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【残業減でも収入UP】減らした残業代がボーナスに IT業界大手で実現した“奇跡の休み方改革”

2022年2月13日 20:00
【残業減でも収入UP】減らした残業代がボーナスに IT業界大手で実現した“奇跡の休み方改革”

ハードな働き方が蔓延しているIT業界。そんなイメージとは裏腹に、休み方改革で残業が激減、しかも社員の収入アップを実現したのが、業界大手の株式会社SCSKだ。実際の施策をもとに、生産性を上げつつ、休み方改革を進めるヒントを考えた。

■残業は減らしたい。しかし・・・・・・?

システム開発やITインフラ構築など、様々なITサービスを提供する株式会社SCSK。社員数1万4550人、取引企業約8000社を誇る業界大手企業が、休み方改革で注目を集めている。大胆な改革で社員の残業が激減。さらには、社員の収入アップという”奇跡”を起こしたのだ。

SCSK人事・総務本部ライフサポート推進部長の杉岡孝祐さんによると、元々はほかのIT業界と同じく、「不夜城」と呼ばれるほど長時間労働が当たり前だったという。

「私たちが提供する情報システムは24時間365日動いて当たり前のものです。ゆえに、システムを守るために長時間労働が蔓延し、休まず働く人を評価する風潮がありました。オフィスに寝袋があるのも当たり前の光景でしたね」

この状態のままではいけない。危機感をあらわにしたのが、当時の経営トップだった。「システムエンジニアは機械のように働くのではなく、クリエイティブな仕事であるべき。過酷な労働環境では、いいアイデアが出るわけがない。一度リセットして、働き方を見直さなければいけない」と考えたのだ。まだまだ「働き方改革」という言葉すら浸透していない2012年のことだった。

そこでSCSKは、まず残業が特に多い部署において、残業を半減させるトライアルを実施。一度は残業時間が大幅に減少したものの、すぐに元通りに戻ってしまった。その理由のひとつが、社員から、「残業代をあてにしていたのに」という不満の声が出たことだ。

企業の働き方事情に詳しい株式会社リクルートHR統括編集長の藤井薫さんは、どの会社でも起こりうる声だが、本音は別にあるという。

「社員らは、当然ローンも返したいし、稼ぎたいと思っています。しかし本音を聞いていくと、無駄な残業をしたいと思っている人はいません。残業が減れば、給料が下がるというシステム自体をアップデートできないと、解決できないと思います」

社員からの反発の声をうけて、SCSKが取ったのは、まさに常識とされていたシステムのアップデートだった。削減した残業代を、そのままボーナスとして社員に還元すると発表したのだ。

「全社員の平均残業時間を1時間削ると1億円の削減になります。この残業代をすべて会社の利益にしますと伝えた瞬間、社員はどう思うでしょうか。『休んでも、会社の利益になるんでしょ。社員の健康第一というけれど、やっぱり利益のためかよ』。そんな気持ちを抱くかもしれません。だから削減した残業代は、すべて社員に還元することにしました。このメッセージを伝えたことで、会社の本気度が伝わり、現場も変わり始めたのです」

しかし、これだけではすべての問題を解決できなかった。「取引先に迷惑をかけてしまうのではないか」という懸念の声が上がったのだ。社員の中には、お客様先で常駐しているケースも多い。「残業できません」といってもお客様から理解が得られなければ進まないからだ。

そこで経営トップは自ら手紙をしたため、役員がその手紙を持って取引先の役員クラスに説明。その結果、思わぬことが起こったと、SCSKの杉岡さんは語る。

「お客様も、休み方ついて課題を感じていらっしゃったんです。中には、一緒にやろうと協力を申し出てくれた方もいらっしゃいました」

SCSKの起こした働き方改革が、業界全体を変えるきっかけになったのだ。

■休みを増やした結果、生産性も向上

休み方改革の成功は喜ばしいものの、気になるのは業績だ。番組内でも、「労働時間が減ったことで、業績が落ちたのではないか」という疑問の声が上がった。事実、SCSKも改革当初は業績ダウンも覚悟していたという。

しかし、蓋を開けてみると、業績は右肩上がり。働き方を変えることで、サービスのレベルも上がり、業績が上がるという好循環のサイクルが生まれたのだ。


藤井さんは、SCSKの成功事例についてこう分析する。

「休み方改革がうまくいっている企業とうまくいっていない企業には、取り組み方に違いがあります。経営層と働き手の2者間で、綱引きのようにどちらが得か損かを議論し合っていても、うまくいきません。「顧客」の視点を入れることが非常に大事です。休み方改革を進めることで、働き手はリフレッシュできて、顧客への提供価値が上がり、経営層は利益を得られる。この3つの視点をもつことで、社員の罪悪感がなくなり、浸透したのだと思います」

3者にとって利益のある休み方改革。長時間労働が当たり前とされていたIT業界での成功事例は、他の企業の仕組みにも波及することが見込まれる。



この記事は、2022年1月28日に配信された「Update the world #13 “休みの罪悪感”をアップデート」をもとに制作しました。

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