【単独インタビュー】ロシア人反政府武装組織幹部「ロシア解放はロシア人の仕事」 新政府の樹立めざすロシアの「影の議会」には“匿名”現役議員も…
5月以降、ロシア人の反政府武装組織を名乗る2つのグループが、ウクライナ側からロシア領内への越境攻撃を繰り返している。そのうちの1つ、「ロシア自由軍団」の政治部門幹部であり、かつてロシアの下院議員だったイリヤ・ポノマリョフ氏が6月29日、NNNの単独インタビューに応じた。
(聞き手 国際部・坂井英人)
■ワグネルの反乱は「インスピレーション」
「ロシア自由軍団」はプーチン政権打倒を掲げ、同じくロシア人の武装組織とされる「ロシア義勇軍団」とともに、6月からウクライナと国境を接するロシアのベルゴロド州への越境攻撃を繰り返している。「ロシア自由軍団」の政治部門の幹部を務めるイリヤ・ポノマリョフ氏はかつてロシアの下院議員を務め、2014年のクリミア半島併合決議では唯一、反対票を投じた。2016年以降はウクライナで事実上の亡命生活を送っている。
インタビュー冒頭、ポノマリョフ氏は6月24日にロシアで起きた民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏による反乱について、小規模部隊でモスクワに迫ったとして、「ロシア自由軍団」にとって参考になるとの認識を示した。
──ワグネルの反乱が「ロシア自由軍団」などのロシア領内への軍事作戦に与える影響は?
ポノマリョフ氏
「我々にとって明らかにインスピレーションの源です。プリゴジンが行ったことは我々の計画にとても似ており、我々の方針の正しさが示されたと考えています。また同時に、反乱は今の(プーチン)政権がいかに脆弱で崩壊しつつあるかを示しました。我々に必要なのはプリゴジンがやらなかった『最後の一押し』をすることです」
「ワグネルはたった4000人でモスクワへ向かいました。これは我々が十分だと考える想定とほぼ同じであり、プリゴジンは我々の理論(の正しさ)を立証しました。とても感謝しています」
また、ワグネルの部隊に対応したロシア側の軍・治安当局の動きは参考になるとしつつも、わずか一日で収束した反乱そのものについては、プーチン大統領とプリゴジン氏の間で個人的に計画されたものだったとの見方も示した。
ポノマリョフ氏
「反乱のごく初期の段階から、我々はプリゴジンがモスクワに入り、プーチン排除を目指すことはないと予想しており、その通りになりました。我々は(反乱の失敗という)結果に失望していません。プリゴジンにクレムリン(ロシア政府)入りしてほしいとは全く思いませんし、それは我々にとって助けというよりは問題となったでしょう」
■「ロシア自由軍団」と「ロシア義勇軍団」
ポノマリョフ氏の説明によると、「ロシア自由軍団」は、2022年2月の侵攻開始直後にウクライナ側に寝返ったロシア軍人のグループにより翌3月に結成されたという。反体制派によるロシア領内への新たな政府の樹立、そして最終的なプーチン政権打倒を目指す運動の軍事部門として、まずはロシア領内に恒久的な支配地域を得ることを目標としている。
また、ともに越境攻撃を行う「ロシア義勇軍団」は右翼団体のメンバーが主体で、政治的主張は異なるものの、「プーチン政権打倒」で一致しているという。
──越境攻撃の目的は?
