【解説】輪島塗の地球儀 万博で“復興の光” 野口さんの目からウロコ
越崎 成人 キャスター:
北國新聞論説委員の野口強さんとお伝えします。よろしくお願いします。きょうはどんな話題でしょうか。
日本で行われる今年最大のビッグイベントといえば「大阪・関西万博」ですね。周囲を覆うリングも完成し、あと1か月ちょっとで開幕です。
野口さん:
「輪島塗の地球儀 万博で復興の光」です。
この地球儀、輪島塗の技を象徴する作品を残そうと、輪島塗技術保存会が2017年に制作を始めました。
野口さん:
土台となる球体の木地づくりから始まり、漆を何層にも塗り重ね、仕上げには蒔絵や沈金など、ご当地を代表する技術を使って金色の文様を描きました。夜の地球に、点々と灯る明かりの帯をつないで陸地を表しています。
越崎:
平和の尊さが表現されているそうですね。
野口さん:
土台となる球体は、6ミリ程度の厚さの能登産のアテの板290本を曲げて輪を作り、漆を接着剤にして、つなぎ合わせました。球体ですから、塗りの段階でたっぷり塗ると、漆が表面を伝って下に垂れてしまって表面が均一にならないので、1回に塗る厚さは1ミリの20分の1だそうです。
越崎:
乾いては塗る、という作業を何度も繰り返したということですね。
野口さん:
職人・作家合わせて総勢37人が、5年を費やして完成させた大型地球儀は、直径1メートル、重さが215キロあります。能登半島地震では、漆芸美術館の展示ケースが壊れ、この地球儀も上下が逆さまになるほどの衝撃を受けましたが、輪島塗の強さを象徴するように、作品自体は無傷で残ったんですね。では、1つ目の目からウロコです。
野口さん:
「震災に耐えた奇跡 火星の石より人気?」。会場の中心部に専用の建物を建てるそうですが、それほど本格的な展示が実現したのは、日本国際博覧会協会の会長でもある経団連の十倉会長が去年11月に被災地を訪れ、地球儀に深い感銘を受け、「万博で展示させてほしい」と申し出たのがきっかけでした。
野口さん:
私も震災後に拝見しましたが、黒光りする表面はきれいな球体を描いていて、輪島の漆職人の技の見事さをあらためて感じました。
野口さん:
万博の目玉の一つには、日本館に展示される「火星の石」があります。1千万年前に火星を飛び出して、地球にたどり着き、南極で日本の観測隊に発見されました。
越崎:
まさに奇跡の石と言えますよね。
野口さん:
輪島塗の地球儀も、職人魂が息づき、地震の揺れに耐えた奇跡の傑作と言えるでしょう。苦難を乗り越えて万博にたどり着いた二つの奇跡と、ぜひ会場で対面したいですね。そこでもう1つ、目からウロコです。
野口さん:
「“リング”の中は石川の技の見本市」。万博会場では、いろんなご当地自慢が出展されるんですが、この地球儀が展示される「静けさの森」というエリアの前に、兵庫県のJR姫路駅の名物の「えきそば」が出店します。和風だしで食べる中華麺で、姫路のソウルフードですが、これを輪島塗の器に入れて提供するそうです。
野口さん:
通常、駅で食べると500円弱だそうですが、これが神戸牛なども加えて3850円で提供されます。
越崎:
万博に行けば輪島塗の器に盛られた究極のえきそばを食べて、輪島塗の地球儀を見られるということですね。
野口さん:
被災地を元気づける万博でしかできない「輪島体験」になると思います。このほか会場では、これも石川の工芸を代表する九谷焼が、富山県の井波彫刻とコラボして、大きな門を作ることになりました。門には九谷焼に取り組む職人や作家が作った、縦横30センチほどの陶板約30枚が張り付けられます。7月にお披露目されます。九谷焼の多彩なデザインを見ながら、門をくぐれるという趣向です。
野口さん:
世界各地のお国自慢がずらりと並ぶ万博会場で、地球儀をはじめ超一級の見せ場に引けをとらない、石川のものづくりのレベルの高さを、ぜひ実感してほしいですね。
越崎:
ありがとうございました。野口さんの目からウロコでした。