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ロシア反体制派 すれ違う「プーチン後」の未来図 “分離独立”か“一つの国家”か

2023年8月20日 12:06
ロシア反体制派 すれ違う「プーチン後」の未来図 “分離独立”か“一つの国家”か

7月末、ロシア人の反政府武装組織幹部らがプーチン政権崩壊後のロシアを議論する会合に参加するため来日した。ウクライナ侵攻を機にプーチン政権の基盤が揺らぎ、「次」を見据えた議論が活発になっているが、参加者や会合の取材からはそれぞれの思惑のずれもみえてきた。(国際部・坂井英人)

永田町の衆議院第一議員会館で8月1日に開催された「ロシア後の自由な民族フォーラム」。プーチン政権崩壊後のロシアの国家像や少数民族の分離独立を議論するもので、ロシアの反体制派組織幹部や少数民族の分離独立派などとともに、複数の国会議員やロシア研究者なども参加した。会合はウクライナ侵攻開始後の去年5月にポーランドで第1回が開かれ、これまで欧米で開催されてきたが、今回、第7回が日本で開催された。

■「今、ブリャートが金を稼ぐ主な方法は戦争で死ぬこと」

会合に参加した少数民族代表らは、ロシア国内で彼らがおかれた窮状を訴え、独立を求める声を次々にあげた。

ブリャート独立運動組織代表 マリーナ・ハンハラエヴァ氏(※ブリャートはロシア中南部・ブリャート共和国などに暮らすモンゴル系民族)
「あなたたちは今、ブリャートの最後の世代を目にしているのかもしれません」

「ユネスコのデータによると、20年後にはブリャート語は完全に絶滅する可能性があります」

「ロシアのオリガルヒは資源豊かな我々の土地を略奪しています。税金も払わず、我々に残しているのは環境問題だけです。モスクワは我々の資源をすべて奪い取り、我々を貧困に追い込んでいます」

「帝国主義的な戦争が起きた際、(ブリャートは)最前線に送られる『生きた材料』のような扱いをされています」

「今、ブリャートが金を稼ぐ主流の方法は何だか分かりますか。戦争で死ぬことです。生まれた時から我々はロシア人と対等な扱いをしてもらうことなく、あらゆるレベルで差別を受けています」

■「侵略止めるにはロシアを数十の国に分割すべき」

バシキール国民政治センター代表 ルスラン・グバソフ氏(※バシキールは主にロシア南西部・バシコルトスタン共和国に暮らす民族で、イスラム教徒が多数派を占める)
「私は(民族の)歴史的な領土があるにもかかわらず、数世紀にわたりモスクワの支配下にある200万人ものバシキール人の一人です。我々は何世紀にもわたって反抗をし、自由のために戦いましたが、世界はそれを無視していました。なぜなら(世界は)ロシアがそのままで存在するべきと思ったからです」

「ロシアは典型的な帝国であり、他の国々の植民地化を進めることで生き延び、領土を拡大してきました」

「この帝国に属していた多くの民族はすでに絶滅しました。他の多くも全滅寸前な状況でもうおそらく救えないでしょう。しかしまだ救うことができる民族もたくさんあります」

「ロシアはウクライナでの戦争に確実に負けますが、(ロシアという国が)変わることはありません。EU(ヨーロッパ連合)もアメリカも全世界も(ロシアを)変えることはできません。他民族や全世界に対しての終わることのない侵略を止めるために唯一しなければいけないことはロシアを数十の独立した国々に分割することです」

シベリア独立合衆国委員会副議長 スタニスラフ・スースロフ氏(※「シベリア」は主にロシア中部から東部にかけての北アジア地域を指すが、スタニスラフ氏の「シベリア独立合衆国」は現在のシベリア連邦管区全域とウラル連邦管区の大部分から構成されるとしている)
「現在『美しい未来のロシア(=民主化したロシア)』をつくるという発想は、残念ながら世界の政治家の間でとても人気があります。しかし、このアイデアはソ連崩壊後、現代のロシアが作られた時のアイデアにとても似ている点に注目してほしいです」

「10年後、15年後、国のトップに『新たなプーチン』が現れない保証はないことにも注意してください」

「(民主化を装った)『美しい未来のロシア』は時間稼ぎをし、再び隣国を侵略するための用意をするでしょう」

分離独立を求める参加者たちは「少数民族や地方は長年にわたり抑圧され、差別的な扱いを受けている」と口をそろえた。プーチン政権が崩壊しても、民族としての「ロシア人」が中心である限り「ロシアは変わらない」として、ロシアとロシア人への強い不信感をにじませた。

