北朝鮮のIT技術者 制裁破りの“外貨稼ぎ”世界中がターゲットに…【バンキシャ!】
核とミサイル開発に突き進む北朝鮮。その資金を得るため、“外貨を稼ぐ部隊”を海外に派遣していると指摘されています。今回、中国で“外貨稼ぎ”の拠点を特定し、北朝鮮が極秘で行う活動をとらえることに成功。張り込むこと3か月、見えてきた実態とは──。(真相報道バンキシャ!)
核とミサイル開発に突き進む北朝鮮は、その莫大な資金を得るため“外貨を稼ぐ部隊”を海外に派遣していると指摘されています。これは、国連の制裁で禁じられている活動です。今回、私たちは中国・北京でこの“外貨稼ぎ”の拠点を特定しました。男たちが潜伏するマンションに張り込むこと3か月。見えてきた実態とは──。
情報を得て私たちが向かったのは、中国・北京のワンジン地区。
記者
「このあたりはあちこちにハングル表記があります」
ワンジン地区は、韓国の食材やファッションの店が密集する、いわゆるコリアタウンだ。この街に立ち並ぶ、マンション。その中に北朝鮮の“外貨稼ぎの拠点”があった。
撮影を始めたのは、去年11月。カーテンが開いている窓を見ていると…。青い服を着た男がやってきた。
記者
「(カメラ)よれる?」
窓際には服がつるされている。
記者
「上着を着たな。外に行くのかな」
すると、部屋の奥へと姿を消した。
その直後。
記者
「同じ人? 違うかな?」
やってきたのは、上半身裸の男。ハンガーに服を掛ける。2分ほどとどまり、部屋をあとにした。
撮影2日目。
記者
「携帯電話で誰かと話している様子ですね。ちょっと上の立場なんだろうか」
撮影4日目には。
記者
「うしろにもう1人いますね」
その後も撮影を続けると…。拠点では、複数の男が共同生活をしていることがわかってきた。
ここで何をして、金を稼いでいるのか。
わたしたちはおよそ3か月、男たちの周辺を徹底取材。核やミサイル開発のため、北朝鮮が行う外貨稼ぎ。その“最新の手法”をカメラがとらえた。
撮影4日目。男が初めて、拠点の外に出てきた。
記者
「男が1人外出しました。どこかへ早歩きで向かっています」
歩くこと、およそ3分。
記者
「スーパーに立ち寄りました」
記者はあとを追って店に入る。すると、正面から先ほどの男が。手にしていたのは…ネギ。さらに野菜を手に取ると、レジへ。現金を出したが…。
店員
「現金はダメです」
男
「……」
中国は“キャッシュレス社会”。男は慣れていないのか、うろたえていた。なんとか現金で支払うと、マンションに帰っていった。
数日後、今度は別の男が外出。酒やたばこを売る店だ。支払いはまたも現金だった。
さらに別の日。再びこの男が出かけるのを目撃した。手にはネット通販サイトの名前が書かれた小さな箱。すると…。
記者
「男性2人と合流。箱を手渡しました」
親しげに言葉を交わし、笑顔で箱を渡す。3人は並んで歩き出し、カフェへと入っていった。
聞こえてきたのは、「平壌なまりの朝鮮語」。合流した2人は、同じく北京に潜む北朝鮮の仲間だとみられる。
「子供たちを独立させて生活するのも…」
「わたしの場合、娘だけで6人だから…」
3人の男たちは、北朝鮮に残る家族について1時間以上話し込んでいた。異国に身を潜める男たちが“金を稼ぐ手法”とは一体…。
撮影した映像を、北朝鮮の元外交官でその後、脱北したコ・ヨンファン氏に見てもらった。すると…。
コ・ヨンファン氏
「同じようなグループの話を脱北した仲間に聞いたことがある」
「どうも彼らは外貨稼ぎをするIT技術者のようですね」
北朝鮮の男たち。その正体は“IT技術者”とみられるという。
コ・ヨンファン氏
「IT技術者は10人~20人のグループで海外に派遣されます」
「徹底的に監視され、外にでることはできません。食べ物や生活必需品の買い出し、仕事相手との接触は“監視役”が行います」
コ・ヨンファン氏によると、拠点には10人以上のIT技術者がいるとみられ、厳しい監視の下で仕事漬け。外出できるのは、彼らを見張り、買い出しなども担う“監視役”だけだという。
北朝鮮をめぐってはアメリカ政府も2022年、「高度な技術を有する何千人ものIT労働者を世界中に送り込んでいる」と指摘していた。
核やミサイル開発のため、北朝鮮のIT技術者たちが稼ぐ金額は、年間で数億ドルにのぼるとされる(韓国政府による)。では、具体的にどんな仕事をしているのか。
わたしたちは、拠点の男たちの“セールス資料”を入手した。技術をPRするために作った、30ページにおよぶ英語の資料だ。カメラや電子部品の写真。さらに「駐車誘導システム」などの言葉が並ぶ。
「あらゆるハイテク製品を『最短期間』『世界で最安』『最高の技術レベル』で開発することを約束します」
強気な売り文句。一方で、会社名や国名は記されていなかった。
そしてついに、北朝鮮の“商談”の様子をとらえた。映像の手前が“監視役”の男。向かいに座るのは中国人男性だ。すると、中国人男性の声が聞こえてきた。
中国人男性
「君たちの国、北朝鮮にも科学院があるだろう」
この中国人男性は、男が北朝鮮から来ていることを知っているようだ。
中国人男性
「いま何を作ってるの? 一番自信がある製品は?」
“監視役”
「え?」
中国人男性
「あなたの製品だよ」
“監視役”
「顔で…開いて…」
中国人男性
「ああ、顔認証。自動的にドアが開くやつか」
「近いうちに会社の資料を送ってくれるかな。わたしに製品化をまかせてくれる?」
「顔認証技術」の開発は、過去にも北朝鮮のIT技術者が携わっていたことが確認されている。
中国人男性
「大事なのは、もうかることだよ」
「一緒に金を稼ごうじゃないか」
外貨獲得のため、暗躍する北朝鮮のIT技術者たち。その活動は広がり、今、日本を含む世界中がターゲットに…。
核やミサイル開発のため、暗躍する北朝鮮のIT技術者たち。北朝鮮の元外交官コ・ヨンファン氏は、今、世界中の企業が外貨獲得のターゲットになっていると指摘する。
コ・ヨンファン氏
「アメリカ・ヨーロッパ・日本・韓国などの企業とリモートで仕事をする。ウェブカメラをつけて、北朝鮮が準備した“偽の身分証”を見せて、『わたしは中国の開発者です』とウソをつく」
軍拡路線を突き進む北朝鮮。それを支えるIT技術者の活動に、歯止めをかけることが求められている。
(1月21日放送『真相報道バンキシャ!』より)