"台湾有事"について考える 「軍事的圧力」強める中国 本当に台湾統一に武力を用いるのか?【#きっかけ解説】
中国軍代表団の報道官が9日、「(中国と台湾は)必ず統一される」「島(台湾)周辺のパトロールと軍事的抑止は常態化している」と発言しました。いわば中国軍が「今は四六時中、台湾に圧力を掛けていますよ」と公式に認めたという意味で重要発言なんです。
―中国は本当に、台湾統一に武力を用いるのでしょうか?
「可能性はゼロではない」ということになります。ただ、実際には様々なハードルがあります。
―ハードルとは何でしょうか?
いろいろな作戦がありうる中で今回は、上陸・占領することに限って考えます。難しい理由を3つあげると、1つ目は気象条件です。
台湾海峡は一番狭いところでもおよそ130キロあり、時期によって強風や濃霧、高い波が発生します。アメリカの研究者の本によると、上陸作戦が可能なのは3月下旬~4月、9月下旬~10月という、限られたタイミングだけなんです。
―その3か月は警戒が必要、ということですね。
2つ目は地形です。台湾は山がちの地形で、どこでも上陸できるわけではありません。2015年段階で台湾軍が「中国軍による上陸作戦が可能」と判断している浜辺は14か所とされています。
さらに、アメリカ軍の研究機関の文献では、本当に大きな規模の部隊を上陸させるなら浜辺だけじゃなく「港」の確保が必須だと指摘していて、標的となる可能性が最も高いのは「台中港」とされています。
このように、ある程度絞り込まれた上陸地点に、台湾軍が守りを集中させていることになるので、中国軍にとっては「攻めづらい」ということです。
―台湾への上陸作戦には時期も場所も限られるということですね?
そうなんです。そして、難しい理由の3つ目は、「船の数」です。
アメリカ国防総省は、中国軍が台湾への上陸作戦に必要となる艦船の増強を行っていないと分析しています。「まだ船の数が足りていない」のです。
逆に言うと、中国がこうした船を造るペースを急にあげたりすると、武力侵攻の「兆候」とも考えることができます。こうした兆候をキャッチするための取り組みも始まっています。
先日、安全保障の専門家である小原凡司さん、小泉悠さんを取材しました。お二人はDEEP DIVEという民間のインテリジェンス組織を立ち上げました。見せてもらったのは中国の造船所にある、新型空母の衛星画像です。
DEEP DIVE代表理事 小原凡司氏
「気になるのはこれです」「早期警戒管制機(の模型)ではないかと思いますね」「これがいることによって中国大陸からはるかに離れた海域でも(艦載機の)戦闘力を維持できることになる」
例えばこうしたものから中国軍の能力や動きを予測し危機を早めに察知して警鐘を鳴らしたいということです。
―専門家のみなさんは台湾有事の可能性をどう見ているんでしょうか。
短期的には可能性は低いとの見方が多いです。
防衛省防衛研究所・理論研究部の飯田将史部長は「台湾を封鎖する能力はすでにあるが、(アメリカの介入があったときにどうするかなど)決断のハードルは高い」とみています。
一方で、中国は急速に核弾頭を増やしていて、「アメリカの配備数に近づく2035年頃、アメリカの介入を抑止できると自信をもつかもしれない」とも指摘しています。
また、台湾・清華大学の小笠原欣幸教授は、「共産党体制を揺るがすリスクのある軍事行動に出ることは考えにくい」とみています。
ただ統一をなんとしても実現したいという中国の野心を甘く見てはいけない、日米が連携して有事に備える動きを見せることが、中国の武力行使を抑止することにつながっているとも指摘しています。
―坂井記者が一番伝えたいことは何でしょうか。
はい、「日本にとっての『台湾有事』を考えよう」です。台湾は親日的な人も多く、民間交流も活発な日本の大切な友人です。一方で、中国も日本にとって重要な隣国です。誰も望まない、戦争を避けるために、日本が果たせる、果たしている役割について、考える必要があると思います。
―ニュースを通して、考えるきっかけに。今日は坂井記者と「台湾有事」についてお伝えしました。
【#きっかけ解説】