【解説】トランプ氏当選確実で何が変わるのか? ~アメリカの“トップ交代”がヨーロッパと中東にもたらすもの
5日に投票が行われたアメリカ大統領選で、共和党のトランプ氏が当選確実となり、勝利宣言を行いました。経済力と軍事力において世界最大のアメリカにおけるトップ交代は、ヨーロッパや中東情勢にどのような影響をもたらすのでしょうか。
ヨーロッパのシンクタンク・ECFR=欧州外交評議会のアナリストが先月、出したリポートの一節には、こう書かれていました。「ドナルド・トランプ氏は外交政策に関しては、依然として不安定、かつ一貫性を欠いている」。
さらに「ヨーロッパの人々は、トランプ氏の一期目の傷からまだ癒えていない。前大統領のEU=欧州連合やドイツに対する深い敵対心は、彼らの記憶から消えていない」とも指摘していました。
トランプ氏の“二期目”の外交が、一期目のような混乱と不確実性に満ちたものになるのか、欧州や中東はかたずをのんで見守っています。
■中東への影響は?
もっとも大きな影響が予想されるのが、中東です。中東ではイスラエルと、イスラム組織ハマスやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなどとの軍事衝突が続いています。
イスラエルのネタニヤフ首相はトランプ氏の勝利宣言に「史上最大の復活だ」と祝福。「イスラエルとの偉大な同盟を再確認することになる」と期待感を示しました。
トランプ氏はネタニヤフ首相に対して「やるべきことをやれ」と伝えたと報じられていて、一期目には、国際的に認められていないにもかかわらず、エルサレムを“首都”と認定してアメリカ大使館を移すなど、強力なイスラエル寄りの姿勢を見せていました。ネタニヤフ首相はトランプ外交の復活に期待を寄せています。
一方、ハマスの高官は「トランプ氏は『戦闘を数時間以内に止められる』という彼自身の発言を試されることになるだろう」と述べ、「バイデンの失敗から学ぶよう求める」としています。
イランは警戒感を強めています。トランプ氏の勝利宣言にイラン政府の報道官は「アメリカ大統領選の結果がイラン国民の生活に影響を与えることはない」と、表向き平静を装っていますが、最高指導者のハメネイ師はイランを敵視するトランプ大統領の復活を警戒していると言われています。
今後、イランが孤立を深め、核開発を加速させて揺さぶりをかけるなど、中東のさらなる不安定化が懸念されています。
■ウクライナの“出口戦略”は?
ウクライナ情勢にも影響を与えることは必至です。ロシアによるウクライナ侵攻は3年目に入りましたが、現時点で出口は見えていません。
「アメリカ第一」を掲げるトランプ氏はかねて、ウクライナでの戦闘を終わらせ、アメリカの多額の軍事・財政支援を終わらせたいと明言していて、ウクライナ支援に後ろ向きな姿勢を示しています。最近の集会でも、「私は撤退する。私たちは撤退する必要がある」と訴えていました。
こうしたトランプ氏の姿勢を歓迎する向きもあります。ロシアに融和的なハンガリーのオルバン首相は、トランプ氏の勝利宣言を受け「アメリカ政治史上最大のカムバックだ」「世界にとって必要な勝利」と祝意を示しました。
以前からトランプ氏への支持を表明していて、投開票前に「トランプ氏が勝利するなら、ヨーロッパはウクライナ支援を再考すべきだ」という趣旨の発言をしています。
ウクライナはNATO=北大西洋条約機構やアメリカからの軍事支援に頼っていて、ロシアに対抗するためには両者の支援が欠かせません。トランプ氏はNATOからの脱退もちらつかせており、今後、ヨーロッパ各国の足並みが乱れる可能性もあると不安視されています。