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米アカデミー賞 世界が注目の日本人監督

2015年2月27日 14:49
米アカデミー賞 世界が注目の日本人監督

 映画の祭典“アカデミー賞”。今年はアニメーションの2部門に日本人監督の作品がノミネートされ、注目された。授賞式のようすを加藤高太郎記者が取材した。

 世界中で数億人がテレビでその様子を見守るという“アカデミー賞”授賞式。レッドカーペットには、今年もハリウッドスターが勢ぞろいした。ハリウッドが1年で最も輝きをみせるこの日、日本のアニメーションが栄誉に輝けるか注目だ。

 長編アニメーション賞にノミネートされたのは、日本最古の物語“竹取物語”を独特なタッチで描いた『かぐや姫の物語』。このアニメを制作した高畑勲監督は、授賞式の会場についてこう語っていた。

 「どういう所かなと思って来て楽しんでます。すごい驚いてます。みんなワーっとなって楽しい所だなと思う」

 そして、短編アニメーション賞にも日本人監督の作品がノミネートされた。映画『ダム・キーパー』で、日系アメリカ人のロバート・コンドウさんとともに共同監督をつとめ、見事ノミネートを果たした堤大介監督だ。レッドカーペットを歩いてみた感想はというと―

 「これがレッドカーペットかと思いますけど…自分が歩いているという気持ちはない。どちらかと言えばスターたちが歩いていて、それを近くで見ているっていう感じがします」

 『ダム・キーパー』の主人公は、大気汚染から街を守る孤独なブタの少年だ。ブタの少年は学校でいじめられていた。しかし、転校してきた天真らんまんなキツネと出会うことで、次第に変わっていく姿が描かれている。絵画のような繊細なタッチの映像は世界各地の映画祭で高い評価を受け、ついには、アカデミー賞の候補5作品に入ったのだ。堤監督は会場でこう語ってくれた。

 「これだけたくさんの人が注目している中に、僕らが入れてもらっているのは光栄ですし、それに対して感謝しなければいけないと思う」

 堤監督は東京で生まれ育ち、高校卒業後、18歳でアメリカに留学した。その時はまだ、アニメ制作の世界を何も知らなかった。その後、ニューヨークの大学で美術を学び、才能が開花。卒業後にアメリカの大手アニメスタジオ“ピクサー”のスタッフになり、アートディレクターという立場で、人気作『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』を担当した。そして去年、自分たちが本当に作りたいアニメを制作するために独立。初めて監督したこの作品では、光と色彩の効果で感情を表現することにこだわった。堤監督はこのアニメーションについてこう説明する。

 「キャラクターの内面の感情を、どうやってビジュアルな部分に出せるのか。あるきっかけによって、主人公の感情が闇の部分に飲み込まれてしまう、そういう話。だから、ビジュアルにどこまで内面の感情を出せるかという、チャレンジを持ったプロジェクト」

 アカデミー賞にノミネートされた5作品の中で、最大のライバルとみられていたのは大手スタジオ、ディズニーが製作した『愛犬とごちそう』だ。ジャンクフードが大好きな犬が、飼い主を助けようと奮闘する姿を描いたこの作品。堤監督も高く評価している。

 「『愛犬とごちそう』の監督とは、何回か映画祭で一緒だった。友達になったし、作品も素晴らしく応援している」

 一方、『愛犬とごちそう』のパトリック・オズボーン監督も、堤監督の才能を認めている。

 「『ダム・キーパー』はとても美しい作品、そして素晴らしい人たち。堤監督には映画祭で会ったが、素晴らしいアーティストだし、とても好きだよ。どの作品も素晴らしいから、私の受賞は難しいだろう」

 そして迎えた、アカデミー賞授賞式当日。堤監督はこう述べた。

 「これだけたくさんの映画を作っている人たちが目標としている場所に、自分たちが居られるということは意味があると思うので、そこは勘違いしないで受け入れて感謝したいと思う」

 いよいよ発表の時。司会が封筒を開け、マイクに向かって力強く受賞作品を読み上げた。

 「オスカーは…『愛犬とごちそう』」

 惜しくも受賞を逃した『ダム・キーパー』。授賞式の後、『ダム・キーパー』のフェイスブックには、ブタの少年が笑顔を見せる画が掲載された。手に持つメッセージには、「ありがとう、アカデミー」と書かれていた。