ウクライナの“義足ランナー”、東京マラソンに挑戦 勇気でつないだ 42.195キロ 「最後まで戦うことを見せたかった」『every.特集』
3月3日の東京マラソンに、ウクライナから2人のランナーが出場しました。ロシアとの戦闘で足を失った元兵士で、義足をつけて力走。他のランナーや避難しているウクライナ人に励まされ、日本人にも勇気を与えていました。フルマラソンに挑んだ理由とは?
3日に開催された東京マラソン。世界各国から集まった3万8000人の中に、ウクライナ人ランナーの姿がありました。義足で走る、元兵士のロマンさん(27)とユーリさん(41)です。
ロマンさん
「先に行くよ! 別れの挨拶はしない!」
ユーリさん
「頑張れ!」
ロマンさん
「ユーリもね!」
ロマンさんの目標は、自己ベストの5時間50分を切ることです。今回が初めてのフルマラソンとなるユーリさんと別れ、早速ペースを上げていきます。
7キロ付近で、5時間半で走るペースメーカーを追い越したロマンさん。1キロ6分17秒という自身のペースを確認すると、「もっと速く走らないと!」。さらにスピードを上げ、人の波をぬって前へ前へ進みました。
ところが、ロマンさんは12キロ付近で突然ストップ。走っているうちに義足がずれてしまったということです。切断した足に義足が食い込むことを防ぐための布を、素早く交換。そして、また走り始めました。
ロマンさんが義足で走るのはなぜなのでしょうか。
2月、ウクライナ中部で黙々と走るロマンさんの姿がありました。負傷は、ロシア軍との戦闘によるものでした。
2014年のロシアによる一方的なクリミア併合以降、戦闘が続いていたウクライナで志願兵となりました。2019年、21歳のときに地雷を踏んで右足を切断し、義足となりました。
ロマンさん
「戦争だからこうなることも分かっていました。それでも誰かが祖国を守らなければいけないんです」
2022年に始まったロシアによる全面侵攻でも、「国を守りたい」という一心で、義足をつけながら前線での戦闘に参加しました。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、全面侵攻以降、ロマンさんのように手足を失った人は最大5万人と推計されています。
ロマンさん
「大けがをした人たちを励ましたかったんです。手足がなくても人生が終わるわけじゃない。どんなことでもできるんだと見せたかったんです」
負傷兵の治療やリハビリのための支援金を集めるチャリティー活動として、ロマンさんは去年、フルマラソンに初めて挑戦しました。
同じくロシア軍との戦闘で義足となったユーリさんは、ロマンさんとともに、東京マラソンに初めて参加。制限時間の7時間以内でゴールを目指しました。
ユーリさん
「手足を失った人の痛みが私にはよく分かります。彼らのこれからの人生、モチベーションは本当に重要です。障害とは、私たちが受け入れることのできる挑戦なんです」
初めて見る東京の景色。ユーリさんは両手を広げ、「とても楽しい! 最高の雰囲気だね」「アリガトウ」と話しました。
ロマンさんも「オー、スカイツリー!」と東京のランドマークを楽しみました。後半、次第にきつくなってきましたが、勇気づけられる場面がありました。
日本人ランナーにウクライナ語で「スラーバウクライーニ(ウクライナに栄光あれ)」と励まされました。また、2人が走ることを知ってウクライナ国旗を持って応援にかけつけてくれた人たちもいました。
「給水所が僕のためにたくさんあるよ」と冗談めかして言うロマンさん。水分補給し、「ゴールに向かおう!」と自らを奮い立たせます。義足で一歩一歩。その姿は、他のランナーも勇気づけていました。
日本人ランナー
「走っている姿を見て勇気をもらっている人もいると思うので、自分も頑張らなきゃと思います。一日でも早い平和を願っています」
37キロ付近で待っていたのは、ウクライナの応援団でした。今回の侵攻で日本に避難してきた人たちの姿もありました。歓声を浴びたロマンさんは国旗を頭上に掲げて応え、タッチしたりキスしたり。
ウクライナから避難してきた少年(11)
「ウクライナのランナーをずっと待っていたんだ。会えてうれしかった。いつか僕が走るときは今日のことを思い出すよ」
残り2キロの地点で、ロマンさんは義足の右足をかばいながら苦しそうな表情を浮かべました。ウクライナの旗を背負い、「ウクライナに栄光あれ」と声を上げ、最後の力を振り絞って走ります。
そして迎えた「フィニッシュ!」。42.195 キロを義足で走り抜きました。ロマンさんの第一声は「楽勝だったよ! 自己ベストだ!」。記録は4時間50分。自己ベストを1時間も更新しました。
ロマンさん
「自分がマラソンを走ることで負傷者を励ませたと思う」
一方のユーリさんは 29 キロ地点で制限時間を超え、マラソンコースは走れなくなってしまいました。それでも諦めずに沿道を走り続け、7時間以上かけてゴール付近までたどり着きました。
ユーリさん
「『ウクライナ人は最後まで戦う』ということを見せたかったんだ。多くの日本人がウクライナの国旗を持って応援してくれた。とても感動したよ」
終わりの見えない戦争。亡くなる人や手足を失う人は今も増え続けています。2人が目指すのは、どんな未来なのでしょうか。
ユーリさん
「僕たちには国を立て直す必要がある。ウクライナが日本のように美しい国になってほしい」
ロマンさん
「ウクライナに帰ってからは、次のマラソンに備えてもっと頑張るよ。これからも負傷者や兵士を支援していきたい」
(3月22日『news every.』より)