創業2年目の確定申告は年収9万円…苦労してたどり着いた鶏・人・環境にやさしい平飼い養鶏 1パック2000円でも定期購入希望者が集まる、おばあちゃんと作った素エコ農園の魅力
今回のゲストは、株式会社sueco代表取締役・松本啓さん。フードロスを軽減する鶏・人・環境にやさしい平飼い養鶏の可能性を“1分間で社会を知る動画”を掲げる「RICE MEDIA」のトムさんが迫りました。
トムさん「社名の“sueco”や農園名の“素エコ農園”の名前の由来はなんですか?」
松本さん「お婆ちゃんの名前“末子”をもとに考えました。“素”の部分には鶏や働いている人がのびのびできるイメージを込めました。
昔、祖母も鶏を飼っていたらしいのですが、当時は高級品で風邪を引いたときだけ食べることが出来るものでほとんど食べたことがないそうでした。
祖母が育てていた時代のように、鶏がのびのびと走り回り、地元の物を食べて育つという昔ながらの養鶏をしたいという思いから製品名も『おばあちゃんの昔たまご』とつけています」
トムさん「松本さんの卵にはどんな味わいや特徴がありますか?」
松本さん「臭みがなくコクがあるといって貰えます。特徴的なのは割ったときに“ピン”っと白みが膨れあがり、黄身がヘルメットみたいになることです。
生き生きと生命力が強いことをお客様に喜んでいただいています。個体によっては、黄身を掴み持ち上げることも出来ます。
僕が1年間オランダに留学した際、日本と比べてヨーロッパの人たちは環境意識がすごく高いと感じました。社会や地球のためにオーガニックなものを買おうという人が結構居てすごくいいなと思いました。
なので鶏にあげるエサも地元のものにこだわっています。今はキュウリの葉っぱや、くず米、くず麦、米ぬか、おからなど捨てられていたものを機械でブレンドして与えています。
キュウリは上に伸びていくため、下の葉っぱがどんどん増えてゴミになります。キュウリの葉をあげるようになってから、卵の黄身が濃くなったり、鶏たちの体調が良くなったりしています」
トムさん「平飼いやエサによる効果は、鶏の体調面などで出てきているのでしょうか?」
松本さん「私たちの養鶏場ではエサをあえて大きいサイズであげています。大きいサイズだと消化に時間がかかるため、鶏の胃腸が1.4倍くらい長くなっていることが分かりました。平飼いや与えるエサの影響で、内臓などに影響がでてきています。
糞の状態や卵の状態から、食べるものが変わるとこんなに変わるのかと実感しています。
また平飼いだから何もしなくても良いわけではなく、鶏が卵を産みやすいような巣を作ってあげたり、土をふかふかにしてあげて鶏にとってのシャワーである“砂浴び”がしやすい状況を作ってあげたり、鶏の習性に寄り添って過ごしやすい環境を作ってあげるようにしています。
鶏には木乗りという習性があり、木にのって夜を過ごす習性があるので、そのための止まり木の準備もします。
こういった手間がかかると、卵の値段は高くなるのですが、レビューなどでも良いコメントをいただけることが多いです。
またお客様のほとんどがリピーターで、私たちの農園は佐賀にあるのですが、北は北海道から定期便を頼んで下さる方もいます」
平飼い農園特有の難しさとは?
松本さん「広い土地が必要なこと、鶏が自由に動いてしまうためエサやりなどのお世話の手間が増してしまうことが一般的に課題になります。
私たちの場合はそれに加え、米とか麦とかの餌を全部自分たちで調達する手間もかかります。『自然の物なので今年は餌として活用できるような量が取れるのか?』みたいなことを農家さん達とコンタクトをして進めていく必要があるためです」
トムさん「ヨーロッパは日本よりも平飼いが盛んだと思うのですが、何か理由があるのでしょうか?」
松本さん「留学当時のオランダでは卵に★マークがついていて、それでどれくらい環境や社会にとってプラス要素のある製品かがわかるようになっていました。
星マーク3つのものとついていないものでは、卵の値段が2.5倍くらい違ってきます。
平飼いは先ほどのように手間がかかるため値段も高くなってしまうのですが、高い卵を選んで購入する消費者が(日本と比べて)多く年々増えてきているというデータがあったかとおもいます」
日本の一般的な養鶏場では7万羽を飼育...
