「6人のバスケ部」まさかのピンチ…5人で高校“最後の冬”全国大会へ【バンキシャ!】
経営難で生徒数が激減してしまった和歌山県の高校のバスケットボール部にバンキシャ!が密着してきました。夏の県大会を優勝し、全国大会でも戦った「6人だけのバスケ部」に、次は“負けたら引退”の冬の大会を前に過去最大のピンチが…。【バンキシャ!】
◇◇◇
夏の取材から2か月、久しぶりに和歌山南陵高校を訪ねた。一つのクラスに全校生徒18人。バスケ部の6人も一緒だ。藤山凌成選手、酒井珀選手、紺野翔太選手、中村允飛選手、二宮有志選手、アリュウ イドリス アブバカ選手。
ナイジェリアからの留学生、アブバカくん。日本語での日常会話は問題ないが、プリントを読むのは少し苦手。そこで授業中に手放せないのが、翻訳アプリだ。
バンキシャ
「日本語での授業はわからないことが多い?」
アブバカくん
「結構多いですね。だからこの(翻訳)アプリいつも使っています」
来日して2年半。日本式の学校生活にも馴染んできた。
バスケ部の6人にとって、冬の全国大会が、目指す最後の舞台。
出場するには11月の県大会で優勝する必要がある。しかし、夏の大会を終えてから、チームの調子が上がらない。
「待つな待つな、ディフェンス」
「仕掛けろ、右サイド右サイド」
和中裕輔監督(29)の指導にも熱が入る。
「ヘルプどこにおんねん」
「ほら名前呼べや名前。コミュニケーション!」
チーム内のコミュ二ケーションが足りず、パスが繋がらない。シュートも、入らない。
「集合、集合」
和中監督
「外していいシュートなんかない」
「平気で外すけど、しっかり決めろ。1本1本集中しろ」
「かけろって。そのシュートにかけなかったら負けるぞ」
県大会まで時間はない。その気持ちがさらにチームワークを乱していく。
バンキシャ
「どうなの?最近チームは?」
藤山 凌成選手
「簡単に言うと、結構やばいって感じ。危機感持ってない」
絶不調に陥っていたバスケ部を、さらに窮地に追い込む事態が起きてしまう。
県大会開幕を目前に控えたこの日、監督は焦っていた。
監督
「今日はもうカメラなしかもしれないです」
バンキシャ
「え?なんでですか?」
監督
「今日はもう練習している場合じゃないです」
バンキシャ
「え?何があったんですか?」
監督
「いろいろチーム内で問題が…」
「そっちで話そう」
アブバカくんが突然、ナイジェリアに帰国すると言い出したのだ。
──何があった?
実はアブバカくんは、大学への進学準備を優先するよう両親に言われ、「すぐに帰国しろ」と迫られていた。
仲間たちが事情を聞きつけ、練習を中断して集まってきた。初めて聞かされる事態に戸惑うばかり。待つこと2時間…
監督
「今日はごめんなさい。申し訳ないです」
撮影はここで中断することに。寮での話し合いは、夜遅くまで続いた。
その後、アブバカくんは両親と話し合い、県大会終了まで帰国を先送りしてもらえた。ただし、大会終了後すぐに帰国することが条件だ。つまり県大会で優勝しても、アブバカくんは全国大会には出られない。
この事態が、逆にチームに転機をもたらした。
仲間たちが突然、食堂のテーブルを並べ替え始めた。練習時間以外でも、アブバカくんと過ごす時間を増やそうと考えたのだ。
“1日でも長く6人でバスケを”
その思いが日を追うごとに強くなる。食事を終えたアブバカくんが仲間に頼んだのは、髪の毛のカット。
アブバカ選手
「いつも通り、そうそうそう」
入学以来、髪の毛はいつもチームメートの紺野くんが切ってくれていた。
紺野 翔太選手
「こんな感じ?」
アブバカ選手
「ナイス、ナイスナイスナイス。いい感じ」
