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ウクライナ支援が米国と世界の利益になる3つの理由…駐米大使が語る支援の必要性と「核なき世界」への思い

2023年3月8日 10:02
ウクライナ支援が米国と世界の利益になる3つの理由…駐米大使が語る支援の必要性と「核なき世界」への思い
NNNのインタビューに応じるマルカロワ駐米ウクライナ大使

ロシアによるウクライナ侵攻は2年目に入った。最大の支援国としてウクライナの戦いを支えるのが、民主主義陣営の盟主・アメリカだ。対米外交の最前線を担う駐米ウクライナ大使のオクサナ・マルカロワ氏にアメリカの「支援疲れ」への懸念や「核なき世界」への思いについて聞いた。(ワシントン支局・渡邊翔)

■「バイデン大統領の訪問は日本や同盟国にも重要なメッセージ」

今月3日、首都ワシントンのジョージタウン大学にほど近い、ウクライナ大使館。マルカロワ駐米大使はインタビューを行う部屋に姿を見せると、ほほえみながら「こんにちは!」と日本語で挨拶してくれた。家族が茶道をたしなんでおり、日本文化にも親しみがあるという。

いまワシントンの中で、最も有名な大使と言っても過言ではないマルカロワ氏。財務相などを経て、2021年に駐米大使に着任。去年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、最大の支援国であるアメリカとの外交を最前線で担ってきた。去年12月のゼレンスキー大統領によるワシントン電撃訪問、そして先月のバイデン大統領のキーウ電撃訪問の際は、水面下での調整に奔走した人物だ。

インタビューではまず、このバイデン大統領のキーウ訪問を「非常に重要な訪問だった」と振り返った。

マルカロワ氏
「バイデン大統領から『アメリカは友人として、戦略的パートナーとして、勝利するまで、より長く私たちと共にいる』という言葉を聞けたことは非常に重要でした。このメッセージは、ウクライナの人々やゼレンスキー大統領にも高く評価されました。しかし、私は主権や領土保全という同じ価値観を信じる、日本を含む、すべての友人や同盟国に対する非常に重要なメッセージでもあったと思います。この戦争で勝利し、21世紀には平和な隣人を攻撃して国境線を引き直すことは許されないということを示すために、私たち全員が団結しなければならないという、非常に重要なメッセージです」

ウクライナ東部戦線では、ロシアによる大規模攻勢がすでに始まったとの見方が強い。こうした中マルカロワ大使は、あらゆる種類の軍事支援が必要だと強調する。

マルカロワ氏
「防空システム、大砲、長距離兵器、航空機、ヘリコプターなどです。私たちは巨大で、非常に残忍で、非道な敵と戦っているので、その全てが必要なのです」

ウクライナはアメリカに、さらなる長距離兵器や、F-16戦闘機の供与などを求め続けている。ただ、バイデン大統領は先月24日、F-16戦闘機の供与は「現時点では考えていない」と否定した。これについて尋ねると、大使は「私は『現時点では』というところが気に入っています」と笑顔を見せ、すぐ真顔に戻って続けた。

マルカロワ氏
「(軍事支援については)訓練が可能か、また今一番優先されるのは何かという点などが考慮されますが、率直に言って、我々は航空戦力を含むあらゆるものの供与について議論しています」

この大使の発言を裏付けるように米メディアはインタビュー直後、ウクライナ軍のパイロット2人がアメリカ国内でF-16など戦闘機を供与した場合、操縦訓練にどれくらいの時間がかかるかを判断するための評価を受けていると報じている。

一方、アメリカ国内ではバイデン大統領の掲げる「必要な限りウクライナを支援する」方針への是非が議論となってきた。特に野党・共和党は、多数派を握る議会下院を中心に「白紙の小切手は切らない」と、聖域なき予算の見直しや、国内問題へのさらなる歳出を要求。こうした議会の状況を背景に、バイデン政権の高官であるバーンズCIA長官も、1月のキーウ訪問で、「ある時点からは、今の規模での支援は難しくなる」との見通しをウクライナ側に伝えたと報じられている。