松本さん「日本の一般的な養鶏場では大体7万羽ほどの鶏を飼っています。今の日本の養鶏業では、それくらい飼わないと生活が成り立たないんです。
卵を産むための鶏だけで、日本国内に1億羽いると言われています。ちなみに、精肉用途で育てられる若鶏は45日ほどで出荷可能となり、飼育数は8億羽ほどになると言われています。
今の日本の食生活で使われている卵の値段で供給し続けるには、それくらいの規模で飼わなきゃ成り立たない状態です」
トムさん「素エコ農園ではどのくらいの数の鶏を飼われているのでしょうか?」
松本さん「私たちの農園では2000羽ほどを養鶏しています。一般的な養鶏場と比べると、
35分の1くらいになるため平均からするとかなり小規模になります。
大規模な養鶏によって安く買える卵があり、私たちのような卵もあるという選択肢があることが大事かなと思っています」
トムさん「松本さんのような形の養鶏が、若い人たちにとってのロールモデルとなれば、また現状は変わっていくのでしょうか?」
松本さん「養鶏業も後継者不足的な側面があるとともに、従業員のような一緒に働きたい人がどんどん減っていっていると思っています。
平飼いのような手間をかけた養鶏が1つのロールモデルになるためには、私たちのような形態で育てている卵をお客様に手にとって貰うことが1番大事になってくるかと思います。
例えば、1人でも2人でも消費者の中で卵に1個100円払ってもいいよねと思ってくれる人が増えてくると私たちみたいな飼い方が出来る人も増えていくのかなと思います」
大手企業を蹴って農業の道へ......養鶏に情熱を注ぎ始めた理由とは
松本さん「田舎で祖母と暮らしたいと思って、就職は断わりました。最初は有機野菜をつくろうと思って農業経験が全くない中で、本を読みながら試行錯誤しました。
2日間かけて4,000粒を種植えしたのに1本しかならなくて、これはダメだなと。野菜は向いていないことが分かり、本を読みながら有機農業で何かできないかと考えていたところで養鶏に気づきました。
養鶏家さんのところで1週間くらい勉強させてもらってから始めました」
トムさん「とうもろこしが1粒しかできないのと同じで、養鶏でも苦戦しそうですがそこは大丈夫だったのでしょうか?」
松本さん「本格的に養鶏を始めるために農業の最大のネックとなる土地を探し始めました。すると、7年間放置されていた耕作放棄地と出会い、『ここだったらニワトリを飼うことができそうだな』と思いました。
非常に荒れた土地で一緒に見学に行った市役所の方からは、止められたのですがタダで借りられると思い1番最初は始めました。
最初の3年間は全然自分の生活もできない状況でした。ずっと借金して生活を回していた状況です。
そこから卵がしっかり取れるようになってきて、お客様もついてきて、会社を作ってと少しずつ形になってきました。
2年目の確定申告を年収9万円で確定申告したのを覚えているのですが、現在は1パック10個入りで定価2000円の卵を400〜500人ほどのお客様に定期購入して頂いています」
トムさん「400~500人のお客さんが頼みたくなる卵を商品として提供できるようになってきた、ターニングポイントって何かありますか?」
松本さん「年収9万円だった2年目の時もツラくはなかったんです。そうしたら保育士をしていた友人が“年収9万円なのに楽しそう”と感じたらしく、仕事を辞めて入社してくれました。
一緒に働き始めてくれてから、すごく回り出したなという印象です。あとは始めるときに自分に嘘をつかなかったということだと思います。
就職するか、 おばあちゃんと暮らすかの2択で、始めるときにめちゃくちゃ悩みました。
『おばあちゃんと暮らそう!ここで僕はやるんだ!」ってちゃんと決められたことがよかったなと思います」
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本記事は、日テレNEWS NNN YouTubeチャンネルメンバーシップ開設記念番組「the SOCIAL season1」の発言をもとに作成されています。