【かけこみ解説】米大統領選挙「もしハリ・もしトラでアメリカと世界はどう変わる?」 政策の注目点を一から解説
直前に迫ったアメリカの大統領選挙。いまさら聞けないハリス候補、トランプ候補の掲げる政策の違いをわかりやすく「かけこみ解説」します。
■経済・通商 ―日本に影響も―
大統領選のたびに大きな争点となるのが、経済だ。ハリス氏は8月の党大会で、「力強い中間層を築くことが大統領としての決定的な目標だ」とし、「トランプは億万長者のために働くが、私は1億人の中間層のための減税を実現する」と述べて、トランプ氏との違いを強調した。住宅購入のための補助金や、食品価格を意図的に引き上げて利益を得た企業への罰則を連邦法で規定するなどの具体策を表明している。
一方のトランプ氏は、減税による経済成長を目指す方針で、法人税、所得税の税率引き下げに取り組むとする一方、ローン金利の引き下げなどで、住宅購入を支援することも打ち出した。さらに、貿易赤字削減と国内製造業の回復を目指し、関税を引き上げる方針も示している。日本を含む各国からの輸入品について10%から20%、中国については60%の関税をかけるという。関税引き上げは日本の輸出産業に大きな影響をもたらすことが避けられない。また、米国内の物価上昇により景気が冷え込み、世界経済へ悪影響を及ぼすと懸念する声もある。
■外交・安全保障 ―「2つの戦争」にどう向き合うか―
イスラエルとイスラム組織ハマスとの間で続く戦闘について、ハリス氏は「イスラエルの自衛する能力を保証する」と強調した上で、「今こそ人質の解放と停戦を実現するときだ」と訴えてきた。しかし、バイデン政権がイスラエルへの支援をやめていないため、本来ハリス氏が支持層にとりこみたい若者やアラブ系住民の中には、不満が募っている。ハリス氏にとって、バイデン政権と自身の考えの違いを打ち出しながら、ユダヤ系、アラブ系双方の支持をつなぎとめる方策を示すのは至難の業だ。
トランプ氏は、大統領在任時からイスラエルを強く支持する姿勢を示し、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転するなど、「歴代最も親イスラエルの大統領」と自称している。自分が大統領の座にあれば、イスラエルとハマスの衝突も起きなかったと強調。バイデン政権を批判している。また、7月にはネタニヤフ首相との会談で、中東和平の実現や反ユダヤ主義との闘いに尽力すると伝えたという。
ロシアによるウクライナ侵攻について、ハリス氏はバイデン大統領のとってきた方針を継承するとみられている。北大西洋条約機構(NATO)の枠組みを重んじ、同盟国との関係を強化するのが基本姿勢だが、戦闘の長期化、欧州各国にみられる「支援疲れ」の中、どのように終結させるのか、道筋はみえていない。
トランプ氏はウクライナ侵攻についても、自身が大統領であれば起きなかったと断言。NATOのありかたを見直すことや、加盟国への攻撃があった場合のアメリカの対応について、消極的な立場を示している。こうしたことから、就任後、ロシアに有利な形で早期決着を図るのではと懸念する声も上がっている。
■人工妊娠中絶 ―規制強化か、権利の擁護か―
人工妊娠中絶も、今回の大統領選では大きな争点となっている。アメリカでは、2022年に人工妊娠中絶を憲法上の権利として認めた最高裁判決が覆された。その後、中絶の全面禁止などの厳格な規制が、保守的な州で相次いで設けられた。これに対して、女性が自分自身の身体について、自分で決断する権利を求める運動も活発化。ハリス氏は、中絶の権利を保障する連邦法が議会で通れば、署名することを公約として掲げる。
一方、中絶に反対するキリスト教保守派から支持を受ける共和党は、中絶に対する規制を強めてきた。しかし、激戦州でも中絶の権利を求める有権者が多いことから、争点化を避けるため、トランプ氏は反対のトーンを弱めている。
■移民 ―不法移民にどう対処?―
ハリス氏は、バイデン政権で国境管理を担当してきたが、当初、寛容な姿勢を打ち出してきたことによって、多くの不法移民が南部の国境から流入し、深刻な社会問題となっている。トランプ氏による激しい批判を受け、選挙戦では、不法移民への取り締まりの厳格化を強調している。
一方のトランプ氏は、ハリス氏の国境管理により「多くの犯罪者が入国した」などと主張し、現政権を批判している。さらに、当選すれば「史上最大の強制送還作戦」を行うと宣言している。