【密着】夢を仕事にしたい! 憧れの「鼓童」の正規メンバーを目指す若者の“揺れる思い”『every.特集』
太鼓や笛を中心とした和楽器の力強い演奏。太鼓芸能集団「鼓童」は、50以上の国と地域で7000回を超える公演を行っている。拠点は新潟県・佐渡。そこに、夢を仕事にしようと岩手県からやってきた若者がいた。
小川 蓮菜(ハナ)さん(当時20歳) 。高校卒業後2年間の研修所生活を経て、おととしからは、見習いである「準メンバー」として寮で共同生活を送っている。
ハナさんは、憧れから足を踏み入れてはみたものの、甘くない現実にもがいていた。
ハナさん
「先輩たちは何回も同じ舞台に立ってずっと生活してきた人たちなので、そこに急にぽんって自分が入るっていうのがびくびくする」
この日はハナさんが朝食当番。お皿にウインナーをきれいに並べながらハナさんは…
「先輩がこれも一応礼儀というか、練習になると言ってた」
正規メンバーになるためには1年間のここでの生活が総合的に評価される。代表から合否が通達され、不合格の場合は鼓童を去ることに…毎日が試験だ。
そんなハナさんを先輩たちは「(ハナさんは)天真爛漫って感じ。それが太鼓の音にもめっちゃ出てるので元気な子」と話す。
ハナさんに、自分の誰にも負けないところを聞くと「声のでかさ!」と即答した。実はハナさん大谷翔平選手の母校、花巻東高校で応援団長を務めたことも。元気と笑顔が彼女の武器だ。
ハナさんが太鼓と出会ったのは8歳のとき。そして高校生の時に、世界ではスーパースターの憧れの存在「鼓童」が地元にやってきた。このとき、生の演奏を聞いて「私が本当にやりたいことはこれなんだ」と確信したそう。でも、そのことを両親にはなかなか言えなかったという。
ハナさん(当時20歳)
「高3の春とかまで(親に)言えなくて、鼓童って安定している道じゃないのでなかなか言い出せなくて。めっちゃ怖くて、お父さん。絶対ダメって言われるだろうなって思ったら何も言わないでムッとしちゃって」
早く正規メンバーになって両親を安心させたい…しかし、憧れを現実にすることは簡単ではない。
この日の練習でも、演奏を中断し先輩から指摘が。
先輩
「もうちょっとさ、ゆっくり」
ハナさん
「はい」
先輩
「なんか、始まり感。ドキドキしている感じで」
ハナさん
「はい」
先輩から求められる、音の強弱やテンポを自分の技術でうまく表現することができなかったのだ。稽古を重ねるにつれハナさんから笑顔が消えていった。
ハナさんは
「自分は100%なのにこれ以上引き出しがないから、どうしたらいいかわかんない」と打ち明けた。
去年4月。佐渡に来てから3年が経ち代表から合否が伝えられる日がきた。正規メンバーになれるのか、ここで鼓童を去ってしまうのか。結果は…もう9か月準メンバーとして活動し、そのあと選考結果を伝えるとのこと。同期の一人が合格となる中、ハナさんに告げられたのは“見習い期間の延長”だった。
その理由について鼓童の代表はこう話した。
「もともと持っているポテンシャルがすごく高い分、悪く言ってしまえば無難なところで収まってしまっているという印象。もっと彼女だったら 名前のように花開くというか…」
そしてハナさんも
「無難ってつまんないなって確かに自分でも思って」
個性がない・・・ハナさんは、憧れと現実のはざまをさまよっていた。
7か月後。次の合否の通達まであと1か月。舞台公演の稽古が始まっていた。すると、代表からは、体全体をつかって太鼓を叩くよう指導が入った。さらに「もっと笑っていいよ」とハナさんらしい笑顔やエネルギーを求めた。うまく叩こうとするのではなく、自分らしさをもっと前にだすようアドバイスされたのだ。
ハナさんは「本当の自分っていうのを遠回しに伝えてくれていたのかな」と話した。
その後の公演では久しぶりにハナさんに笑顔があふれていた。
去年12月。二度目の通達の日。代表はメンバーたちを前にこう発表した。
「1月から小川蓮菜(ハナ)さんを正団員として迎え入れることになりましたのでよろしくお願いします」
苦節4年、ハナさんはついに念願の正規メンバーに。
ハナさんは…「正直、4月にもう1回準メンバーをやってくださいって言われたときは太鼓と向き合うことよりもまず自分と向き合うことが苦しくて…。それでもずっと声をかけてくれる先輩方や頑張ってねって直接言ってくれるお客様がいて、やっとスタートラインに立てた証しだと思うので、名前のように華がある舞台メンバー目指してこれからも頑張っていきたいと思う」
がむしゃらに夢を追いかけたその少女は今、憧れを現実に変えた。いつの日か子どもたちの憧れになるために…。
※詳しくは動画をご覧ください。(2024年4月23日放送「news every.」より)