ポノマリョフ氏
「目的はロシア南部を解放し、維持することです。最初の作戦は3日間行われ、第二作戦は10日間でした。しかし(恒久的な支配地域獲得には)我々の規模の拡大が必要です。我々はそこまで大規模ではありません。『ロシア自由軍団』は4個大隊、『ロシア義勇軍団』は1個大隊なので、あわせて5個大隊規模でしかありません」
「解放された地域に(反体制派を象徴する)『白・青・白の旗』を掲げた政府を樹立させること、そして我々の成功を見て参加する人々を増やすことも目標です。また、ロシアの軍事力をウクライナの戦線から引きはがしているという点で、ウクライナへの支援にもなっています」
■ウクライナ軍に所属も越境攻撃は「独自に行動」
ウクライナ軍の外国人部隊に所属し、ウクライナ国内でも戦闘を行っているというが、ロシアへの越境攻撃についてはウクライナ軍の命令や関与はないとしている。
ポノマリョフ氏
「ウクライナ軍はロシア領内で戦わないという西側諸国との国際的な取り決めがあります。そのため我々がロシア領内で活動する際には、(ウクライナ軍に)休暇を申請するのです。休暇が認められればロシアに行って活動する。こうした条件・状況の下では我々は自活していますが、ウクライナ国内においてはウクライナ軍の一部隊です」
■西側兵器使用も「問題ないと確認」
──「ロシア自由軍団」が使用する装備はウクライナ軍から提供されたもの?
ポノマリョフ氏
「装備にはウクライナ軍から公式に支給されたものもありますし、戦場で入手したもの(鹵獲兵器)もあります。通常の歩兵の装備でいえば、ライフル銃は西側のものもあればロシア製のものもあり、ウクライナ製のものもあります。しかし大型の兵器はほとんどがロシア製のものを使っています。これまでの作戦で複数の戦車などを鹵獲しています」
西側諸国からウクライナへ提供された兵器は「ロシア領内への攻撃に使わない」との合意があるとされるが、ポノマリョフ氏は高機動ロケット砲システム「HIMARS」などの長距離兵器を除けば、「使用に問題はないと確認した」と主張した。
ポノマリョフ氏
「我々は西側諸国に様々な問い合わせをし、アメリカ、イギリス、ドイツからは我々が使用する装備について問題ないとの確認を得ています。合意への違反はありません」
■ウクライナの軍事的勝利にあわせ「大規模攻撃実施」
ポノマリョフ氏
「我々は(越境攻撃を)確実に繰り返すつもりです。しかし我々が大規模な攻撃を行うのはウクライナが軍事的な大勝利を得たときになると思います。そのときが来るのを非常に楽しみにしています」
「(プーチン政権の崩壊は)今年か、来年初めまでに実現すると思います。そう遠い日ではありません。プリゴジンの反乱を見たでしょう? この体制は実質的には存在していないようなものです。『最後の一押し』をすればいいだけです」
■入隊希望者のなかにはロシアのスパイも
──入隊希望者は増えている?
ポノマリョフ氏
「ベルゴロド州への攻撃を始めて以来、希望者は大幅に増えました。前回確認した際は、『ロシア自由軍団』だけでほぼ1万人が入隊を希望しています」
「(入隊には)ロシアのパスポートを持っていることが前提です。いくつかの身元調査や体力テストもあります。非常に大事なことはFSB(ロシア連邦保安局)のエージェントでないことを確認することです。残念ながら、入隊希望者のうち、“エージェント”だと判明したものが大勢います。希望者のほぼ3分の1を占めますが、うそ発見器で判明します。非常に深刻ですが、我々もきちんと警戒しています」
■「プーチンのロシア」と戦う理由
ポノマリョフ氏
「メンバーの動機は様々ですが、多いのは正義感に基づくものです。ロシアがウクライナで不正義を働き、テロを行い、市民・子どもを殺害しています。『ロシアの名誉を回復し、全てのロシア人が同じではないことを証明したい』という動機です。また、より理性的に考え、新たな民主的なロシアと政府をつくることを動機にしているメンバーもいます。我々の子どもたちが暮らし、働きたいと思えるような国、そして国際社会の一員となる安全な国です。単にプーチンを憎んでいることが動機のメンバーもいます」
■プーチン政権下での停戦は「ありえない」
──プーチン大統領の打倒はなぜ必要か? 現政権下でのウクライナとロシアとの停戦という選択肢は?
