×

バイデン米大統領がキーウ“電撃訪問” 「前例ない」極秘ミッションのウラ側

2023年2月21日 7:10
バイデン米大統領がキーウ“電撃訪問” 「前例ない」極秘ミッションのウラ側
ゼレンスキー大統領が公開した会談の写真 バイデン大統領の電撃訪問が明らかになった(ゼレンスキー氏のテレグラムより)

20日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談したアメリカのバイデン大統領。紛争地域、しかも米軍が駐留していない地域への大統領の訪問は極めて異例だ。ホワイトハウス高官も「前例がない」という戦地への極秘訪問。徐々に明らかになってきた、そのウラ側を解説する。(ワシントン支局 渡邊翔)

■「キーウへようこそ!」明らかになった電撃訪問

ウクライナのゼレンスキー大統領が、SNS「テレグラム」に1枚の画像を投稿した時、アメリカの首都ワシントンは、まだ朝の5時過ぎだった。

「ジョセフ・バイデン、キーウへようこそ!」

そこにはにこやかに握手を交わす、ゼレンスキー大統領とバイデン大統領の姿が。ほぼ同時に、ホワイトハウスも「私は今日、キーウにいる」というバイデン大統領の声明を発表。バイデン氏の「電撃訪問」が明らかになった。

折しも20日はアメリカでは「大統領の日」という祝日。アメリカメディア各社は一斉に訪問を速報で伝え、まさにニュースも「大統領の日」の様相となった。

現地キーウの街も、これまでにない変化を見せていた。キーウで取材する同僚の記者によると、市内では20日朝から、普段見ない場所にも警官が配置され、交通規制で渋滞が発生。「相当な要人が来るな」と感じさせる雰囲気があり、警戒していたところ、バイデン大統領の訪問が明らかになったという。

■公表の予定の1日半前にはすでにワシントンを出発 極秘の行程

今回のバイデン大統領のキーウ訪問は、安全上の理由から、事前に一切発表されなかった。

ホワイトハウスは当初、20日の午後6時半過ぎに、バイデン大統領がポーランド訪問のためにホワイトハウスを出発する予定だと発表。しかし、訪問後に公表された実際の動きによると、大統領は前日19日の午前4時15分に、ワシントン近郊の空軍基地を出発。公表予定の1日半も前に、すでにウクライナに向けて出発していたことになる。同行した側近は、大統領の「懐刀」サリバン補佐官ら、ごく少数だったという。

その後、バイデン大統領がキーウに到着したのは現地時間の20日午前8時。この間、20時間45分の移動だ。ワシントンから給油のためにドイツを経由して、空路ポーランドのジェシュフへ。その後、ポーランドとウクライナの国境の町・プシェミシルから列車に乗り、約10時間かけて、キーウに移動したという。

アメリカの現職大統領が、戦地、しかもアメリカ軍の駐留していない地域に電撃訪問するのはほとんど前例がない。例えば、トランプ前大統領は、2018年にイラク、19年にアフガニスタンを事前の予告なしで訪問しているが、両国はいずれも米軍が駐留していた地域だ。

今回のキーウ訪問は数か月にわたって検討され、最終的な決定は、出発2日前の17日だったという。ロシアの侵攻から1年となるのに合わせて、練りに練られた計画だったことがうかがえる。

ホワイトハウスの高官は、訪問直後の記者団へのブリーフで、今回の訪問の警備面などでの「難易度の高さ」と、大統領の「決意の強さ」をこう強調した。

「今回のような訪問は、歴史的で前例がなく、非常に慎重な計画が必要とされていた。だがバイデン大統領にとって、たとえ困難でも訪問することが重要で、大統領はどんな困難があっても、訪問を実現させるよう指示した」

さらにサリバン大統領補佐官は、アメリカ側が不測の事態を避けるため、バイデン大統領の出発の数時間前に、ロシア側にも「事前通告」を行ったと明らかにしている。

また大統領の外国訪問には、ホワイトハウスの記者団が常に同行するが、今回は安全確保のために、リアルタイムで大統領の動静を報道しないという約束がホワイトハウスとの間で交わされた。大統領と分かれて移動することも多く、キーウ着までの全日程に完全に同行した記者は、わずか2人だったという。

ワシントン近郊の空軍基地への集合時間を2人の記者に知らせるホワイトハウスからのメールのタイトルはカムフラージュされ、「ゴルフトーナメント取材の到着案内」と記載。移動時に携帯電話などの電子機器も没収され、使うことを許されなかったという。

次ページ
■“大統領の強い意思” 侵攻1年でのキーウ訪問の狙いは