鎌田實氏イラクへ 避難民キャンプの様子は
諏訪中央病院・鎌田實名誉院長は昨年末、イラクを訪れた。
イラク北部にあるモスルは、過激派組織「イスラム国」のイラクでの最大拠点で、「イスラム国」とイラク軍の間で激しい戦闘が続いている。
■民間人も巻き添えに
鎌田氏は、モスルから東へ約80キロの位置にあるアルビル周辺を訪れた。そこにはモスルでの戦闘の巻き添えとなり、傷ついた民間人が数多くいた。
イラクのアルビルとモスルの間にあるハーゼルキャンプ。ここでは、モスルからの避難民を受け入れている。モスルは「イスラム国」のイラクでの最大拠点で、3か月前からイラク軍がアメリカ主導の有志連合などと共に、過去最大規模となる奪還作戦を行っている場所だ。
■まるで巨大な刑務所
モスルからの避難民は、日に日に増えている。取材中にも、モスルから救急車に乗って避難してきた女性たちの姿があった。ハーゼルキャンプでは現在、6000ほどのテントに3万5000人ほどが暮らしているという。
1か月半前、モスルから避難してきたという男性に話を聞いた。
鎌田氏「ここの生活はどうですか?」
避難民「悲劇的です。避難は2週間程度と聞いていたのに、キャンプの外に出ることも禁じられている。生活できていても外に出られない。巨大な刑務所のようです」
このキャンプでは「イスラム国」の人間が入り込まないように出入りが厳しく制限されているため、避難民は不便を強いられている。
■電話番号を知っていただけで…
キャンプの中には、戦闘で家族を失ったという人もいる。ファレスさん(45)は「イスラム国」に弟を殺されたという。
鎌田氏「どんな罪で殺された?」
ファレスさん「(弟は)イラク政府やイラク軍と関わりがあると『イスラム国』に密告されたんです。弟の携帯電話にイラク軍などの番号が入っていたため軍のスパイだと言われ、銃で頭に1発、胸に4発撃たれました」
弟は電話番号を知っていただけでイラク軍との関係を疑われ、殺されてしまったという。
ファレルさんは、一日も早くモスルに平和が戻ることを願っていた。
そんな中、自分たちが住んでいた地区がイラク軍によって解放されたという知らせを受け、1台のトラックに乗り込み、キャンプからモスルへ戻ろうとする避難民の姿もあった。
■避難先から戻り、戦闘被害に
ただ、この10日ほど前、イラク軍の知らせを受け、避難先からモスルの自宅に戻ったところ、戦闘の被害に遭ってしまった子どももいる。アフマドくん(7)は、砲弾の破片が体を貫通、3度の手術を受け、一命をとりとめた。
鎌田氏「どんなことが起きたんですか?」
アフマドくんの父・オマルさん(35)「私たちはその日の朝、自宅の門の前にいたんですが、私は家の修理をするため、少し離れたんです。その時、子どもたちのところにロケット弾が飛んできたんです。13歳の1番上の息子は亡くなりました」
アフマドくんの6つ上の兄、モアイヤドくん(13)は「イスラム国」の砲撃によって亡くなった。
兄を亡くしたアフマドくんは「イスラム国」に対し、「神様に罰を与えてほしい」と語る。
オマルさん(35)「人生で子どもより大切なものはないと思う。その子どもを失うことは、この上なく(悲しい)。モスルへは戻りたくない。モスルは治安が悪いです。ただ、イラクは自分の国です。嫌いにはなれません。みんな好きです。でも、もう疲れ果てました。戦争に」
■平和を願う気持ち
「イスラム国」からモスルを取り戻そうとするイラク軍の奪還作戦は、民間人の命という大きな代償を払いながら進行している。私たちは軍事的な攻撃の前には無力だが、「平和を願う気持ち」を強く持ち続けることは誰にでもできるはずだ。
平和への第一歩は、私たちのそういう願いから始まっていくものだと信じている。