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ゆがめられる民意…台湾狙う“世論工作”のリアル  中国「統一戦略」の実態は

2024年1月1日 15:00
ゆがめられる民意…台湾狙う“世論工作”のリアル  中国「統一戦略」の実態は
台湾の若者を対象とした「格安ツアー」 中国・広東省にて

2024年、台湾の次のリーダーを選ぶ総統選挙が行われる。中国は台湾との統一を掲げ、軍事的な圧力だけでなく、“世論工作”も仕掛けているとされる。台湾の若者をターゲットにした「格安ツアー」など、その手口はさまざまだ。習近平政権の「統一戦略」と“本気度”を探った。
(NNN上海支局 渡辺容代)

■台湾の若者誘う中国への“格安ツアー” 「セルフメディア」を対象に…

中国政府系メディアのニュースで、声高に主張する男性。

「台湾では想像できない生活だ。誤りばかりの情報を見なくていい。彼らは知るだろう、民進党が台湾の若者たちの中国訪問を恐れている訳を!」

この男性は、中国・広東省で行われた“あるツアー”の主催者側の1人だ。

23年12月、中国・広東省の海沿いの街・珠海を5泊6日で巡るツアーが開催された。参加したのは主に20~30代の台湾の若者たち。このツアーは、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の地方組織が主催したものだ。

料金は、航空券代込みで約6万7000円で、相場とされる13~4万円の半額ほど。さらに今回のツアーは、個人で文章や動画を発信する「セルフメディア」で活動する若者が対象となっていた。

参加者に話を聞くと、ツアー中のイベントには地元政府の幹部が出席して珠海の魅力を語ったほか、中国の携帯電話回線の契約や銀行口座を作る時間まであったという。

台北市から参加した30代の男性は「主催者側の狙いは、地域の発展を私たちに発信させることだ」と冷静に話した。自分で撮影した動画などを配信するかどうかは決めていないという。

一方、これまでも同様のツアーに参加してきたという女性は「毎回、中国の文化や経済発展を紹介してくれる。台湾人にとって本当に視野が広がる」と声を弾ませた。

若者を対象としたこうしたツアーは、中国による「世論工作」だとされている。2010年代に台湾が中国寄りの国民党政権だった頃から行われてきたという。次世代を担う若者達の間で、中国に対し好意的なイメージを根付かせる狙いがあるとみられている。

■中国が選挙介入か…旅行参加者に“特定候補”の支持訴え

さらに今、台湾で問題となっているのが、日本でいう町内会長のような「里長」ら地域の有力者が、中国側からツアーの招待を受けるケースだ。

台湾の法律は、中国を含む「敵対勢力」からの指示や援助を受け、選挙活動に参加することを禁じている。台湾南部・高雄市の検察は23年11月、中国側の招待を受けツアーに参加したとされる里長ら22人を捜査していると発表した。ツアー中には、総統選挙で「ある特定の候補者」を支持するよう呼びかけがあったとみられている。ロイター通信は、こうしたツアーは急増していて、総統選挙が近づいた23年に入り、1000人以上の里長らが参加したと報じている。

中国は、こうした“草の根”の統一工作を仕掛けているとされるが、一方で、習近平国家主席は「武力行使を放棄しない」と明言している。果たしてその本気度は――。

■蔡総統「中国は今は侵攻考える時ではない」  習政権“侵攻”の本気度は

「中国は、今は台湾への大規模な侵攻を考える時ではないでしょう」

23年11月、台湾の蔡英文総統がアメリカの有力紙ニューヨークタイムズのインタビューに語った言葉だ。習近平政権が「内部で山積する問題の対応に追われているから」だという。

実際、低迷する中国経済に習政権の危機感は大きい。不動産大手の経営難が続き、「反スパイ法」の改正を受け外資系企業の間で警戒感が広がっている。不安要素が多いのだ。

23年11月に行われた米中首脳会談で、習近平国家主席が「台湾に大規模侵攻する準備はしていない」との発言をしたとされる背景には、アメリカとの緊張緩和を図り、国内経済の低迷を打開したいとの狙いがあるとみられる。

では、「武力侵攻」は起こりえるのだろうか? 23年、台湾が公表した「国防報告書」は、このように指摘している。「全体主義政権は国際ルールを無視し、国益や政治的主張のために侵略戦争を仕掛けることができるのだ」

“台湾がどうであろうと、中国の習政権の判断次第で起こり得てしまう”というのだ。台湾海峡で常態化した中国の軍事圧力や、さまざまな手段を通じて分断を図ろうとする情報戦に日々、さらされている台湾側の危機感がにじむ。

24年1月に迫った台湾総統選挙は、中国との関係が大きな争点だ。与党・民進党の頼清徳氏は、中国と距離を置き対米関係を重視する。最大野党・国民党の侯友宜氏、第3政党の民衆党・柯文哲氏は、中国との対話を訴えている。対中姿勢に違いはあるが、3候補とも台湾の住民の多くが望む「現状維持」を掲げている。

冒頭の「格安ツアー」といった世論工作が与える影響は、実はそれほど大きくないとされている。多種多様な非軍事手段を使い、統一を迫る中国のやり方に、台湾の人々は学び続けてきたからだ。

ツアーから戻った台湾の若者に感想を聞いた。

「中国で訪れた地域は確かに魅力があると感じたけれど、誰かの意図により、自分の政治的立場を変えることはそんなに簡単ではないよ」

彼らが選択する台湾の未来像を、一方的な圧力や情報操作でゆがめられることがないよう、国際社会はしっかりと見守っていく必要がある。