「半数超が60代以上」需要増えるが左官職人が足りない!若者職人を増やす取り組み
取材した記者が一つのテーマを深掘りするシリーズ企画「記者のコトバ」。取材した東島大記者です。
(東島大記者)
新入生、新社会人があふれる季節ですが、今回お伝えする「記者のコトバ」は、「消える職人技」です。私が取材に行ったのは職人さんの新人たち。左官を養成する職業訓練校です。
最近、漆喰の壁の良さが見直され、一般の住宅でも漆喰の壁にこだわる家が増えてきましたし、飲食店などでもひっぱりだこです。ところが、そこで問題になっているのが左官職人の不足です。
(緒方太郎キャスター)
建設業界は、東京オリンピックの頃から職人が足りないと言われ続けていますね。
(東島記者)
建設関係の職人の中でも左官の不足は突出しています。熊本県で1985年に5300人以上いた左官は、2020年には3分の1近い1800人に減少しました。さらに深刻なのは年齢です。60代以上の職人が半分以上を占めていて、この世代が引退したら左官の伝統が途絶えかねません。
こうした危機感から、熊本の左官の会社が職人を養成する職業訓練校を充実させ、左官の養成に本腰を入れています。左官をめざす若者を取材しました。
3日、益城町で行われたオオタ左官訓練センターの入校式。
■浦川廉心さん
「私たち訓練生一同は、これからの2年間、一流の左官職人を目指して訓練に精一杯精進することを誓います」
左官を目指して今年入校したのは、いずれも県内の高校を卒業したばかりの7人です。式では全員にコテが手渡されました。
■浦川廉心さん
「自分の作ったものが後世に残っていくっていうところに魅力があって選びました。誰ひとり辞めることなく続けていけたらなと思います」
熊本の左官の会社が運営するこの訓練センターでは学費は必要ありません。入校から2年間、左官の訓練生として毎月20万円の給料をもらいながら、現場にも出て、基礎的な技術を身につけていくのです。
入校式が終わると、全員が集まって手作りカレーの昼食です。ついさっきまで緊張していた新入生も。
■新入生
「最高です」「おいしいです」
先輩たちも新しい後輩に興味津々です。
■先輩
「颯仁くん、真斗くん、廉心くん、良生惺くん、りくとくん…陸也くん、崚太くん、よーし」
午後からはさっそく授業開始。7人の新入生は、コテの持ち方や漆喰のこね方を先輩から教わります。この訓練センターには、5年前から女性の訓練生が途切れることなく入校しています。そのひとり、稲葉由朱姫さんは2年前に入校し、県職業能力開発促進大会で表彰も受けました。
かつて「技術は見て盗め」といわれた職人の世界。しかし丁寧な指導の必要性に加え、女性の職人も増えているため、この訓練センターでは、動画なども活用して体が接触するような指導はできるだけ避けています。初めての訓練も和気あいあいとした雰囲気の中で続けられました。
■新入生
「重い…重いです結構、慣れるまでめっちゃ重いんだろうなと思いました」
■新入生
「むっちゃ楽しいです。めっちゃきれいになるので、自分の手で。それが楽しいです」
■新入生
Q手を動かすの大変?
「はい」
Qフェンシングで鍛えてるのでは?
「それはもう違う筋肉です」
(畑中香保里キャスター)
訓練校の雰囲気はアットホームですが、左官をはじめ、職人が減っている原因は?
(東島記者)
諸説ありますが、この訓練センターを運営している 会社では次のようなことをあげています。
①一人前になるのに時間がかかる。いわゆるコスパが悪いと敬遠されがちということ。
②アナログ中心の現場が多い。これは精神論という面に加え、文字通り今でも手書きとFAXが幅をきかせているという面もあるそうです。
③週5日制が普及していないなど労働環境が未整備。しかし4月からは、建設業でも時間外労働の上限制の適用が始まりました。週5日制は建設業でも一般化していくとみられています。
④日給月給制度への不安。これは雨が降ると現場が休みになって、その分給料が貰えないことを指します。ただ紹介した訓練センターではすでに月給制を取り入れていますし、国土交通省も月給制への移行を奨めています。
安心して働ける環境を整えないと、若者たちの意欲を支えられなません。オリンピックも万博も、どんなお洒落なデザインも、職人がいないと実現できません。ものづくりを支える根本にいるのが職人です。職人の育成に力を入れないと取り返しの付かないことになるのではないかと思います。