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特集「キャッチ」“やぶ医者”がふるさとの医療を支える 山あいの集落を回る“こわ面”医師 佐賀

2024年2月28日 18:28
特集「キャッチ」“やぶ医者”がふるさとの医療を支える 山あいの集落を回る“こわ面”医師 佐賀
“やぶ医者”がふるさとの医療を支える
特集「キャッチ」です。「やぶ医者」と聞くと腕の悪い医師といったイメージを持ちますが、本来「やぶ医者」は腕の立つ医師を指す言葉です。地域医療を支える「やぶ医者」として、その活動が注目される男性医師が佐賀県唐津市にいます。

佐賀県の山口知事を表敬訪問した男性は、全身黒ずくめでひげをたくわえ、一見こわ面ですが、実は地域医療を支える医師です。

■七山診療所 阿部智介所長
「きょうは糸抜くね。痛みはないね。」

佐賀県唐津市にある民間のクリニック・七山診療所の阿部智介所長(44歳)、地元出身です。

■阿部所長
「(患者は)いろいろ来ます。ケガも来るし、小児も来るし。専門がどうこうとかじゃなくて、来た人を全部診て対応している。」

診療所のある七山地区は、唐津市の山あいにあります。人口はおよそ1700人です。

この地区の医師は阿部さんただ一人です。白衣ではなく、黒のジャージがトレードマークです。

■訪れた人
「(Q.見た目怖くないですか?)小さい頃から阿部先生なので。」
「七山の人は家族全員、阿部先生という感じだと思う。阿部先生がいなくなったらどうしようと思う。」

阿部さんは去年、地域医療を支える医師として表彰されました。兵庫県養父市が毎年選出する「やぶ医者大賞」です。

養父市にかつて腕の立つ医師がいたことから、「やぶ医者」は本来、名医を指す言葉だったといいます。

■阿部所長
「地域に向き合って粛々と毎日仕事をしていくだけなので、 それを客観的に第三者の目で見て評価をしていただいたのは励みにもなる。」

1月下旬、前日に降った雪が残る中、阿部さんが往診に向かったのは、七山地区の自宅で療養している69歳の男性です。

■阿部所長
「こんにちは。調子はどうですか?」
■患者
「足に痛みがある。」
■阿部所長
「幻肢痛ですね。」

男性は糖尿病を患っていて、およそ3か月前、唐津市内の別の病院で左足の膝から下を切断しました。失ったはずの手足に痛みを感じる「幻肢痛」という症状に悩まされています。

■阿部所長
「幻肢痛と言って、幻の足の痛み。切断した人はよくある話だけど。座れるようになって、車いすまではいけるといいよね。 歩くのも目標として持っておくのはいいかも。」
■患者
「(阿部さんは)安心する。(Q.阿部先生だと話しやすい?)はい。」
■阿部所長
「また来ますね。」

阿部さんは地域を走り回り、住民の声に耳を傾けます。これには父親の影響が大きかったといいます。

1981年、当時医師がいなかった七山地区に診療所を開いたのが父親の孝昭さんでした。

12年前に他界するまで、地域をひたすら走り続けた父の存在は、ふるさとを守る阿部さんにとって理想の医師の姿です。

■阿部所長
「父が(自分と)同じような感じで、24時間365日、求めがあれば応えるというやり方だった。僕の中では、それが医者の姿だと思って育ったので、今こうやってやっていることに対しては何の抵抗もない。」

七山地区では住民の半数近くが65歳以上と、高齢化が進んでいます。

阿部さんは診療所から8キロほど離れた公民館を訪ねました。集まっていたのは、診療所まで来るのが難しいお年寄りたちです。

■阿部所長
「こんにちは。」
■女性
「(生まれて)もう100年たつね。」
■阿部所長
「なかなか100年生きる人もおらんね。動けるときは足も動かしてね。ただ、転ばないように気をつけないとね。」
■女性
「ありがとうございます。おかげで長生きした。」

2週間に1回、地域の公民館を回る巡回診療です。診療の日は、お年寄りたちの交流の機会にもなっていました。

■参加者
「だいぶ人が少なくなった。」
■阿部所長
「7人減ったんだっけ。」
■参加者
「世間話をして5時のサイレンが鳴ったらみんな帰る。」
「楽しみですよ、会うのが。なかなか会わないから、同じ集落にいても。」

心も体も守る「やぶ医者」です。

阿部さんは今、新たな地域医療の形を模索しています。それは「人生会議」と呼ばれる取り組みです。

人生の最期をどう迎えたいのか、そのために必要な医療やケアについて、事前に家族や医療関係者と話し合おうと提案しています。

■阿部医師
「縁起でもない話だからと言って伝えないでいくと、最終的に自分が望む生き方にならないかもしれないし、家族も苦しめてしまう。自分の意思を伝えることが重要。」

■阿部医師
「ケガしたらすぐ来ないといけないよ。」
■患者
「自然と治るんじゃないかと思って。」
■阿部医師
「治らん、治らん。」

ふるさととともに生き、ふるさとともに最期を迎えられるように、七山の「やぶ医者」はきょうもひとりひとりに寄り添います。
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