臨時情報発表から1か月、観光客をどう守る?1日分の防災セットとは…広がる備え
南海トラフ地震臨時情報が初めて発表されてから1か月が経ちました。多くの観光客にいかに安全に逃げてもらうか…これを機に、見落としがちな防災グッズの備蓄を。愛媛県内で広がる備えを取材しました。
松山市で行われた防災クッキングの勉強会。耐熱のポリ袋を使って親子丼とサラダを作ります。
参加者:
「上の方で縛る…これグー結び?」
「すごいですね、こんなんで作れるんですね」
物流やインフラが寸断され避難生活が長引けば、栄養バランスが崩れて健康状態の悪化につながりやすくなります。
実際に料理を作ってみることで、災害時の食事の幅を広げ栄養の偏りやストレスの軽減につなげてもらおうと松山市が開催しました。
松山東雲短期大学 栗原和也講師:
「復興するためには自分の健康が大事ということで、そのためには普段の食事からいざという時の食事まで何が必要なのか考える機会を持ってもらえれば」
参加者:
「ポリ袋に入れて作った感じがしない。普通に家でも作って食べたい感じ。今ちょうど職場の備蓄について見直しているところですごく良い参考に」
先月8日。日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震を受け初めて発表された南海トラフ地震臨時情報。発表直後、街で聞いてみると…
市民:
「調査するというニュースはスマホに来ていたが、調査って何だろうと思って。注意がどの段階なのかは知らない」
市民:
「やっぱり意識が甘いのかもしれない」
「普段からもうちょっと情報には敏感にならないといけないなというのは思う」
市民:
「そういう注意が出るというのは今回初めてですよね。なので、知らないです」
「臨時情報」は、多くの人に理解されていませんでした。しかし初めての発表をきっかけに…
料理教室 参加者:
「(職場が)知的障害、発達障害といった方が住んでいるグループホームを運営しているので実際糖尿病の方もいますし、いろんな方が住んでいるので、いざというときにきちんと私たちが動けるようにしておかないとなという意識が一層と芽生えた」
「あの情報が出て、意識を高めるという意味では良かったかな」
こちらは、松山市内で消防設備や防災用品を扱う会社です。
上田消防建設 松山店 大隅真子さん:
「主に衛生用品が入った1日分のセットです」
防災意識の高まりに応えようと、災害時に役立つ衛生用品のセットの販売を始めました。
大隅さん:
「こちらが水のいらない歯磨きシート。中身はメッシュ素材のウェットシート。これで歯を磨いてもらって、すすぎも不要なのでこのまま捨ててもらう」
中にはこんなものも…
「トイレの時にウォシュレットを使いたいという方には携帯ウォシュレット。こんな感じで優しい感じで(出てくる)。水と空気が混ざり合って出てくるのでほんとにウォシュレットが再現されている」
あわせて6種類のグッズが入っていますが、なぜ“1日分”なのかというと…
「7日分の備蓄を用意するのって、備蓄したことのない方からしたら負担なので」
臨時情報で日頃からの備えを確認することが呼び掛けられましたが、意外と見落としがちなのがこうした衛生用品。断水で衛生環境が整わないと免疫の低下などを招き体調を崩すリスクもあります。
そこで、一度お試しで使って自分に合ったグッズを見つけて欲しいと1日分のセットにしたとのことです。
場所は変わって伊方町。九州からの観光客などで賑わうこちらの施設。地震発生当時は夏休み期間中ということもあり、100人以上が店内にいたと言います。
佐田岬はなはな 佐々木伊津子支配人:
Q津波注意報で館内の様子は?
「館内のあちこちで客の携帯アラームが鳴り始めた。客自身もビックリするし私たちもあわてた」
最大13.7mの津波が予想されているこちらの施設。
佐々木さん:
「津波注意報や臨時情報が出たことで、私たち自身の考え方を変えていかないといけないなというきっかけになった」
観光客や従業員の安全をより確実に確保するため、すでに用意していた避難計画のブラッシュアップを始めました。
佐々木さん:
「あの山の上に鉄筋の建物がある。あれが三崎高校。あそこに向かって一番は客を誘導していく」
このほかにも、集落の奥にある高台が避難場所に指定されています。そのうちの1つを歩いてみると。
佐々木さん:
「細い路地がすごく多い。なかなか、一般の方では(難しい)」
白石アナ:
「けっこう道幅も狭くなっている」
佐々木さん:
「倒壊していたり、通りにくかったり、車が停まっていたりすることは想定される」
伊方町では広い範囲が土砂災害の危険箇所に指定され狭い道も多いため、100人を超えるお客や従業員を避難させるにはどのルートも不安要素が残ります。
佐々木さん:
「これはもう私たちだけじゃなく、どの施設も抱える問題。海沿いにある施設はそういう問題なんだろうなと。みんなで知恵を出し合いながらお客さんの安全、従業員の安全 自分たちの安全っていうのを守っていくというのがみんなと議論をしていかないと いけない」
観光や仕事などで普段と違う場所にいる人をどう守るべきなのか。津波から命を守る研究を進める東北大学の今村文彦教授に聞きました。
東北大学 今村文彦教授:
「複数経路を確認しておくと、人数・状況によって違う経路もご案内できるように、また住民や関係者も(避難場所を)ひとつに絞らないということも大切」
地震の揺れによって建物の倒壊や液状化、土砂災害が発生しているおそれもあるため、事前に実際に歩いてみて危険な場所がないか確認しておくことが大切だと話します。
さらに…
「突然の(災害)、また多数の方がいる場合、誘導は極めて難しいが、事前にハザードマップまたは看板、来た時に目につくような情報提供をできるだけやっておく。自主的に避難行動などをとってもらえるように」
その参考になるのが、山形県酒田市が作っているパンフレットだと言います。観光客にもわかりやすく避難ルートや気を付けるポイントが書かれています。
「飛島に行く場合は必ずフェリーに乗る。その際に船の安全ビデオのあとに避難の防災の啓発のビデオを見ていただく。必ず見ていただき、手元にはパンフレットがあって周知という面ではとても実は有効な状況になる」
海沿いの観光資源も多い愛媛県。土地勘のない人が道に迷うことで避難が遅れたり情報がなくパニックになったりしないように、分かりやすいアプローチを検討していくことが大切だと言います。
佐田岬はなはなのスタッフがこの日、向かったのは…
佐々木さん:
「距離的には短いんよね。急角度だけど」
スタッフ:
「高いところにはなるので」
より安全に、分かりやすく避難できるポイントを実際に歩いて探します。
施設のすぐ近くの坂道を登ってみると…
スタッフ:
「雨が無い、土砂災害が無い前提で一番早く高いところにってなったら、ここだと思います。農道も行ければ、ある程度向こうまで逃がせられるので」
スタッフ:「ほんと、崩れてなかったら、ここが一番」
佐々木さん:「ここが一番早くて。車の無い客だったら、こっち向いて」
スタッフ:「人間だけ避難して」
佐々木さん:「間違いない」
スタッフ::「避難は出来る」
「佐田岬はなはな」では今後、スタッフによる誘導方法なども検討し安心して楽しんでもらえる施設を目指していくということです。
佐々木さん:
「常に自分たちの危機意識というものをバージョンアップし、新しく変えていかないと追いついていかない状況がこれから来るのかなと思っている。他人事ではないというのが一番。来てもらった客の安心と安全をどう守っていくかというのは、私だけではなくて一緒に働く従業員も肝に銘じて、日頃仕事をしていくということが、一つ大事なことだと改めて感じた」