チームの絆が深まると、いつしかパス回しまでスムーズになっていた。
キャプテン 二宮 有志選手
「今はみんな優勝に向かって、しっかり全員同じ方向を向いている」
この6人でしか、できないバスケ。ようやく、南陵のプレーが戻ってきた。
◇◇◇
迎えた和歌山県高等学校バスケットボール秋季選手権大会。南陵は、順調にコマを進め、決勝の舞台に勝ち上がってきた。
決勝のカードは、2年連続の相手となる強豪チーム(初芝橋本)。白のユニホームが南陵。アブバカくんは先発で出場する。軽快なパス回しから、アブバカくんが先制点を決めた。
チームワークを取り戻した南陵は、その後も攻守で圧倒。見事、4年連続4回目の優勝を決め、全国大会への出場権を獲得した。
バンキシャ
「無事、優勝したね」
アブバカ選手
「結構うれしいです。やっと勝ちました」
この直後、両親との約束通り、帰国の途に着いたアブバカくん。
“全国大会も6人で戦いたい”
アブバカくんは両親を説得して戻ってくると、仲間たちに告げた。
アブバカくん
「最後まで(一緒に)やりたいから家族と話すのを頑張る。ちゃんと戻れるように」
「待っているよ、行ってらっしゃい」
2週間後──。アブバカ君の髪の毛を切っていた、紺野くんにメッセージが届いた。
「もう一度みんなと一緒にプレーすることはできなくなった。僕にとってはつらい決断だ。でもほかに選択肢はなかった」
アブバカくんは進学準備を優先させたい両親を説得できなかった。
バンキシャ
「5人で頑張るしかないね?」
紺野 翔太選手
「はい」
全国大会を前に、かつてない窮地に立たされた、南陵高校バスケ部。
キャプテン 二宮 有志選手
「今までやってきたバスケが全部無しになるんで、ここから新しいチーム作り上げている感じ」
酒井 珀選手
「一番点取ってた人がいないから、それはもうみんなでそこの穴埋めるしかない」
アブバカくんはもう帰ってこない。それでも5人で勝ってみせる。
キャプテン 二宮 有志選手
「最後の大会で集大成なんで、最後はみんなで楽しんで終われたらな」
◇◇◇
月曜(23日)、南陵高校の5人は全国大会が開かれる東京に。
「東京来てから血圧やばい」
「来た瞬間から緊張してるんやろ?」
高校バスケの頂点を目指す全国大会、ウインターカップ2024。出場する60校の中で、選手が5人しかいないのは、南陵高校だけ。
対戦相手は部員50人を擁する県立長崎工業。黒のユニホームの南陵高校は控え選手が1人もいない、圧倒的に不利な状況。
それでも、チームワークで上回る5人は、素早いパス回しから次々と得点すると、試合終盤まで互角の戦いを見せる。
そして試合終了まで残り7分。このシュートで、南陵は2点差に詰め寄る。
しかし、5人に緊急事態が…。
高校生活最後の戦い、ウインターカップに、たった5人で挑む和歌山南陵高校バスケ部。
試合終盤、2点差まで詰め寄る。その直後だった。
相手のシュートを止めようとした紺野くんに、ファウルの笛。これが5つ目のファウルとなり、退場となってしまった。
交代選手のいない南陵は、4人で戦うしかない。退場した紺野くんもベンチから声をかけ続ける。しかし点差は広がっていく。体力は限界を迎えていた。
そして南陵、最後の攻撃。シュートがリングに吸い込まれると同時に、試合、終了──。
1回戦敗退。これが高校最後の試合となった。
バンキシャ
「どうだった?5人できつかった?」
キャプテン 二宮 有志選手
「しんどかったですね。でもやり切ったんで後悔はない。どのチームよりも一番楽しみましたよ、僕らが」
本当に南陵に来て良かった。この5人でプレーできて良かった。
*12月29日放送『真相報道バンキシャ!』より