ以外の国々の懸念も深まっている。韓国メディアによると、韓国大統領府は北朝鮮の部隊派遣は「国際社会に対する重大な安全保障上の脅威であり、あらゆる手段を使って対応する」と表明した。
一方で、中国は沈黙を保っている。これまで、北朝鮮の核・ミサイル開発などをめぐり、国際社会が影響力の行使を期待してきたのは“後見役”の中国だった。
しかし、この1年、北朝鮮製の武器がウクライナの戦場で使われた“証拠”が次々と明らかにされても、中国にその役割は期待できないと考えてか、北朝鮮のロシアへの過度な肩入れをやめるよう要求する声は、ほとんど起きなかった。
■北朝鮮“参戦”か…ロシアと北朝鮮の狙いは?
北朝鮮軍のウクライナ派遣の真偽は今後、明らかになるだろう。しかし、北朝鮮が本当に1万人を超える兵士をウクライナに派遣するなら、その狙いはどこにあるのか。
まず、プーチン大統領にとっては「兵員不足」を埋めることができる。イギリス国防省によれば、先月のロシア軍の1日あたりの死者は1200人超。国内の反発もあり、大幅な動員は厳しい。北朝鮮からの派兵は、プーチン大統領にとって「のどから手が出るほど」ありがたい援軍となる。
北朝鮮軍にとっては「実戦経験」を得る機会になり得る。ウクライナの戦場は無人機をはじめとする21世紀の兵器の実験場。ここで実戦経験を積めば、北朝鮮軍は能力を大きく向上させる一方、日米韓にとっては大きな脅威となる。
加えて、ロシアに“貸し”を作るためという動機も考えられる。北朝鮮はロシアと今年、軍事などの協力強化を目指す条約に署名した。この中では「一方の国が武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、他方の国は保有するあらゆる手段で遅延なく軍事支援を行う」と規定している。北朝鮮は、これを受けて“実績作り”に励んでいるのではないかともみられる。
北朝鮮はロシアとの条約締結と軌を一にして、韓国への敵対姿勢を日増しに強めている。北朝鮮のウクライナ紛争への肩入れは、極東で緊張が増した際に、ロシアの後ろ盾を期待してのことではないかとの見方もできる。北朝鮮のウクライナ侵攻参戦は、東アジアの安全保障環境と切り離すことはできない。