EUの「ウクライナ支援」予算案 ハンガリーが“拒否権”発動で難航…苦肉の策の「プランB」とは?
長期化するロシアによるウクライナ侵攻。ロシアによる「侵略」を食い止めるべく、これまで欧米諸国は、ウクライナへの軍事支援を積極的に行ってきた。しかし、戦闘の長期化と、ウクライナによる反転攻勢の停滞などを受けて“支援疲れ”も叫ばれる中、EU=ヨーロッパ連合では、親ロシア政権のハンガリーがウクライナ支援のための予算案に拒否権を行使。2023年内に予算案は合意に至らず、2024年のウクライナの軍事態勢への影響を懸念する声が大きくなってきている。
そんな中、EU内では、ウクライナ支援を継続するべく、代替案「プランB」が水面下で調整されている。その驚きの中身とは?
■EU加盟交渉は前進も肝心の予算案が暗礁に…
23年12月、ベルギーのブリュッセルで行われたEU首脳会議。注目の議題は、ウクライナなどのEU加盟交渉と、500億ユーロ(=およそ7兆8000億円)にのぼるウクライナ支援の予算案だった。巨額の予算案をめぐり、当初、東ヨーロッパを中心に数か国が反対するのではないかという観測もあったが、蓋を開けてみれば、明確な反対は、ハンガリー1か国のみ。ただ、予算承認には加盟27か国すべての合意が必要だ。
ハンガリーのオルバン首相は23年10月にロシアのプーチン大統領と会談し、「ロシアと対立しようと思ったことはない」と話すなど「親ロシア」を鮮明に打ち出している。会議では、そんなオルバン首相への説得交渉が続けられた。
ハンガリーは司法の独立性に疑義があることなどから、EU側から予算執行を停止されている。ハンガリー側が求める停止解除と引き換えに、ウクライナ支援予算案への協力を求める交渉が行われたが、合意には至らず、ハンガリーは反対の姿勢を崩さなかった。
後述する“秘策”によって、ウクライナのEU加盟交渉に関してはハンガリーは拒否権を行使しなかったものの、予算案については拒否権を行使したため、23年内の承認は得られなかった。
暗礁に乗り上げた予算案だが、EU各国は今後、24年初頭から交渉を再開し、早ければ1月末から2月初旬にも再び首脳会議を開いて合意を得たい構えだ。
■EU内で進む「ハンガリー・オルバン首相対策」 “コーヒー休憩で退席”に続く「プランB」とは?
実は、ウクライナなどのEU加盟交渉について、オルバン首相は同意していなかった。政治ニュースサイトの「ポリティコ」によると、首脳会議でも他国の説得にオルバン首相は耳を貸さず、反対の姿勢を貫いていたといい、「全会一致」での合意に向けて、ある“秘策”が行われたという。
それは、ドイツのショルツ首相が、オルバン首相に対して「会議場の外で、コーヒーでも飲んで休憩されたらいかがですか?」と水を向けたというもの。オルバン首相がこれを受け入れ、会議場を後にしたところで、ハンガリー抜きで採決を行い、「全会一致」での合意を演出したというのだ。
こうした形を含む「オルバン首相対策」はEU内で水面下で進められている。ハンガリーが予算案に対して拒否権を行使し続けることを想定し、再び“コーヒー休憩”などを装う形でオルバン首相に退席を促し、形式上はハンガリーが賛成することなく「全会一致」での承認を目指すという報道も…。
一方、24年初頭から再開するという予算承認に向けた交渉では、ハンガリーの反対を織り込み済みの「プランB」が調整されているという。複数の欧米メディアによると、「プランB」はハンガリーを除く加盟26か国が、それぞれウクライナと二国間の協議のもとで支援を続けるというもので、「ハンガリーが反対を続けるのであれば、24年の初頭は一旦、この案で乗り切るのだろう」という見方が出てきている。
■米議会もウクライナ支援予算成立が見通せず…支援途切れれば「春先には戦闘に影響」「夏にはウクライナ敗北」の声も
一方、アメリカ議会でも、ウクライナ支援を含む緊急予算成立の見通しが立っていない。共和党はアメリカ国内で「ウクライナ支援は過剰だ」との声が広がりつつあることなどを受けて反対の姿勢を崩しておらず、23年内の予算成立はかなわなかった。与野党での調整が引き続き行われる見通しだが、成立への見通しは不透明なままだ。
ウクライナ側の反転攻勢は、当初の期待通りの成果は上げられずに停滞し、すでに弾薬不足などが叫ばれている。こうした中で、もしアメリカやEUの軍事支援が滞った場合に、戦況への影響はどうなるのだろうか。
NNNの取材に対し、ヨーロッパのウクライナ支援を牽引してきたイギリス国防省の関係者は「EUの支援の有無にかかわらず、イギリスはウクライナへの軍事支援を継続する」と主張。その上で、「EUの支援が継続されることを望んでいるが、もしアメリカやEUの予算が途切れた場合、24年春には戦況に大きな影響を及ぼすだろう」と指摘する。
さらに、「具体的には長距離ミサイルなどが底をつき、ロシア側に対抗するすべがなくなっていく危険性がある」として「アメリカが支援を停止した場合、ヨーロッパでもそれに追随する動きが出て、支援停止の流れが大きくなる恐れがある」と懸念を示している。
アメリカのCNNも、アメリカ軍高官の話として「アメリカなどの支援が停止した場合、最悪のケースでは24年夏までにウクライナの大幅な後退や敗北もあり得る」と報じるなど、戦況へ影響が出る恐れを指摘する声が上がり続けているのが現状だ。
こうした事態に、ウクライナ外務省は「EUがウクライナに対する財政支援を継続するという、明確なシグナルがある」などとして、楽観的な見方を示しているが、欧米の支援に向けた予算の行方次第では、ロシアによる侵攻に対する戦略そのものを大きく見直さざるを得ない可能性も出てきている。