トランプ氏「アメリカをビットコイン超大国に」かつては批判も…“親”暗号資産に転換 思惑は―
代表的な暗号資産であるビットコインをめぐり、アメリカのトランプ前大統領の発言に注目が集まっている。トランプ氏は、自身が大統領に返り咲けば「アメリカをビットコイン超大国にする」と宣言。大統領選挙を見据えて暗号資産業界からの献金拡大や暗号資産に関心のある若者の票を取り込む狙いがあるとみられる。
■暗号資産も「アメリカ・ファースト」
7月25日から27日の3日間、アメリカ南部テネシー州ナッシュビルで暗号資産に関するイベント「ビットコイン2024」が開催された。最も注目を集めたのは、最終日の27日に行われたトランプ前大統領の演説だ。
トランプ氏は、暗号資産でも「アメリカ・ファースト」を前面に打ち出し、自身が大統領に返り咲けば「アメリカをビットコイン超大国にする」と宣言。アメリカが暗号資産の技術やビジネスで世界をリードしなければ「中国や他の国々が支配することになる。中国に支配されるわけにはいかない」と訴えた。
■「アメリカを世界の暗号資産の首都、ビットコイン超大国に」
暗号資産をめぐっては、7月の共和党大会で採択された党の綱領で、「民主党の非合法かつ非アメリカ的な暗号資産の取り締まりに終止符を打ち、中央銀行のデジタル通貨の創設に反対する。ビットコインを採掘する権利を守り、すべてのアメリカ人がデジタル資産を自己管理し自由に取引する権利を持てるようにする」と明記された。
さらに、トランプ氏は27日の演説で、大統領に返り咲いた場合の具体的な政策も提示した。
・アメリカ国内でのビットコインの採掘を推進。「アメリカを世界の暗号資産の首都、ビットコイン超大国に」
・バイデン政権が指名し、暗号資産業界に厳しい姿勢を示すSEC=アメリカ証券取引委員会のゲンスラー委員長を「(大統領就任)初日に解任」し、規制緩和を進める
・暗号資産政策に特化した諮問機関の設置
・暗号資産業界全体の利益のために就任100日以内に透明性のある規制の枠組みを設計
・アメリカ政府としてビットコインを戦略的に備蓄。現在保有している、あるいは今後取得するビットコインを100%保持し続ける
■かつて批判した暗号資産を絶賛 トランプ氏の思惑は…
かつてトランプ氏は、ビットコインをはじめとする暗号資産に懐疑的だった。大統領在任時の2019年には、自身のSNSで次のようにコメントしている。
「ビットコインやその他の暗号資産は、お金ではない。その価値は、非常に不安定で私は好きではない」
さらに、ビットコインが急騰した2021年には、ビットコインは「アメリカドルに対する詐欺だ」などと強く批判したと現地メディアが伝えている。
大統領選が迫る中、トランプ氏が“親”暗号資産に転換した背景には、資金力のある暗号資産業界からの献金拡大や暗号資産に関心のある若者の票を取り込む狙いがあるとみられる。トランプ氏は演説で、5月に21日にアメリカの主要政党の大統領候補者として初めてビットコインなどの暗号資産での献金受付を開始し、すでに2500万ドル(約38億5000万円)を集めたと主張。かつて批判していた暗号資産を絶賛した。
また、ビットコインなどの暗号資産が、アメリカの有権者の間で普及しつつあることも、トランプ氏の暗号資産政策につながっていると考えられる。暗号資産取引所大手「GEMINI」が、アメリカ人1200人を対象に行った調査によると、5人に1人以上が暗号資産を保有しているという。また、暗号資産保有者の73%が「大統領選で投票する際、候補者の暗号資産に対する姿勢を考慮する」と回答したとしている。
■銃撃事件後にビットコイン上昇
7月13日に起きた銃撃事件を受け、市場では大統領選でトランプ氏が勝利するとの見方が広がり、ビットコインの価格は上昇。さらにトランプ氏が27日に「アメリカをビットコイン超大国にする」と宣言したことで、ビットコイン価格は29日に7万ドル付近まで回復。6月上旬以来の高値を付けた。
一方、イギリスのフィナンシャル・タイムズは27日、民主党・ハリス陣営が暗号資産の大手企業と接触したと報じた。トランプ氏が暗号資産業界との関係を強める中、民主党と暗号資産業界の関係を修復する狙いがあるとしている。
ビットコイン価格の急騰とともに政界への影響力が増す暗号資産業界。11月の大統領選挙に向け、両陣営による暗号資産をめぐる論戦も本格化するとみられる。