米で「大退職時代」コロナで価値観変化
アメリカで「the Great Resignation=大退職時代」と呼ばれる現象が進行している。多くの労働者が自らの意思で職場を去っているのだ。退職者数は今年9月には過去最多の440万人を記録した。背景にはコロナ禍による「価値観の変化」があるという。(国際部・小林秀美)
▼「大退職時代」が到来
アメリカで起きている「the Great Resignation=大退職時代」と呼ばれる現象。解雇されて辞めるのではなく、多くの人が自らの意思で仕事を辞めている。
命名したのは、テキサスA&M大学で組織行動論や心理学を研究するアンソニー・クロッツ准教授。「世界恐慌=the Great Depression」などの過去の歴史的現象になぞらえたとみられる。
CNBCが「大退職時代は労働市場に永遠の変革をもたらすだろう」との見出しで報じるなど、米大手メディアもこぞって取り上げている。
▼コロナ禍で激増する退職者
アメリカで「自発的な退職者の割合」はどのように推移していったのか。
コロナ禍の前は長らく2%台前半で推移していたが、感染拡大がはじまると一気に低下し、WHOがパンデミックを表明した後の去年4月には1.6%まで下がった。
しかしその後、一気に戻し、退職者はコロナ前の水準を大きく上回るまでに急増。今年9月の最新データでは3.0%まで上昇し、退職者はこの月だけで過去最多の440万人を記録した(米労働省の調査)。
さらに、退職していない人についてもフルタイムで働く労働者の46%が転職を検討しているという。(CNBC報道米大手保険が今年9月に調査)
▼背景に「価値観の変化」
退職者が激増している理由について、命名者・クロッツ氏は人々の“価値観の変化”を挙げる。
「人は命にかかわるような出来事に遭遇すると、死や幸福について思いを巡らし、自分が変わるべきかどうかを考えるようになる。パンデミックは人生について考え直すきっかけを強制的に人々に与えた」と説明する。
▼退職者増加の要因
退職者増加の具体的な要因についてはさまざまな分析がなされている。
第一に、リモートワークなど柔軟な働き方を求める人が増えているという点だ。
家族との時間を大事にしたり、通勤時間のムダをなくしたりと、コロナ禍で広がった新しいライフスタイルの追求が仕事選びにも影響している。
また、コロナ禍で仕事の負担が増えたため激務で燃え尽きてしまう、いわゆる「バーンアウト」した人たちが辞めているとも指摘されている。
職場によっては、人が減ったことで残った人への負担が増し、さらにバーンアウトする人を生み出す、という悪循環も起きているという。
さらに、アメリカでは経済再開に伴う人手不足で求人が増え、待遇も改善しているため、転職希望者には追い風だ。
加えて、コロナ禍の前から退職を希望していた人たちが、コロナで延期していた転職活動を再開したことも一因とみられる。
▼女性の離職率は男性の2倍
一方で、離職した人の性別を調べると、コロナ禍における女性の離職率は男性の2倍に上るというデータもある。コロナ禍で学校がリモート授業になったり、子どもを預ける場所がなくなったりした結果、多くの場合、母親が家で子どもを見る必要が生じたためだと指摘されている。
▼経営者側の「人材引き留め策」
雇用する側も従業員を引き留めるためさまざまな対策を打っている。
ボーナス増額など待遇の改善や、リモートワークと出社を組み合わせた「ハイブリッドワーク」、「週4日勤務」など、さまざまな働き方の選択肢を提供する動きも広がっている。
▼今後も続く?
「大退職時代」が一過性に終わるのか、今後も続くのかを巡っては、見方は割れている。人の働き方は、経済やライフスタイルに直結するだけに、今後の動向が注目される。