戦闘が長期化すれば、アメリカ世論の支持や関心が低下するリスクもある中で、不安や懸念は本当にないのだろうか。大使は、「もちろんどの国にとっても、自国民の問題や懸念が最優先されるのは当然だ」と配慮を見せた上で、ウクライナへの支援継続は、アメリカの利益にもなると3つの理由を挙げて指摘した。

マルカロワ氏
「まず第一に、支援継続は道徳的に正しいことだからです。民主主義、自由、主権といった価値観を信じるアメリカ人は、私たちを支持してくれます。なぜなら、この戦いは、この国(アメリカ)と同じ価値観を守るためのものだからです。第二に、支援継続は効率的な行動でもあります。もしプーチンがウクライナを征服すれば、彼はウクライナだけに留まらず、さらに先へと進むでしょう。そして、すべてのNATO加盟国が(NATO条約第5条に従い)相互防衛をしなくてはならなくなるのです。プーチンが他のNATO諸国を攻撃することはあり得るし、プーチンは実際『これはウクライナだけの問題ではない』と言っています。そうなれば、NATO加盟国であるアメリカは、武器を送り、資金援助するだけでなく、人(=軍)も送らなければなりません。第三に、これも非常に重要なことですが、ロシアはこの戦争によって、世界的な食糧危機のリスクやエネルギー危機のリスクも生み出しました。この戦争に早く勝利し、終結が早ければ早いほどこうしたリスクにより早く対処することができます。ウクライナは、以前はヨーロッパの穀倉地帯であり、大半の食料品目で輸出国のトップ5に入っていたのですから、より多くのこと(支援)ができます。私たちは多くのグローバルな課題の解決策となることができるのです」

マルカロワ大使はその上で、「私はアメリカの人々がどんなに大変でも、私たちを支え続けてくれると確信しています。なぜなら、独裁者が勝利を手にするような世界になることは許されないからです」と断言した。さらに、経済・財政支援も重要だとして、日本が先月行った財政支援についても「大きな感謝を伝えたい」と述べた。

最後に大使に尋ねたのが、核兵器に対する考えだ。ロシアが米露の核軍縮条約「新START」の履行停止を表明する中、ロシアによる核の脅威は一層高まっている。岸田首相は5月のG7広島サミットで「核兵器のない世界」を目指す思いを発信したい考えで、この理念はバイデン大統領も共有している。大使はどう見ているのか。

マルカロワ氏
「ウクライナは1994年当時、世界3位の核兵器保有国でした。 その核兵器を安全の保障と引き換えに手放した(ブダペスト覚書)。ウクライナは、世界は平和であるべきだと信じていますし、核戦争や核による惨事が起こらないようにする責任があると強く信じています。ウクライナや日本のような国々は、核による大惨事が起きた時の悲惨な結果がどのようなものかを知っています。我々にはチョルノービリ原発事故がありました。日本もそうでしたよね。なので、そのような事態を避けるために出来る限りのことをしなければならないと分かっているのです。では、だからといって、ロシアを(核兵器を使う懸念があるからと)恐れる必要があるのでしょうか? そうではありません。私たち全員が一致団結して、ロシアに『核の使用や威嚇は容認できない』と、強く明確なメッセージを送る必要があるのです。そのひとつの側面が、ウクライナにあるヨーロッパ最大級の原発(ザポリージャ原発)をロシアが違法に占拠し、攻撃したことです。ロシアに対し、ウクライナに原発を引き渡すよう明確なシグナルを送らなければならないと思います」

■トランプ氏は「自国の国境」優先…続く正念場

インタビューを通じて、アメリカへ支援継続を訴えたマルカロワ大使。一方で取材の翌日、ワシントン近郊で行われた全米最大規模の保守系集会「CPAC」では、トランプ前大統領が「遠く離れた国の国境を守るために多額の資金を使うのではなく、我々の国境防衛を最優先する」と強調し、支持者が大きな声援を送った。ウクライナ支援をめぐるアメリカ国内の路線対立が大統領選挙とも絡む中、マルカロワ大使にとっては正念場が続く。

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