会合主催者が作成し、会場にも飾られた「新たなロシアの地図」はロシアが41の独立国に分裂しているというものだ。公式ホームページのトップには上述の地図の下に「ひとつの狂った帝国に代わる、41の独立し、自由で発展・成功した国家が我々の主要なゴールだ」とはっきりと書かれている。

これらから、会合が目指す「新たなロシア像」は「分裂」を強く指向しているようにみえるが、必ずしも参加者全員と共有されているとは言えない。

分離独立派との違いをみせたのは、ロシアへの越境攻撃を行う武装組織「ロシア自由軍団」の政治部門幹部で、元ロシア下院議員のイリヤ・ポノマリョフ氏だ。

「ロシア自由軍団」政治部門幹部 イリヤ・ポノマリョフ氏
「今ロシア連邦がある領土の1年後の状況を私は知りません。1つの国になるかたくさんの国になるかは、すべてあの領土に住んでいる民族が決めるでしょう」

独立を求める多くの参加者の意見に配慮しつつも、「ひとつの国家」にも言及した。ポノマリョフ氏は下院議員としてロシア政治の中枢にいた経験があり、国内外の反体制派と協力して「影のロシア議会(人民代議員大会)」を組織してプーチン政権崩壊後の新たな国家作りの中心となることを目指している。なにより、ロシア領内へ越境攻撃を行う武装組織の幹部も務め、実際にプーチン体制に揺さぶりをかけている重要人物だ。ポノマリョフ氏の意見は会合では少数派だが、その言葉はロシアの今後を考える上で無視できない重みがある。

この前日、ポノマリョフ氏は同じく会合に参加した「チェチェン・イチケリア共和国」亡命政府幹部のイナル・シェリプ氏とともに、NNNの単独インタビューに応じていた。

■「ロシアの分割は望まない」北方領土問題は「妥協が不可避」

インタビューでは、「1つのロシア国家」を望む立場を明確にしつつ、各民族・地域の独立には住民たちによる明確な意思表示(住民投票)が必要だとの認識を示した。

「ロシア自由軍団」政治部門幹部 イリヤ・ポノマリョフ氏
「ロシアが分裂することは望まないというのが私の姿勢です。また、分裂しないと信じています。しかし、ロシアが1つの国家であり続けられる唯一の方法は、この国に暮らす全ての民族、全ての人々に彼ら自身が何者なのかを認識させる機会を与えることです」

「私は全ての解放運動を全面的に支持しますが、条件があります。それは、分離するかとどまるかを決めるのは最終的には一部の政治家ではなく、人々による意識的な選択でなければならないということです」

また、今回の来日では日本の国会議員らと将来の日露関係を見据えた関係作りを進めたいとしていたポノマリョフ氏。いまだ締結されていない日露の平和条約と北方領土問題について質問すると、具体的な内容は避けつつも「妥協は不可避」だと明言した。

「ロシア自由軍団」政治部門幹部 イリヤ・ポノマリョフ氏
「平和条約が結ばれていないことは恥ずべきことだと思います。そしてそれらの島の状況も恥ずべきものです。ロシアは自ら活用しておらず、またその領土をよりよく扱うであろうもの(日本)へ手渡す意思もありません」

「我々は北方領土問題を解決するための仕組みについて議論し、決断する必要があります。」

「私が過去に話した多くの日本の方は北方領土とは何か、何が含まれ、何が含まれないのかについて違った理解をしていました。私は妥協は不可避だと思います。しかしこの妥協には間違いなく(複数の)島の日本への返還が含まれます。この妥協の具体的な中身については(日露の)政治家達が議論し、それぞれの社会に提示する必要があります。」

ポノマリョフ氏はこのとき、極東地域が分離独立される可能性について言及しなかった。少なくとも、北方領土問題について日本の交渉相手になるのが「ロシア」であると認識していることが伺える。

会合の終盤、ロシアの「脱植民地化」への取り組みや北方領土問題解決を求めた「東京宣言」を採択する場面では、分離独立派の参加者から異論が出た。当初案にあった「ロシアが民主主義国家となり…」との表現に対して、「ロシア連邦がそのまま残るという意味にとれ、少数民族の独立を目指す立場と矛盾する」との主張だ。最終的に「『ロシア後』の領域(Post-Russian territory)」と表現することで落ち着いたが、会合の参加者が一枚岩ではないことを象徴的に示すシーンだった。