【解説】英米“機密情報”公開3つの狙い ロシアの今後は“恐怖政治”か“内部崩壊”か
ウクライナでの戦況やロシア軍の動きなどについて、欧米側が機密情報をあえて公開する“情報戦”が激しさを増しています。プーチン大統領はこれをどうみているのか、欧米側の狙いはどこにあるのか、詳しく解説します。
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■「自国軍の装備を破壊」「誤射」続々と“内部情報”公開
アメリカやイギリスは、ロシア・プーチン政権内部の機密情報を相次いで公開しています。
ホワイトハウスの広報部長は、「プーチン氏は、側近から、ロシア軍の戦況がいかに良くないかや、経済制裁による影響について、誤った情報が伝えられている」と発言しています。この理由について、「側近らはプーチン氏が怖くて、真実を伝えられていないからだ」としています。
バイデン大統領は先月31日、「確かなことは言えないが、プーチン氏は自ら孤立しているようだ」と指摘し、「プーチン大統領が一部の側近を更迭したり自宅軟禁したりしている兆候がある」と発言。正しい情報を上げなかった側近に対して、更迭したり、自宅軟禁していると示唆しました。
ホワイトハウスの広報部長は、「プーチン氏は軍に欺かれたと感じて、プーチン氏と軍幹部との間に継続的な緊張関係が生まれている」とも指摘しています。
また、イギリスの情報機関・政府通信本部トップのフレミング長官も、ロシア軍の現在の状況について、“独自の情報網に基づく機密情報”を明らかにしています。
フレミング長官は、「プーチン大統領はこれまで、ロシア軍の能力を大きく見誤った」、また、「ウクライナ国民の抵抗の強さと、西側諸国の団結力、経済制裁の効果を過小評価している」と指摘した上で、次のように話しました。
イギリス政府通信本部 フレミング長官(先月31日)
「ロシア兵は武器も足りず、士気も下がっている。命令に背いたり、自国軍の装備を破壊したり、誤って撃つなどしている。プーチン氏は実際に何が起きていて、自らの判断がいかに間違っていたかは自分でも十分にわかっているはずだ」
このように、アメリカやイギリスが、相次いでロシアの内部情報を公開しています。
■ロシア側の反応「意思決定の仕組み理解してない」
こうした情報に対して、ロシア側はすぐに反論しています。
ロイター通信によると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、「欧米がプーチン大統領やロシア政府をいかに理解していないかを示している」と話しました。また、「彼らは、プーチン大統領のことも、意思決定の仕組みも理解していない。これは残念なだけでなく、こうした誤解が誤った軽率な判断を招き、非常に悪い結果をもたらすことになる」と話しました。
■“相互不信”狙う?英米、機密情報をあえて公開…なぜ
アメリカやイギリスが機密情報をあえて公開しているのはなぜでしょうか。
国際政治学が専門の日本大学危機管理学部の小谷賢教授に聞きました。欧米の狙いについて、3つのポイントがあるといいます。
1.偽情報への対抗
機密情報というのは、文字通りトップシークレットで、表に出すようなものではないのですが、今回、ロシアがさまざまなウソ、ニセ情報を発信しているので、それに対抗するために、正しい情報をあえて公開し世間に知らせるためにやっているということです。
2.停戦協議のかけひき
「実際にはロシアが苦戦している」といった正しい情報を出すことで、停戦協議がロシア側のペースで進まないようにすること、またウクライナが譲歩しすぎないようにすることも狙いとしてあるといいます。
3.相互不信を高める
プーチン大統領は、実は、欧米のメディアにも接して、情報を得ています。そうすると、「側近が言っていることと違う」と気づき、側近に懐疑的な目を向けるようになります。
つまり、欧米としてはプーチン大統領に疑心暗鬼を植え付けることで政権内部の相互不信を引き起こし、内部分裂を狙っているということです。さらに、一般のロシア国民や政権に影響力を持つ富豪のオリガルヒなどに向けても、情報を発信することで彼らの反戦意識を高めて、ロシア国内から徐々に切り崩していくという目的もあるといいます。
戦況が長引いている今は、プーチン大統領は部下に対する猜疑心がこれまでになく強まってきている時期です。欧米としては、このタイミングを逃さずに情報をどんどん公開していく戦略を取っているわけです。
イギリスやアメリカは、似たような情報をあえて同じ日にそれぞれが発表することで、効果が最大限になるように裏で調整しているという話もあります。
■“恐怖政治”か“内部崩壊”か…プーチン大統領の今後は
ロシア側は今、どういう状況なのか、ロシア安全保障などが専門の防衛研究所・山添博史主任研究官は、2つのシナリオを示しました。
1.恐怖政治で強引に進める?
プーチン氏が、誤った情報が伝えられている状況に気づいて、今、立て直しを図っている可能性がある。誤った情報を伝えた側近を更迭するなど、これまでと同じ恐怖政治でしめつけて、強引に進めていく恐れがあるということです。
2.内部崩壊か?
このまま側近がプーチン氏を恐れて真実を言えず、誤った情報が上がり続けて、内部崩壊する可能性もあるのではないか、とみています。
■停戦協議再び…ロシアは「長い時間がかかる」認識のまま
仲介するトルコは、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領の首脳会談の実現に向けて、今後1、2週間以内に、2度目の外相会談を開く可能性があるとしています。
ただ、ロシア側は、停戦については「長い時間がかかる」との認識を示したままです。
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戦場で繰り広げられる戦いとは別の形の戦闘とも言える情報戦や心理戦がこれだけクローズアップされるというのは、ある意味、現代ならではの戦争のあり方を示しているのかもしれません。
ただ、情報の発信には常にそれを発する側の意図が隠されています。私たちも日々、さまざまな情報に接する際、そのことを常に頭の片隅に置いて、意識することが大切です。
(2022年4月1日午後4時半ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)