ポノマリョフ氏
「それはありえません。停戦はプーチンと彼の政権を生きながらえさせるだけです。彼がつくり出した帝国主義的体制は侵略が止まることはないことを意味しています。(プーチン氏を含む)戦争犯罪者全員に裁きが下されることが、全てを終わらせることの唯一の条件です」
「現在、ロシアという国全体がこのテロ政権に人質にとられています。戦場ではウクライナ人より数倍も多くのロシア人が死んでいます。そして代償は今後も膨らむでしょう。我々はこれを止めなければなりません」
■新たなロシアをつくるのは「ロシア人の仕事」
ポノマリョフ氏
「新政府をつくるのは我々(ロシア人)の仕事であり、他の誰かがすることではありません。私はいかなる外国によってもロシアの未来を決められることには反対です。我々が我々自身で決めることです。我々の未来のロシアの展望は近隣諸国が求めるであろう平和的・民主的なロシアと一致しています。しかし、ウクライナの人々がロシア人の自由のために血を流すのは公平ではありません。すでに十分すぎるほどの血を流しているのですから。ロシアを解放するのは我々の仕事であり、やりとげます」
■ロシアの「影の議会」
ポノマリョフ氏はこの日、滞在先のポーランド・ワルシャワからオンライン取材に応じた。ロシア国内外のプーチン政権に反対する政治家や議員らが組織する「人民代議員大会(Congress of People's Deputies)」の活動のためだという。
「人民代議員大会」は「ロシア自由軍団」ともつながりがあり、「影のロシア議会」として、最終的に新たなロシア国家樹立の中心となるべく憲法の作成などを進めているほか、国家樹立宣言時に承認を得るため欧米各国政府への接触も始めているとポノマリョフ氏は説明した。
ポノマリョフ氏
「我々はすでに(去年)11月、(今年)2月と6月、計3回の総会をポーランドで開催しました。『人民代議員大会』の活動はウクライナの人々や東ヨーロッパの国々から多くのサポートを受けています。プーチン政権に代わる政治的選択肢であり、ロシアの新たな権力なのです」
「代議員のだいたい3分の1は(ロシアの)国家レベル、3分の1は州・地方レベル、3分の1が地方自治体レベルの(元・現)議員です」
「全体のおよそ3分の1は今もロシアにいて、6人は現役の議員だったはずです」
ロシア当局による逮捕を免れるため、ロシアで現役の議員として活動するメンバーは「人民代議員大会」には匿名で参加しているという。
■各国政府と接触 7月に日本訪問の計画も
「ロシア自由軍団」は2022年8月、ロシア国内で反体制運動を行う別の組織「国民共和軍」とともに政治部門を設置し、ポノマリョフ氏はその調整官として外国政府との接触やメディア対応にあたっているという。7月には日本訪問を計画していることも明かした。
ポノマリョフ氏
「我々が外国政府から得なければいけないものは、“新政府の樹立”という、このプロセスへの承認です。これが主要な目的であり、非常に積極的に取り組んでいます」
「(将来の国家樹立宣言時に)関係づくりに時間を浪費しないためにも、外国政府に『我々が何者か、目的は何か』を(今のうちに)理解してもらう必要があります」
「我々は東ヨーロッパの国々と非常によいコネクションを持っています。西ヨーロッパはロシアとの経済的つながりをより重視し、及び腰で非常に慎重です。しかし、ウクライナを含む東ヨーロッパの国々やアメリカが決断すれば、ドイツなど他の国々もみな後に続くでしょう」
「私には個人的に多くのアジアの知人がいますが、アジア各国政府の反応はより鈍いです。日本政府にもコンタクトを試み、公式な文書を送りましたが、まだ返事はありません。7月中になると思いますが、私は日本への訪問を計画していて、物事が進み始めるのを期待しています」
「(イベント出席で来日するが)主な目的は政府の高官や国会議員と対話し、より組織的な方法で協力や交流ができないかを模索することです」